俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
 その後ブランチを食べてから二人でソファに座り、それぞれ雑誌やテレビを見ていると結婚式場のCMが流れた。
 「結婚式の事は考えてるか?前も言った通り、披露宴は昨日みたいな感じになると思うけど、挙式は絆音の理想を叶えたい」
 「...正直、私はあまりこだわりがなくて...。翔さんはどんな式がいいですか?」
 婚姻届を提出した時にも聞かれたけれど、元々結婚願望もなかった私はもちろん理想の式など考えた事もなかった。
 「俺は絆音のウェディングドレス姿が見れたらそれでいい。あ、でも昨日の着物も良かったから和装もいいな」
 和装かぁ...確かに翔さんの和装姿は見たいかも...。でも王道のタキシードも見てみたいし...
 「...チャペルも素敵ですけど、翔さんは和装が似合う気がします」
 「絆音が望むなら何でも着るけど、本当に自分の理想がないんだな。イメージがわかないなら式場の見学でも行くか?」
 「...そうですね、このままだと決められない気がします」
 「じゃあいくつかピックアップしておくよ。絆音が見たい場所も考えておいて」
 「はい、ありがとうございます」
 その後ものんびりとテレビをみたり式場を検索してみたり、パーティーの準備で最近は忙しかったので久しぶりに二人でゆっくりと過ごした。

 週明けいつものように出社すると、たくさんの人に「おめでとうございます」と声をかけられ、結婚を公にした事実を実感する。
 社内にも副社長のファンはたくさんいる為、他のフロアに行くのが少し怖かったけれど、想像以上に好意的な声をかけて下さる方が多いことにほっと胸を撫で下ろした。
 ロビーに降りた時は、すごい勢いで興奮気味の藍田さんが近づいてきて驚いたけれど...
 「もうめちゃくちゃ萌えました〜!推しの二人が結婚なんて...!私はずっと前から二人はお似合いだと思っていたので本当嬉しいです!おめでとうございます!」
 と私の両手を握る彼女の熱い祝福の言葉は素直に嬉しかった。
 そして彼の結婚は業界内だけでなく、"イケメン過ぎる副社長"と話題になったネット上でも再び拡散され、多くの人が知ることとなった。
 そのため、しばらくの間は外出先でも必ずその話題から始まるほど周知の事実となっていて、彼の影響力の大きさに改めて驚かされる。
 でも、何気なくSNSを見てみると結婚相手を詮索する様な記事が多く目についた。
 私の名前は出ていなかったけれど、秘書をしている女性ではないかなどと書かれているものもあり、自分の知らない所で色々と調べられているのかと思うと少し寒気がした。

 そんな書き込みを見てから数日後。
 朝から長い会議がある彼にコーヒーを入れて副社長室に入ると、そこには社長と山内さんの姿もあった。
 その上どこか張り詰めた空気に何かあったのかと彼を見ると「絆音...これ見てくれ」と神妙な面持ちでタブレットを手渡される。
 どうやら画面はネットニュースの記事のよう。それに目を通すと"イケメン過ぎる副社長の結婚相手は幼馴染の年下秘書"という見出しから始まっている。
 彼と私が幼馴染だという事もなぜ分かったのか疑問だったけれど、それ以上にそこに書かれていた文章は理解が出来ないものだった。
 "結婚相手の女性秘書は、二十二年前に起きた未解決事件の被害者夫婦の娘"
 これは、私の事...? 未解決事件って...?
 「今朝からネット上で掲載されているようです。発信元は週刊文芸という過激なゴシップネタも扱う出版社のようで...」
 山内さんの説明だと、たまたま今朝このニュースを見つけ出版社に問い合わせたけれど、担当者が不在だと言われ何も聞くことが出来なかったそう。
 「絆音ちゃん、まずこれが事実なのかどうか分かるかい?」
 「...いえ、分かりません。両親は事故で亡くなったとしか...」
 「辛い事を思い出させてしまって悪かったね。勝手にこんな記事を載せて、この出版社はどういうつもりなんだ...場合によっては法的措置も検討しなくては」
 社長が呆れと怒りを含んだ声で低い呟く中、翔さんは私のそばに来て肩を抱く。
 「大丈夫か?悪かったな、朝から嫌な思いをさせて。すぐに掲載を取り消してもらうが、一度ネット上にあがった物を全て削除する事は難しい。会社としての対応を決めるためにも、お前にも見てもらう必要があると思ったんだ」
 「分かっています。ただ、私にも事実かどうかは...」
 「分かってる、それ以上考えなくていい。信憑性のない記事に振り回される必要はないよ」
 社長と山内さんが退出したあと、私も秘書室に戻ろうとすると腕を引かれて優しく抱きしめられた。
 「絆音、今日はこの部屋にいてくれ。じゃないと心配で仕事が手につかない」
 「...私は大丈夫です。でも、会社にご迷惑を...」
 「お前は何も悪くないんだからそんな事気にしなくていい。俺はこれから昼前まで会議だが、頼むからここにいてくれ」
 「...はい。でも...もしも、あれが事件だったとしたら...んっ」
 俯いた私の頬を両手で挟んでグッと上を向かせると、容赦ない唇が落ちてくる。突然の息を継ぐ間もないキスに戸惑っていると、散々口内を撫で回したあとで舌を吸い上げちゅっと湿った音をたてて離れる。
 はぁはぁと肩で息をする私に、彼は鋭い眼差しを向けた。
 「何も考えるなと言っただろう?とにかく今日はここにいろ。外には出るなよ」
 そう言って、私が差し出したハンカチでグロスが着いた口元を拭うと一気にコーヒーを飲み干し部屋を出て行った。
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