俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
 バタンっと音を立てて扉が閉まると、シーンと静寂に包まれる。
 考えるなって言われても...あんな記事を見てしまったら、気になって仕方ない。
 だって、もしもあれが事件だったのだとしたら、両親は誰かに殺されたということ...?でも、どうして...?
 いや、まだそうと決まった訳じゃないし、彼の言う通り嘘かもしれない記事に踊らされるなんて嫌だ。
 キスをした時のまま立ち尽くしていた私は、ようやく我にかえり仕事を始めた。
 言いつけ通り副社長室で仕事をして、必要な物を取りに行く以外はずっと彼の近くにいた。
 だけど、夕方からの外出の予定に合わせて作業を切り上げようとすると「お前はここに残れ」と言われてしまう。
 「...え?でも、十六時からの予定は...」
 「それは山内に同行してもらうことにした。だから俺が戻るまでここにいろ」
 「...どうしてですか?私は翔さんの妻ですけど、副社長の秘書です!...私がいると面倒ですか?」
 「違うよ、とにかく今日は会社に残れ」
 「...私が同行すると迷惑ですか?」
 「絆音」
 「殺人事件の被害者の娘かもしれないから?」
 「絆音!それ以上言うと怒るぞ?」
 「...秘書室で仕事しています」
 「おい、絆音!」
 追いかけてくる副社長から逃げ秘書室に入ると、他の人もいる為彼も何も言えなくなる。ため息をつきながら戻っていく姿を見ないふりをした。

 その後終業時間まで秘書室で仕事をして、彼が迎えに来ても意地を張ったままの私は素直に一緒に帰りたくなくて、作業が終わらないフリをする。
 「先に帰っていて下さい。私は電車で帰ります」
 「そんな事を俺が許すと思うのか?」
 「電車に乗るのに副社長の許可がいるんですか?」
 「ああ、妻の安全を守るのも夫の義務だ」
 「でもまだ仕事が残っているので帰れません」
 「それは急ぎの案件じゃない。明日以降で十分だ」
 「ペース配分は私が決めます」
 「いいからすぐ片付けろ。車で待ってるからな」
 痺れを切らした様子の彼はそう言いながら私のカバンを掴んで行ってしまう。
 「あっ、待ってください!」
 もちろん彼が足を止める気配はなく、スマホやお財布なども全てカバンの中の私は、電車で帰る事を諦め仕方なく片付け始めた。 
 直通のエレベーターで駐車場へ降り、車に近づくと彼は運転席から降りてくる。
 頭では分かっていても、勝手に仕事を変更された事や行動を制限された事にまだ拗ねている私は唇を尖らせてしまう。
 アクセルを踏んでからも黙ったままで、マンションまでの道のりはただ通り過ぎる景色をぼーっと眺めていた。
 到着してからもお互いに言葉もなく、車を降りて部屋へ入ると私は着替えてキッチンに立つ。
 スープを作ってお肉や野菜を焼いてご飯をよそう。二人でテーブルについてからも「いただきます」と「ごちそうさま」以外に言葉はない。
 片付けをしていつものように順番にお風呂に入り、お互いただ黙ってルーティーンをこなしているだけで翔さんの感情は読めない。
 怒っているのか、まだ拗ねている私に呆れているのか。どちらでもないのか。

 私もモヤモヤした気持ちを抱えたままお湯に浸かりリビングに戻ると、ソファに座っている彼は「絆音」と名前を呼び右手を私に向かって伸ばす。
 ...これはいつも膝に乗って欲しい時にする仕草。
 でも、未だ素直になれずドアの前で立ちすくんでいると、彼は少し悲しそうな顔をしたあと手を降ろした。
 その表情に、ズキっと胸が痛む。私は...彼を悲しませたい訳じゃない...
 このままではダメだと思い直し、彼に近づき膝に座ってぎゅっと抱きつくと強く抱きしめてくれた。
 「絆音...俺が悪かった。許してくれるか?」
 「...私も、ごめんなさい。でも置いていかれたのは悲しかったし、考えるなって言われても気になります...」
 「絆音は謝る必要ない。心配だから安全な所にいて欲しかった。辛い記憶は、もう思い出して欲しくなかったんだ...」
 「分かっています、翔さんが私の為を思ってくれたことは...」
 「強引だったし、言葉が足りなかった俺が悪い」
 「あと、会社であんなキスは禁止です...」
 「そうだな、もっと欲しくなっちゃうからな」
 「そ、そういうことじゃ...」
 「分かったよ、ごめん。もうしないから、許してくれる?」
 いつも自信に満ち溢れた強気な瞳は、今は不安そうに揺れている。許しを乞うような表情に、いつもとのギャップに思わずドキッとした。
 「...はい」
 「ありがとう、絆音」
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