俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
 しばらく抱きしめ合った後、身体を離しゆっくりとソファへ降ろされる。
 「なぁ、絆音は本当の事が知りたいか?」
 「翔さんは何か知っているんですか...?」
 「...いや、あの後出版社に問い合わせて記事は削除してもらったが、担当者がいないの一点張りで詳しい事は聞けなかった」
 「でも、もしも本当に事件だったら会社にも翔さんにもご迷惑をおかけすることに...。イメージダウンは避けられないし、結婚自体が...」
 「絆音、勘違いしないでくれ。俺はお前を愛しているから結婚したんだ。事実を知りたいかと聞いたのも会社の為じゃない、絆音の気持ちが知りたかっただけだ。それに、もし事件だったとしても会社にも結婚にも何の影響もない。何も変わらないだろう?」
 「...はい」 
 でも、これだけ世間から注目された大きな会社の副社長が一般人の秘書と結婚したというだけでも釣り合わないのに、その上事件の被害者だと知れたら...。
 やはりどうしてもイメージは悪くなるのではないかと思ってしまう。
 会社にとってイメージダウンは大きな痛手になりかねない。私個人のことで会社や堂上家に迷惑をかけることになるなんて...絶対に嫌だ。
 「今余計な事考えてるだろ?」
 「え?」
 「もう何も考えるなとは言わないけど、あまり思い悩むな。もしも何かあっても俺が必ず何とかするし、必ず守る。だからそんな顔しないでくれ」
 無意識に眉間に皺がよっていたようで、そっと頬を撫でられ額にキスされた。
 「今日はもう寝よう。余計な事ばかり考えて眠れないようなら、何も考えられなくしてやるけど?」
 「...だ、大丈夫です。多分...」 
 そうは言ったものの、ベッドに入ってもなかなか寝付けなかった私をグズグズに甘やかすように優しく愛してくれて、頭が真っ白なまま眠りに落ちていた。

 それから数日後、やはり記事を削除しても完全に消えたわけではなく、ネット上でじわじわと拡散され話題になり始めていた。
 SNSなどを見てみると、話題になっているのは私の事。いつの間にかI・Yさんとイニシャルも書かれていて少し怖くなった。
 そんな中、秘書課で届いた郵便物の仕分けをしていると大きな封筒が一際目につく。ずっしりと重さもあり何だろう?と宛名を見ると、そこには"副社長秘書 雪原様"と書かれている。
 私宛に郵便物が届くことなど滅多になく、なんとなく嫌な予感がして山内さんに相談すると代わりに封筒を開けて下さった。
 中に入っていたのは一冊の週刊誌。
 あのネット記事を載せた出版社のもので、おそらく紙面版ということなのだろう。よく見ると、発売日は明日の日付になっている。
 「とりあえず社長と副社長にも相談しましょう」
 「その前に、中を確認してもいいですか?」
 「...大丈夫ですか?」
 心配そうにして下さる山内さんから雑誌を受け取り、付箋が貼られていたページを開けば、見開き一ページを使い大きく記事が載っていた。
 タイトルはネット記事とほとんど同じだけど、より詳しい内容と私たちを隠し撮りした写真が数枚。
 ホテルのロビーにいる所、タクシーに乗り込む所、車内で私が翔さんの肩にもたれている所など、全てあのパーティーの日に撮影された写真だった。
 「これ、隠し撮り...。パーティーの日に外で待ち伏せされていたようですね」
 「そんな...全く気がつきませんでした...」
 そして記事の内容を目で追っていくと、そのパーティーでのことやその後の私達の行動を書いてあるのが半分。もう半分にはあの事件のことが書かれている。
 その内容によると、二十二年前にオーストリアで起きた日本人夫婦が殺害された事件は、犯人が捕まらず未解決のまま。
 その日は土砂降りだった事もあり、当初は視界不良の為運転操作を誤り建物に衝突した事故だと思われていたが、車を詳しく調べたところブレーキに細工された形跡が見つかったそう。
 そして運転席と助手席に座っていた夫婦は亡くなったが、後部座席に座っていた幼い娘は一命を取り留めた。それがイケメン過ぎると今話題の副社長と結婚した秘書である、と。
 どうやら事件のことはそれ以上は分かっていないらしく、その後に続く文章は幼馴染である事を利用して私が彼に取り入ったようなことと、突然の結婚発表にも何か裏があるのではないかと詮索するような悪意が感じられるものだった。
 隣で文字を目で追っていた山内さんも「これは酷いですね」と怒りを滲ませている。
 「...こんな記事が世に出てしまったら、確実に会社のイメージダウンは避けられません。私のせいで、社長にも副社長にもご迷惑を...」
 「雪原さんのせいではありません。とにかく、お二人に報告し今後の対応を協議しましょう」
 「...はい」

 私は雑誌を抱えたまま副社長室の前まで行き、何度か深呼吸を繰り返す。
 こんな大事になってしまって...私はどうしたら...。この間から少し考えてはいたけれど、やっぱりこれ以上迷惑をかけない方法は...一つしか思いつかない。
 ドアをノックし中へ入ると、何も言わない私の方をちらっとみて彼は動きを止める。抱えている物に気づいたようでこちらへ近づきそれを手にすると、付箋がついたページをめくる。
 「これ...」そう呟いたきり内容を読み始めた彼は次第に顔を顰め、読み終えると同時に雑誌をデスクにバサっと放ると恐ろしいほど低い声で私に言う。
 「今すぐ顧問弁護士に連絡しろ」
 「え?」
 「名誉毀損で訴える」
 「...ですが、これ以上騒ぎを大きくするのは...」
 「お前は何も心配するな、必ず俺が何とかする。片付けたらここで待ってろ」
 そう言いながら出て行く彼の背中を見つめ、これからどうするべきかを考えていた。
 あの記事が全て事実ではなかったとしても、私がこのまま彼の秘書を務めるのはどう考えても印象が悪い。
 私のせいで彼や会社のイメージまで悪くなってしまうなんて耐えられない...
 秘書室に戻ると、パソコンを開き思いつくこと全てを打ち込み引き継ぎ書を作った。彼の行動パターンや好み、細かいことまで様々なことを書きとめたメモ帳もそのまま渡せば、おそらく引き継ぎは問題ないだろう。
 後は...。
 私用に使う事は良くないけれど、一枚だけ用紙をプリントアウトさせてもらった。
 離婚届。スピード離婚もイメージは良くないかもしれないけれど、この記事で騙されていた事を知ったとなれば世間は納得し彼に同情するだろう。
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