俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
 話ってなんだろう...社長達との話し合いはかなり長かったみたいだし、どんな結論に至ったのかな...。
 でも、今出来る限りの事はしてきたし、覚悟を決めないと...
 「覗いてごめんね?つい気になっちゃって」
 彼が帰った後も玄関にぼんやりと立ったままだった私を、伯母さんがそう言いながら背中を押してソファへと誘導してくれる。
 「でもラブラブじゃない!翔くんは絆音ちゃんが心配でたまらないって顔していたわよ?」
 「...でも、私が彼の近くにいると、迷惑をかけちゃうから...」
 「え?どうして?」
 全てを話そうか迷ったけれど、まだ何も決まっていないし明日の彼の話も分からないままで、曖昧に伝えるのも違う気がして言い淀んだ。
 「無理には聞かないわ。でも、ちゃんと翔くんと話すのよ?」
 「...うん、ありがとう」
 部屋に戻りベッドに入ってからも、様々な事が頭に浮かびなかなか眠れなかった。
 それに、毛布を被ってもいつまで経っても身体が温まらない。
 そっか...いつもは冷え性な私を翔さんが抱きしめて温めてくれていたんだ...
 彼の少し高い体温とそれに包まれる安心感、大好きな柑橘系の香り...。
 思い出すと胸がぎゅっと掴まれたように痛い。
 でも、きっともう忘れないといけない...そう思うとポタポタと涙が零れ落ち枕が冷たくなっていく。
 彼の優しい笑顔も頭を撫でてくれる温かい手も、心地よく響く少し低い声も、愛おしさが込められた甘やかすような瞳も全部大好きで、私は今まで彼にすごく大きな幸せを貰っていたんだと気付かされる。
 私は...何か返せていたかな... 翔さんは、私といて幸せだったかな...
 そんな事を考えては寝返りをうち、気づけば窓の外は白み始めていた。

 結局ほとんど眠れないまま起きて、少し腫れた目を誤魔化すようにいつもよりしっかりメイクをした。
 仕事はいつも通りにこなしつつ、出来る限り先の仕事まで終わらせておこうとお昼も食べずにずっと秘書室で仕事をしていた。
 夕方、常備してあるゼリー飲料を取り出そうとすると机にサンドイッチが置かれた。驚いて振り返れば副社長が立っていて「昼食べてないんだろう?そんなの飲むならこれ食べろ」とゼリー飲料を手から抜かれる。
 「あ...すみません、ありがとうございます」
 すぐに出て行った彼の背中にそう言って、それを食べながら少しだけ休憩することにした。
 そういえば昨日の雑誌が発売されたのは今朝のはず。
 恐る恐るSNSを開いてみると、昨日までとは明らかに様子が違っていた。
 遡って読んでいくと、やはりあの記事の事が書き込まれ写真も貼られている。
 そして彼に同情する声も多数ある中、多く書き込まれているのはやはり私に対する中傷の言葉。
 こうなる事は分かっていたし、彼のイメージが悪くならなくて良かったと思う反面、"海外で殺されるなんてよっぽど親は恨まれていたんだな" "実は何かの事件を起こした容疑者で海外に逃げていたとか?" "事故に見せかけて殺されるような親の子どもだから、きっと同じようなやつなんだろう" などと、私の両親を辛辣な言葉で否定されているのは見ていられなかった。
 少しずつ血の気が引いていくような感覚がして、サンドイッチも結局ほとんど手をつけられずに戻った。
 そして、十七時を過ぎた頃から頻繁に電話が鳴るようになり、とった人は皆一様に「事実確認が取れておりませんので今は何もお答えできません」と受話器を置く。
 嫌な予感がして、次にかかってきた電話を私が取るとやはりあの記事について確認する内容だった。
 私も同じフレーズを言い受話器を戻すと、他の方達の視線を感じ「ご迷惑をおかけしてすみません」と頭を下げた。
 こうなる事は予想していたとは言え申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
 それに、私も事実かどうかが分からない為何も言えない。
 でも...やっぱりこうなってしまったからには、私はもう彼の秘書でも妻でもいられない。
 今朝早くまだ誰も出社していない時に、昨日作成した引き継ぎ書をプリントアウトし、退職願と離婚届をセットにして引き出しに用意しておいた。
 山内さんが戻ったら、これを提出しよう。
 今のうちに私物もまとめておこうと、机の上やロッカーの中も片付けた。

 そして彼が戻ったのは終業時間を迎えたあと。
 もう他の方は帰宅し秘書室には誰もいなかったので、その場で用意しておいた物を手渡した。
 「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。これ、よろしくお願いします」
 「...待ってください、どうしてこんな物を?受け取れません」
 「すみません、お手数をおかけしますがよろしくお願いします。大変お世話になりました、本当にありがとうございました」
 彼の言葉を無視して一方的に頭を下げ部屋を飛び出した。
 「雪原さん!あなたが突然居なくなったら、副社長はどんな思いをされるか考えましたか?」
 「...他の方でも彼の秘書は務まります。私個人のせいで彼にも会社にも多大なご迷惑をおかけしてしまったんです。もうここには居られません、すみません」
 そのまま階段を駆け下り会社の外へ出た所でスマホが鳴った。
 翔さんかもしれないとドキッとしたけれど、画面に表示されているのは晴くんの名前。一度切れても再び鳴り続けるスマホを躊躇いながらもタップすると、予想通り大きな声が響いた。
 「絆音!今どこにいる?まだ会社か?」
 「...今ちょうど外に出たところ」
 「翔は?一緒か?」
 「...ううん、まだ仕事してると思う」
 「じゃあタクシー拾って今すぐ家に来い、話がある」
 話...そういえば、昨日翔さんにもそう言われていたんだった。聞く前に逃げてしまった自分の卑怯さにうんざりすると共に、彼との約束を破ったことに罪悪感を感じながらもタクシーに乗り込んだ。
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