俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
 どんな内容なのか検討もつかず少し怖いけれど、興味の方が勝りこくんと頷いた。
 「まず、昔の日本に財閥と呼ばれる存在があったことは知っているか?」
 「うん、今は解体されているけどその一族の名前がついた会社が今でもあるって事くらいは...」
 「そう、その中でも特に規模の大きかった三大財閥の一つに一条グループというのがある。その総帥である一条 重明が、俺たちの祖父なんだよ」
 「...え?財閥の、総帥...?」
 一条グループといえば、金融や不動産をはじめ電子工学系や病院まで幅広く事業を経営する巨大企業。よくCMでも流れるし、もはや知らない人などいないと言えるほど有名だ。
 「俺も初めて聞いた時は驚いたし信じられない気持ちだったよ。それに、その妻 一条 愛子はつまり祖母だが、彼女は華道家として有名で、桜月という名前で今は海外で活動している」
 桜月って...華道に詳しくない私でもその名前は知っている。確か、日本の伝統的な技法を守りながらも現代的な要素も取り入れた新たな流派を世界に広めた第一人者だと聞いたことがある...。
 思いもよらない事実に混乱し頭が処理出来ず黙っている私に、晴くんは諭すように続ける。
 「お前の混乱はよく分かるよ。でも、有名な人物だったとしてもなぜ俺たちは一度も会ったことがないのか、それが疑問だろう?」
 「う、うん。今もご存命なのに、どうして...」
 「母さんの話だと、大学卒業と同時に見合いをして結婚させられる予定だったらしい。ただ、二人ともそれぞれ恋人がいた為それを拒否した。もしもその相手と結婚するなら、一条家とは縁を切れと言われたそうだ」
 「そ、そうだったの...?だから、お母さんも伯母さんも...?」
 「昔から厳しい家庭環境に縛られていた二人は我慢の限界に達し、揃って縁を切り一条家を出てそれぞれ結婚した。だがこの話には続きがあって、家を出てしばらくしてから知ったそうだが、大財閥が故に危険な目にあう事や命を狙われるような事もゼロではなかったらしい。二人が家を出た頃も、実は過激な団体に放火される事や窓を破られ危険物を投げ込まれたり車をぶつけられたりする事が何度もあって、もしかしたら両親は二人を危険な目にあわせない為に縁を切らせたのかもしれないと、母さんはそう言っていたよ」
 「そ、そんな...」
 「だが、縁を切ったとしても調べれば娘がいる事くらい簡単に分かるはずだし、その二人を狙えば最高の脅しになるだろう?だから、もしも絆音の両親が事件に巻き込まれたのなら、その事と繋がりがあるんじゃないかと俺は思ったんだよ」
 「...本当に、そんな事が...?」
 「まずは明日実家に行って父さんと母さんに知っている事がないか聞くのが早いんじゃないか?」
 「そうだね...明日行ってみる」
 「俺も明日は午後からだから一緒に行くよ。あとは翔に任せておけば大丈夫だ」
 「...翔さんに?でも、私はもう...」
 「絆音、翔のことが嫌いになった訳じゃないんだろう?だったら逃げずに向き合ってこい、話も聞かずに逃げるのはフェアじゃない。どうせ退職願も離婚届ももうないだろうしな」
 「...そう、だけど...」
 「まぁ、とりあえず色々落ち着くまではここに居ろよ。そのうちに迎えが来るだろうから」
 「...ありがとう。ごめんね、晴くんも巻き込んじゃって...」
 「家族なんだから遠慮なんか要らないよ。ほら、疲れた顔してるし早くシャワー浴びて寝なさい」

 お言葉に甘えてゲストルームに泊めてもらう事になり、ベッドに入りスマホを見ると新たに翔さんからメッセージが届いていた。
 "必ず迎えに行くから晴臣の所で待っててくれ。それから、俺の妻も秘書もお前にしか務まらないってことだけは覚えておけ"
 翔さん...。晴くんの言う通り一方的に逃げてきたのは良くなかったけど...でも、彼の重荷にはなりたくなかった。
 秘書になってからずっと、副社長に迷惑をかける事だけはしないと常に強く思っていた。
 これから年末にかけて忙しい事は分かっているし、突然辞めることも迷惑にはなるけど、でも...。
 私はいない方が絶対に良い。
 
 翌日、晴くんと共に実家に帰ると二人ともお仕事は午後からだったようで在宅していた。
 「あら、珍しいわね。二人揃って帰って来るなんて。...絆音ちゃん、今日お仕事は?」
 「母さん達に話があって来たんだよ。な?絆音」
 「う、うん。実はね...」
 晴くんが持ってきた雑誌を見せ、これまでの事や会社をやめて離婚届を渡した事も全て二人に打ち明けた。
 記事を読み終わっても複雑な顔をしたまま視線を落としている二人に「絆音は本当の事が知りたいって。ちなみに母さんの両親の事は昨日話したよ、もう絆音も大人だからいいと思ってね」と言う晴くんの言葉で、伯母さんはハッとしたように顔を上げた。
 「ごめんね、絆音ちゃん。騙していたつもりはないの。ただ、私ももう縁を切っているから一条家との繋がりはないし、子どもの二人が知る必要はないと思って...」
 「母さんも二人を守りたかったんだよ。黙っていたのは、もしもその事を誰かに話してしまって危険な事に巻き込まれないようにと。二人にはあえて伝えなかったんだ」
 「驚いたけど、二人の気持ちは分かっているから。私はただ、お母さん達の事故のことを、本当の事を知りたいだけなの...」
 「俺達は一条家の存在を隠していた事には今更何も思ってないよ。ただ、絆音の両親の事は事故だと聞いていたけど、俺たちが子どもだったからそう言ってくれたのか本当の所はどうなのか知りたいんだ。絆音ももう大人だし、知る権利があるだろ?」
 伯父さんと伯母さんは顔を見合わせてから頷き、私を真っ直ぐに見てくれた。
 「...そうね、私達が知っている事は全て話すわ」
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