俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
翔side
 十二月に入り、すっかり空気は冷え都心も雪が降りそうなほど寒い。
 絆音もいない真っ暗で冷え切った部屋に帰るのが億劫になり会社に泊まることが増えてきた頃、待ち望んだ知らせが入った。
 先日一条夫妻が帰国ししばらくは日本に居るそうだと、じいさんの知人から連絡が来たのだ。
 そして、会って話をさせて欲しいと伝えてもらうと、屋敷で待っていると返事がきたらしい。
 まさか二つ返事で承諾してもらえるとは思っていなかったが、やはり俺の事も調査済みなのだろう...。
 その事を晴臣に話すと「俺も行く」と言うので、仕事の後二人で教えてもらった住所へタクシーで向かうと、到底住居とは思えない建物の前に着いた。
 「...ここか?」
 「...らしいな。豪邸だろうとは思っていたが、ここまでとは...」
 タクシーを降り大きな門の前でしばし立ち尽くしていると、門の向こうからスーツをきた七十代くらいの男性が歩いてくるのが見えた。
 彼はリモコンを操作して門を開けるとこちらへ近づき「堂上様ですね、お待ちしておりました」と綺麗なお辞儀をする。
 そして顔を上げると「失礼ですが、お連れ様は?」と晴臣の方を見る。
 「風戸晴臣と申します」
 それだけを言うと、その執事のような男性はハッと目を見開き「朝香様の...?」と驚いたようにじっと見つめている。
 「はい、一条朝香の息子です。突然の訪問で申し訳ありませんが、私も同席させて頂いてよろしいですか?」
 「...旦那様と奥様に確認して参ります。お待ちください」と玄関へ案内されたが、一歩敷地へ踏み入れるとそこはまるで別世界のようだった。
 都心の一等地にそびえる高い塀に囲われた広大な敷地内は、綺麗に手入れされた日本庭園がどこまでも広がっている。
 そこを数分歩くとやっと玄関に到着したが、まるで重要文化財のような立派な邸宅に思わず足が止まった。
 「...すごいな。どれだけの敷地面積があるんだ...?」
 「さすが一条グループ総帥の邸宅だな...」
 小声でそんな話をしながら待っていると、先ほどの男性が戻ってきた。
 「お二人とも晴臣様にもお会いしたいと仰っております、こちらへどうぞ。私は朝香様がこの屋敷にいらっしゃる頃から執事をさせて頂いている神坂と申します」
 彼の案内で豪邸を見学しながら進むと、一つの扉の前で止まる。
 「どうぞ」と促され、いよいよかとごくりと息をのみ緊張から少し悴んだ手でその扉を開けた。

 広々とした和室の中には、和服を纏った柔和な笑みを浮かべた女性と腕を組み目を伏せた男性が座っている。
 この人たちが、絆音のおじいちゃんとおばあちゃん...
 そう思いながら二人の前へ座ると、やはり視線は初めて対面する孫の晴臣へ集中している。ちらっと彼を見れば、同じく興味深そうな眼差しで見つめ合っていた。
 しばらくの沈黙が落ち、扉がノックされお茶が運ばれてきた。
 抹茶と上品な和菓子が並べられた後、改めて挨拶をさせてもらうと二人はゆっくり頷く。
 「お二人ともわざわざご足労頂いて。私達にお話があると聞きましたが、ご用件をお伺いしても?」
 柔和な笑みのまま問われ、改めて姿勢を正しまずは彼女と結婚した事を報告し、今回の週刊誌の件について話をした。
 そして彼女を傷つけてしまった事を謝罪した上で、絆音と一条家との繋がりを公表させてもらえないかと本題を切り出す。 
 すると二人は週刊誌の事までは把握していなかったようで「そうでしたか...そんな事が...」と落ち込んだ様に俯いてしまう。
 再びの沈黙を破り「一つ聞いてもいいですか?」と晴臣が尋ねると、二人はそっと視線を上げた。
 「母さん達と縁を切ったのは何故ですか?」
 するとここまで黙っていた総帥が重い口を開くように、ゆっくりと話しだす。
 「...二人が、見合いを断ったから...というのは建前だ。私達が、わざとそう仕向けた」
 「では、やはり二人を守るために...?」
 「...結果は伴わなかった。結局は、清香を失う事になり、私達の存在が今度は孫娘まで苦しめている」
 「私達はもう、朝香やあなた達にあわせる顔はないと思っていました...」
 「ですが、お二人は毎年清香さんのお墓にお参りされていますよね?」
 「...どうして、それを?」
 「今年の命日は、私もお墓参りに同行させて頂きました。その際、ロールス・ロイスの珍しい車とすれ違ったんです。玄関の外に同じ車がありました」
 「...そうでしたか」

 正直、お墓参りをしているのが彼らだという決定的な証拠はなく半信半疑だった。
 だが、玄関横の車庫にあの時と同じ車を見つけ確信した。
 やはり、お二人はずっと娘達の事を大切に思っていたという事だ。
 言葉少なに俯く二人に晴臣は「今からでも、復縁する事は考えていませんか?」と続ける。
 「...本当は、私達もずっとあなた達に会いたくてたまらなかったのですよ?ですが、先ほども申した通り、あなた達まで危険な目に晒す事など出来ません。晴臣さん、本当はあなたにも会うべきではなかったと思います。でも、嬉しくて...どうしても会いたかったんです。勝手でごめんなさい」そう言うと二人は少し頭を下げ、立ちあがろうとする。
 「今、あなた達まで危険な目に晒す事は出来ないと仰いましたが、私は一条家との繋がりを公表する事は彼女を守る事になると思っています」
 「一条グループがバックについていると分かれば、絆音がこれ以上理不尽な目に遭うことも、両親の事件のことで誹謗中傷され苦しむこともなくなります」
 俺たちの言葉に二人は再び腰をおろしてくれたが、その表情は曇ったまま言葉を探しているよう。
 「...あの子が、それを望むとは思えない。一条の存在を、恨んでいるだろうに」
 「...絆音は、決して誰かを恨みながら生きてきた訳ではありません。両親を亡くし風戸家で暮らすようになってからも、彼女は幸せそうに笑っていました。人見知りで控えめで、でも心を許すと人懐っこくて可愛いくて、大人になった今でもいつも一生懸命で真面目で心配になるほど優しくてお人好しで...。
 ストーカーにあい怖い思いをしても、友人に裏切られ大怪我をさせられても、彼女は誰かを恨むわけではなく真っ直ぐにまた人を信じようとしていました。"絆音"という名前、人との繋がりは幸せに生きていく為にとても大切だと、ご両親はそう想いを込めてつけてくれたのだと誇らしそうに言っていました。その想いの通り、縁を切るのではなく繋げる事で彼女を守りたいんです。お願いします」
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