俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
快晴の空が広がるでしょう
 晴くんのマンションで暮らし始めて数週間が経ち、すっかりキッチンや家電の仕様にも慣れお掃除や料理も手際よく出来るようになってしまった。
 新しい部屋を探すにもお仕事を探すにも、今は十二月の年末という事もありどちらも思うように動けない。
 それに晴くんは翔さん以上にチェックが厳しく、どれもこれも思案している段階で全て一蹴されてしまう。
 そろそろ実家に帰ろうと思ってはいるけれど「いいからここに居ろ」と言ってくれるのでお言葉に甘えずるずると長居してしまっていた。

 そんな日々が続き、今日は晴くんが当直で美雨さんも遅番のため一人で夕食を済ませ自室でゲームをしていると、インターフォンの音が微かに聞こえた気がした。
 今は二十二時前。こんな時間に誰だろう...?と恐る恐る光っている画面を見ると、そこには翔さんの姿があった。
 「え...?どうして...」
 画面を見つめたまま動けずにいると消えてしまいハッとしたけれど、すぐにまた鳴り画面に彼が映る。
 その姿から、きっと彼は私が出るまで帰らないつもりだろう...そう思い、意を決して通話ボタンを押した。
 「...は、はい」
 「絆音か?晴臣に許可はとってある。開けてくれないか?」
 「...分かりました」
 解錠ボタンをおしてから急いで部屋に戻り、鏡の前で髪の毛を整えていると玄関のチャイムが鳴る。
 あんな風に逃げてきてしまい、今さらどんな顔をしたらいいのか分からない。
 でも、晴くんの言う通り話も聞かずに逃げるのは良くない...
 覚悟を決めてぎゅっと目を閉じたままグッと玄関のドアを開けると、すぐに彼の香りに包まれた。
 まだ離れて一ヶ月ほどなのに、なんだかすごく懐かしい感じがしてじわじわと涙が浮かんでくる。
 やっぱり私、翔さんの事が大好きなんだ...
 しばらくして身体が離されると、俯く私の頭にポンと温かい手が乗せられる。
 「絆音、元気にしてたか?」
 「...はい」
 顔を上げられずに小さい声でそう呟くと「見て欲しいものがある。あがってもいいか?」と顔を覗き込まれた。
 それでも目を合わせられずに視線を逸らしながらスリッパを用意し「どうぞ」とリビングへ案内した。
 温かい飲み物をいれようとしてキッチンへ向かうと「何もいらないから絆音もここに座って」と手を引かれソファに座る。
 すると彼はカバンから大きな封筒を出して、その中から数枚の紙を取り出し私の前に置く。
 「これ、読んでくれないか?」
 「...これは?」
 目の前に置かれた紙は、雑誌の見開きページのよう。
 そして大きな文字で"今話題のイケメン過ぎる副社長 独占インタビュー"と書かれている。
 翔さん個人の取材は全て断っていたのに、どうしてこんな事に...?
 そう思いながらも、書き出しから文字を目で追っていくと、さらにその内容に驚かされた。

 そこには、私達が結婚に至った経緯や私が一条グループトップの孫だという事、両親の事件の真相まで説明させている。
 さらに、幼馴染で子どもの頃からの知り合いだったにも関わらず知らないうちに私が一般試験で入社していた事、私の働く姿勢をみて自ら専属秘書に選んだ事、あることがきっかけでプロポーズし一年かけてやっと承諾してもらえた事などが彼の言葉で語られていた。
 そして、その後に続く内容を読んでいるとじわじわと顔が熱くなるのを感じ、思わず頬を両手で抑え彼を見上げた。
 すると翔さんは、私の目をじっと見つめたまま"奥様を好きになったきっかけと、魅力的だと思う所は?"というインタビューの最後の質問に答えた言葉を、彼の声で語り始める。
 「妻を好きになったのがいつかは分かりません。子どもの頃から少し控えめで人見知りな性格でしたが、僕には懐いてくれて可愛い笑顔でいつもニコニコしていた印象でした。大人になり近くで仕事をするようになってからは、細かい所まで気遣いが出来て誰よりも早く出勤して雑務をこなし僕を一生懸命にサポートしてくれる姿に気づけば惹かれていました。
 僕にとっては、彼女の全てが魅力的です。仕事中の凛とした姿もあどけない寝顔も、センスが良い所も心配になるほどお人好しな所も、料理が上手な所も純粋な心も、昔から変わらない可愛い笑顔も。全てを愛しています」
 スラスラと淀みなく紡がれる愛の言葉に、かぁっと耳まで真っ赤になっていくのが分かり、恥ずかしくて再び視線を逸らし俯く。
 「こ、これは、どういう事ですか...?」
 「これは明日発売予定の女性誌の一部だ」
 「女性誌...? 明日発売⁈」
 「ああ、目には目をってことだ」
 「...え?」
 「俺の最愛の妻を悪女のように書き連ねた永田とかいう記者も、それを鵜呑みにして誹謗中傷するやつらも俺は許さない。だから真実を分からせてやるんだよ、同じやり方でな。これはあの出版社から出ている女性誌で、売り上げはトップクラス。あんな週刊誌とは比べ物にならないほど影響力もある」
 晴くんが言っていた翔さんの策って、こういう事だったんだ...。でも、色々と疑問が多すぎて何から確認したら良いのか...
 「...あの、翔さんは、一条家との関係をご存知だったんですか...?それに、勝手に私が孫だと公表してしまっては...」
 「実は、結婚する前に挨拶をしたいと思って、勝手に悪いとは思ったんだが絆音の親族の事を少し調べた時に知ったんだ。俺も初めは信じられなかったけど、先日晴臣と会ってきた」
 「...え?会ってきたって...一条の祖父母に...?」
 「黙っていて悪かった。でも、どうしても一条との繋がりを公表する為には本人と話がしたかったんだ。伯父さんと伯母さんにも許可はとってある。それに、今はセキュリティや対策も万全だし、昔のように危険な目にあうことはないらしいが...絆音はやっぱり心配か?総帥の孫だと公表するのは」
 「伯父さんと伯母さんにも...?いえ、私は大丈夫ですけど...どんな方でしたか?」
 「愛に溢れた方達だったよ。大丈夫、きっと近いうちに会えるよ。お二人もそれを望んでいるようだしな」
 「...本当ですか?」
 「ああ、本当だよ。それから、もう一つ絆音に黙っていた事がある」
 「もう一つ...?」
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