俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
 「今年一緒に長野に行った時、毎年のように誰かが先にお墓参りをしていると言っていただろう?あれは一条夫婦だったんだよ。おそらく鉢合わせしないよう早朝に来ていたんだろうな」
 「え?お母さん達のお墓に...?」
 「お二人とも海外にいる事も多いようだから仕事の都合で毎年ではなかったのかもしれないが、ちゃんと絆音のご両親の事をずっと大切に想っていたんだよ」
 「そう、だったんですね。別荘を管理している方じゃなかったんだ...」
 「その別荘の管理人も分かったよ。俺も驚いたけど、玲の父親だったんだ。つまり俺の叔父で、元々あの別荘を建てさせたのは曽祖父らしい」
 「え...?じゃああの別荘は、堂上家のものだったんですか⁈」
 「ああ、俺の曽祖父は山が好きな人だったらしくあの景色に惚れてあそこに別荘を建てたそうだが、彼は俺が生まれる前に亡くなっているんだ。
 玲に聞いた話だと、昔から画家を目指していた叔父さんがその別荘に住んでいて、フランスで一人旅の途中あるトラブルで困っていた所を、当時現地に住んでいた絆音のご両親に助けてもらったそうだ。その時に清香さんが描いていた風景画に叔父さんは一目惚れして、日本に来たら是非別荘に来て欲しいと約束したんだ。それで、絆音のご両親もあの場所を気に入り、結婚してアメリカへ行く予定だった叔父さんは二人に別荘を託したらしい」
 「そ、そうだったんですね...。まさか両親の知り合いが、翔さんの叔父さんだったなんて...」
 「俺も驚いたよ。でも不思議だな、俺たちは生まれる前から繋がりがあったなんて。その叔父さんは今静岡にいるそうだが、別荘はいつでも自由に使って良いと言っていたよ。中には絆音のお母さんが描いた絵も飾っているらしいから、今度見に行こう」
 「...はい、ありがとうございます」

 私たちには、生まれる前からそんな繋がりがあったなんて...本当に驚いたけれど、言葉に出来ないほど嬉しかった。それに、一条の祖父母はちゃんと二人の事を今でも大切に想っているのだと分かってすごく安心した。
 きっと優しい人達なんだろなぁ...許されるなら私も会ってみたい...
 そんな事を考えていると、翔さんの手が私の頬にそっと触れる。
 「絆音...今回の事は、俺が悪かった。ちゃんと守ってやれなかった俺のせいだ。一人にして怖い思いもさせたな...。もっと絆音の気持ちを考えるべきだった、反省してる」
 「そ、そんな...翔さんは何も悪くありません。私が勝手に逃げてしまったせいで、さらにご迷惑をおかけしてしまって...」
 「絆音は何も悪くない。それに会社だってノーダメージだ、心配いらないよ。むしろ絆音がいない事の方が会社的には損失だ」
 「...でも、影響力のある雑誌にこんなインタビュー記事が出てしまったら、また騒ぎになってしまうのでは...?」
 「多少は騒がれるかもしれないが、あのまま有る事無い事書かれて絆音やご両親が中傷されたままなんて俺は許せなかった。俺も勝手なことをしたと思っているが、絆音を失いたくなかった。お前を取り戻す為には、この方法が最良だと思ったんだ。...許してくれるか?守ってやれなかった事も、このインタビューの事も」
 個人の取材は全て断っていたのに、まさか同じ出版社の雑誌で独占インタビューを受けるなんて...
 でも、全ては私のためにしてくれたこと。忙しいはずなのに、私のために...
 「それと、永田というあの記事を書いた記者には法的措置をとると決めた。それから、今回俺がインタビューを受ける代わりに今後二度と絆音の事は書かないと約束させた」
 さすがの抜かりなさと周到さ...
 でもそこまでしてくれた気持ちがすごく嬉しい。それに、愛の言葉も...あれが全国で発売されるなんて恥ずかしいけれど...彼の想いは強く胸に響いた。
 「...私、これからも翔さんの妻でいても、いいんですか...?」
 「当然だ、俺の妻も秘書もお前にしか務まらないと言っただろう?」
 強く抱きしめられ安心した途端、ぽたぽたと涙が零れ落ちる。
 それでも、私もちゃんと伝えたいと思い彼の身体を少し離して優しく微笑む瞳を見つめる。
 「...翔さん、私も翔さんの全てを、愛しています」
 「絆音...ありがとう」

 しばらくお互いの存在を確かめるように抱きしめあっていると、ふいにガチャっとリビングのドアが開いて慌てて身体を離した。
 「あ...ごめんなさい!邪魔しちゃって!」
 「すみません!美雨さんお帰りなさい」
 「ただいま、絆音ちゃん。えっと...これはどういう...?」
 「絆音、今日は遅いから改めてまた明日迎えに来る。荷物まとめておいてくれ。場所をわきまえずにすみません、お邪魔しました」
 カバンを持って立ち上がり、私たちにそう言うと彼はポンと頭を撫でてから玄関を出て行った。
 「良い所で邪魔したみたいでごめんね?でも良かったわね、絆音ちゃん!また堂上さんの所に戻るんでしょ?」
 「私の方こそすみませんでした。それにここにも長居してしまって...ご迷惑をおかけしました」
 「私は一緒に暮らせて楽しかったわよ?絆音ちゃんの料理美味しいし!またいつでも来てね?」
 「ありがとうございます、美雨さん」
 そして翌朝、荷物をまとめていると晴くんが帰って来たので昨日の事を伝えた。
 「翔はやっと終わったのか。とにかく、絆音もこれからは黙って逃げてくるなよ?お前を守ってくれるのは翔なんだから。でも何かあったら俺に言うんだぞ?ナイト役は翔に譲るけど、これからも一生俺は絆音のお兄ちゃんだからな」
 「うん、ありがとう晴くん。お騒がせしました」

 約一ヶ月ぶりに帰った部屋は、空気が冷え切っていて外よりも寒く感じる。
 思わずぶるっと身震いするとすぐに彼は暖房をつけてくれた。
 「悪い、寒いよな。実は俺もこの数週間、ほとんどここには帰って来ていなかったんだ」
 「え...?じゃあ、どこに...」
 「会社だよ、仮眠室にはシャワーもあるからそこで済ませてた。絆音がいない暗い寒い部屋になんて帰って来たくなかったんだよ...」
 「...すみません。お身体は大丈夫ですか?忙しかったですよね...?」
 「大丈夫だよ、それに俺の優秀な秘書がかなり先の仕事までやっておいてくれていたからな?」
 「...すみません」
 「仕事はどうする?ゆっくりして年明けからでもいいよと言いたいところだが、正直手が足りていないのが現状で山内も大変そうなんだ。戻って来てくれるか?」
 「はい、お休みした分も働かせていただきます」
 「ありがとう。これからも堂々と俺の秘書でいてくれ、俺にも会社にも絆音は必要なんだから」
 「...ありがとうございます」
 こんなに迷惑をかけたのに、ここに居ていいと私の居場所をくれる翔さんには感謝しかない。
 恩返しの為にも、また一生懸命彼をサポートしようと改めて心に誓った。
< 124 / 132 >

この作品をシェア

pagetop