俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
 そして日々の忙しさですっかり忘れていたけれど、気づけばバレンタインの季節。
 先日二人でショッピングモールへお買い物に行った時、たくさんの可愛らしいチョコレートが売られていてハッとした。
 しかしクリスマス同様今までは縁がなかった為、どう過ごせば良いのか分からない。でも、これも夫婦で過ごす初めてのバレンタインだし、せっかくなら何か作りたいな...。
 だけど翔さんは甘いものをあまり食べないしチョコレートを作るのもどうなのかな...とすっかり悩んでしまっていた。
 結局伯母さんに相談することに決め実家へ行くと、リビングにいた二人は何やら封筒のような物を手に困惑している様子。
 「...二人とも、どうしたの?」
 「ああ、絆音ちゃんお帰り。実はね、さっきこんな物が届いて...」
 手にしていた封筒を見せてもらうと、差出人の欄には達筆な字で"一条 愛子"と書かれている。
 「え?一条って...」
 「うん、母の名前...。何かしら?突然」
 「とにかく開けてみよう」
 伯父さんがそれを開封すると、中からはチケットのような物が六枚と"よろしければ皆さんでお越しください"とだけ書かれた手紙が入っていた。
 「これは、個展のチケット...?」
 「個展に、皆んなで...?」
 「...私、行きたい。お母さんと伯母さんの、お母さんとお父さんがどんな方なのか会ってみたい」
 「絆音ちゃん...」
 突然の事に伯母さんは迷っていた様だけれど、晴くんにも相談すると「行くべきだよ、二人も母さんや絆音に会いたがってる。きっと歩み寄る為の一歩としてチケットを送ってくれたんだから」と説得され、皆んなで行く事を承諾してくれた。

 結局バレンタインの日は、甘さ控えめのウイスキーボンボンを作った。
 せっかくなので夕食もハンバーグやチーズをハート型にしてみたり、ビーツで可愛らしいピンク色のスープを作ってみたり...。
 食後にチョコレートを渡すと少し驚きながらも受け取ってくれた。
 「絆音が作ったのか...?」
 「はい。レシピ通りに作ったので大丈夫だと思いますが、味見を出来ていないので...」
 そう言うと彼はソファに置いていたカバンから小さな可愛らしい箱を取り出し私に手渡す。
 「俺からもプレゼント」
 「え...?私に、ですか?」
 「バレンタインは、海外では男性が女性にプレゼントをして愛を確かめ合う日なんだよ。だから絆音と一緒に食べようと思って」
 箱にかけられたリボンを解いて開けると、そこには色鮮やかなピンクやエメラルド、ルビーやパールのようなツヤツヤの光沢が美しいまるで宝石のようなチョコレートが並んでいる。
 「わぁ、とっても可愛いです!」
 「食べてみないか?チョコレート」
 「...食べて、みたいです。翔さんと一緒に」
 「じゃあ、一緒に食べよう」
 どれも綺麗で迷ったけれど、ピンク色のチョコレートを手に取り二人顔を見合わせて同時に口の中へ入れた。
 「うん、美味しいよ」と言いながらも、あのストーカー事件以来チョコレートを口にしていなかった私を少し心配そうな瞳で見つめている。
 でも、久しぶりに口にしたチョコレートはストロベリーの酸味や香りがコクのある深い甘さととても良くあっていて、思わずニヤけてしまうほど美味しかった。
 「ふふっ、とっても美味しいです!」
 「ははっ、良かったな」
 事件のトラウマから食べられなくなっていたけれど、彼の優しさで克服する事が出来た。久しぶりのチョコレートの甘さと彼の愛を感じ幸せで胸がいっぱいだった。

 そしてその翌日、伯父さん伯母さんと晴くん美雨さん、私と翔さんの六人は桜月の個展が開催されている会場で待ち合わせをした。
 ゆったりとした美しい音色が響く中へと足を踏み入れると、お花の良い香りが漂ってくる。
 そして、様々なテーマを元に生けられた花々は、躍動感のあるダイナミックなものから、美術品のように繊細なものまで思わず足を止めて見惚れてしまう作品ばかり。
 一つ一つを見ながらゆっくりと奥まで進むと、そこには上品な着物を纏った女性と男性の姿があった。
 二人の姿を見て伯母さんは足を止め、伯父さんは会釈をしている。
 ということは...この方達が、私のおじいちゃんとおばあちゃん...?
 確かめるように翔さんを見上げると、優しく微笑んで頷いてくれる。
 柔らかい笑みを浮かべていた女性は、私たちに気がつくとゆっくりと近づいてくる。
 立ち止まったままの伯母さんの前まで来ると彼女は両手をとり「朝香、来てくれてありがとう」と震える声で優しく微笑むその瞳には涙が溜まっていた。
 その姿を見て、以前翔さんが言っていた事は本当だったとすぐに分かった。
 私の祖父母は、家族を大切に想っている愛に溢れた優しい人だと。
 数十年ぶりの再会に戸惑っている様子だった伯母さんも、彼女の手をぎゅっと握り返し同じく涙をため微笑む姿は祖母にとてもよく似ていた。
 もしも生きていたら、お母さんも同じ様な顔で笑っていたのかな...
 すると彼女はこちらへ歩いてくると「絆音さんも、ありがとう。清香に、とてもよく似ているわ」とそっと私の頬に触れる手は微かに震えていたけれど、とても温かかった。
 祖父は終始腕を組み寡黙な印象だった。でも、私たちに見せてくれた笑顔はとても優しく、勝手に想像していた大財閥の総帥という堅いイメージとはかけ離れていた。
 お互いに交わした言葉は少なかったけど、きっとあの笑顔が全てだったのだと思う。
 その証拠に、行く時はとても緊張している様子だった伯母さんも帰りはホッとしたようにいつもの明るい笑顔に戻っていた。

 私も改めて家族の愛や温かさを感じるとより一層翔さんが愛おしく思えて、家に帰り二人きりになると彼をソファに座らせて自分から膝に乗りぎゅっと抱きついた。
 「ふっ、どうした?疲れたか?」
 「...大好きです。今日は一緒に行ってくれて、ありがとうございました」
 こんなにも大好きな人に愛してもらって家族になれた事が、私の人生で一番幸せな事なのだとやっと気がついた。
 それに、両親は幼い頃に亡くしたけれど私は決して一人じゃなかった。本当に恵まれていたんだなぁとなぜか今になってすごく実感している。
 「俺も。良かったな、おじいちゃんとおばあちゃんに会えて」
 「これも翔さんのおかげです。翔さんがいなかったら、きっと一生会えないままだったと思います。...私と、家族になってくれてありがとうございます。私に、愛する気持ちを教えてくれてありがとうございます」
 「それは俺のセリフだよ。俺と結婚してくれて、幸せをくれてありがとう」
 頭を撫でてくれていた手は頬へと移り、壊れ物に触れるような優しいキスを何度もくれた。
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