俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
 十一時からのアポは、蓮水製薬会社の営業部長さん。
 しかし、予想通り会議は長引き副社長はまだ戻っていない。
 その旨を伝え紅茶と焼き菓子をお出しすると、一口それを飲んで目を輝かせている。
 「この紅茶すごく美味しいね。もしかして、僕が紅茶好きなの知ってた?」
 「恐れ入ります。コーヒーは飲まれないようでしたので、紅茶をご用意させて頂きました」
 「こんなに香り高い紅茶は初めてだ。どこの茶葉を使っているんだい?」
 よほどお気に召されたようで、しばらく紅茶の話が続いていく。
 それにしても、どれだけ会議が延びているのかな...。さりげなく時計を確認しながらも、副社長が戻られるまで世間話で場を繋いだ。
 しかし二杯目の紅茶を注いでいると、突然何かを考えるように黙ってしまった。
 「...君の名前、何て読むんだい?」
 首から下げている社員証にふりがなはなく、この名前を初見で正しく読んでもらう事はあまり無いのでこの質問は幾度となくされてきた。
 「ゆきはらいとと申します」
 「へぇ、洒落た名前だね。綺麗な顔立ちだけど、ハーフかクォーター?」
 「いえ、両親共に日本人です」
 頭の先から足元までじとっとした視線を感じながらも、年齢やいつから秘書をしているのか、モデルの経験はあるかなど様々な質問に答えていると、廊下から足音が聞こえてきた。
 重役の部屋が並ぶこのフロアだけに敷かれた上質なカーペットを蹴るように歩くこの足音は、きっと副社長。
 そしておそらく、ご機嫌がよろしくない...
 こういう時はいつも、開口一番に愚痴がこぼれる。今日は来客がある為、足音が近づいて来た所でこちらからドアを開けると、想像通り副社長の眉間にはシワが寄っている。
 「副社長、お客様がお待ちです」そう伝えると「ああ、そうだったな」とネクタイを締め直し表情を緩めて足早に近づいてくる。

 役目を終えて廊下へ出ると思わず「ふぅー」とため息が漏れた。
 私は秘書という仕事をしているけれど、本当はとても人見知りでコミュニケーション能力もない為、先程のようにほぼ初対面の相手と話をする時はとても緊張する。
 この仕事は好きだけど、私には向いていないのかな...とよく思ってしまう。
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