俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
 そして仕事を終えると、副社長は残業するそうですでに手配して下さっていたタクシーに乗った。
 今日の夜ご飯は何を作ろうかなと考えながら彼のマンションへ帰り、冷蔵庫を開く。
 誰かに料理を振る舞うことはあまりなかったし、外食が多く舌が肥えた副社長に食べてもらうのは少し緊張したけれど、いつも美味しいと完食してくれるので伯母さんに料理を習っておいて本当によかったと思った。
 特にカレーは気に入ってもらえたようでこの一ヶ月ほどで三回は作った。

 今日はさっとレンジで温め直してすぐに食べられるようオムライスを作ってからシャワーを浴び、部屋でパソコンを開き久しぶりにゲームにログインした。
 最近はほとんどやっていなかったけれど、昨日類くんからメッセージが来ていたから。
 三十分ほどして「絆音ちゃん、遅くなってごめんね」と彼の声が聞こえてくる。
 「ううん、お疲れ様」
 「フランスで仕事があったりして、ちょっとバタバタしてたんだよね」
 「そうだったんだ、私もちょっと色々あってゲームは久しぶりなの」
 「絆音ちゃんも仕事忙しかったの?」
 「う、うん、そんなところかな」
 今までのように他愛もない話をしながらゲームをするこの時間は、やっぱりとても楽しくてつい夢中になっていたようで、ノックされた事に気が付かずガチャっと突然ドアが開き驚いた。
 「あ、おかえりなさい」とマイクを切らずに咄嗟に言ってしまい、不思議そうな類くんの声に慌てる。
 「あ、なんでもないの!ごめんね?」
 副社長には頭を下げながら類くんと会話を続けていたけれど...
 「絆音、キッチンのオムライス食べていいのか?」と大きな声で言うので再び慌てる。
 「...え?今兄さんの声が聞こえた気がしたんだけど...絆音ちゃん今どこにいるの?」と案の定類くんにも聞こえてしまっていた。
 「あ、あのね、ちょっと訳あって今は副社長の家に泊めてもらっているの...」
 「...え?どういう事?」
 ちらっと副社長を見ると右手を差し出すので、イヤフォンごと渡す。
 「類か?絆音がストーカーにあって新しい部屋探してるから、それまで泊めてるだけだよ。...ああ、大丈夫だ。俺が見ておくから心配するな、じゃあな」と通信を切ってしまった。

 リビングへ行くと副社長がオムライスを食べていたので、ポトフも温め直してテーブルに置く。
 「サンキュー、美味いよ」
 「...あの、類くんには経緯を話しておきました」
 「そうか。お前ら今でもああやってゲームしてるのか?」
 「いえ、類くんも忙しかったみたいですし私も久しぶりにやりました。でも...やっぱりすごく楽しかったんです。だから類くんとはやっぱりこのままでいたいなって...」
 「もうはっきりそう伝えたらいいんじゃないのか?」
 「...でも類くんの事は好きですし、これまでの関係が変わってしまったらと思うと、怖くて...」
 「でも、お前が言う"好き"は類が求めるものとは違うんだよな?」
 「...違うと思います。友人としてというか、人としてというか...」
 「お前の気持ちが決まってるんだから、そのまま伝えたらいい。それに、例え類を振ったってあいつが絆音を嫌いになる訳がない。子どもの頃から近くで見てきてどんな人間かは知っているんだから。類は長年想ってきたみたいだし簡単には気持ちを消せないかもしれないが、今までの思い出が消えるわけじゃない。必ず元通りになるよ」
 「...ありがとうございます。きちんと話してみます。すみません、副社長にこんな話を...。私、もう寝ますね」
 「なぁ、一つ聞いていいか?」
 「はい」
 「お前は誰とも結婚する気はないのか?」
 「...私、恋愛的に人を好きになるっていう事が分からなくて...。なので私には恋愛や結婚は無理なのかなと...」
 「そんな事ないだろ。恋愛的にとか深く考えなくていいんじゃないのか?好きだと思ったらそれでいいし、一緒にいたいと思えば一緒にいればいい。それがそのうち愛に変わるかもしれないし、友人のままがいいならそうすればいいだけだ」
 「...そんな風に考えた事ありませんでした。恋愛感情が分からない私は、おかしいのだと...」
 「おかしくなんてないよ。俺だって人に言えるような恋愛はしてないし、愛が何かなんて分からない。だから気持ちが向くままに進めばいいと俺は思ってる。まぁ、見合いなんて裏の透けた打算的な事はしないけどな」
 「...なんだか少し心の曇りが晴れたような気がします。ありがとうございます」

 やっぱり、類くんにはちゃんと伝えよう。ずっと怖くて躊躇っていたけれど、副社長のおかげで勇気をもらえた。
 それにしても...やはり彼は相当お見合いが嫌いなよう。私の知る限り全てお断りしていたから、てっきり大切な人が居るのだと思っていたけれど...。
 しかし今月末には、毎年行われる創業記念パーティーが予定されている。
 そしてそこにはお世話になっている取引先の企業の方々も招待する為、独身の副社長は毎年たくさんのご令嬢を紹介されその対応に追われる事になる...。
 なので、今年もパーティーの予定をお伝えすると「もうそんな時期か...。また面倒だな...」とすでに辟易とした感じで愚痴をこぼしていた。
 昔からの幼馴染とはいえ彼の好みや恋愛事情などは全く知らないけれど、人に言えないような恋愛って...?
 副社長の奥様になる人は、どんな人なんだろう...

 それからしばらくの間、そのパーティーの準備で普段に増してバタバタしていた。
 毎年の恒例行事ではあるけれど、やはり私達にとっては一大事。
 人見知りの私はたくさんの人達と接するパーティーは正直苦手で、出来れば端っこの方で大人しく見ていたいけれどそうもいかない。当日は受付も担当する事になったし、副社長の動きやお客様達のことも見て動かないと。
 それにこのパーティーは会社をPRする場でもある為、イメージダウンに繋がるミスは絶対にしたくない。
 残業時間が長くなりがちで、最近は簡単な料理ばかりになっている。
 それでも副社長は変わらず「美味しい」と完食してくれるし、遅くなった時は外食に誘ってくれる事もあった。
 こんな立派なマンションに住まわせてもらい、食事を作るくらいで彼の為に何もできず、最近は忙しさもあって新しい部屋もまだ見つけられていない...。
 こんな私を受け入れてくれている彼には、本当に感謝しかなかった。
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