俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
 そして迎えたパーティー当日。
 朝から雲一つない秋晴れの気持ち良いお天気だけど、隣で運転している副社長の空気はどんよりと重い。
 「はぁ、今日のパーティー何時からだ?」
 「十八時半からです。十八時には業務を終わらせて頂き、すぐに着替えて会場へ向かってもらいます」
 「了解、お前は先に行くんだろ?一人じゃないよな?」
 「はい、秘書課の方達と一緒に移動しますのでご心配なく。会場にも大勢の人がいますし」
 「大勢の知らない人がいるから心配なんだよ。周りの接待なんて山内に任せて、もういっそ俺の婚約者のフリでもしてくれよ」
 「さ、さすがに無理ですよ!ほとんどの方が秘書だって知っていますし、そんな事をしたらまたとんでもない噂が...」
 「まだそんな事気にしてるのか?とにかく、婚約者のフリは無理でもしつこい時は助けてくれよ?」
 「はい、頃合いを見て声をかけますね」
 「頼んだよ。お前もあんまりおっさん達に捕まらないようにしろよ?」
 「気をつけます」

 「はぁ」と今日何度目か分からないため息をつきながらも会社に到着し、一緒にエレベーターに乗ると「...お前のカレーが食いたい」と呟く副社長。
 「...今日ですか?」
 「いや、週末でも時間がある時でいいからまた作ってくれないか?」
 「はい、もちろんです。今度の土曜にでも作りますね」
 そんな話をしてからそれぞれの席へと向かうと、今日私たちは早めに会場へ行く為皆んな必死に作業に集中していた。もちろんランチに行く暇などなく、常備してあるゼリー飲料で乗り切ることに。
 「絆音終わった?そろそろ着替えないと」
 「うん、もう終わるから先に行ってて!」
 急いでロッカールームへ向かいパーティー用のドレスに着替える。
 チャコールグレーのワンピースはレースのスリーブとプリーツスカートが華やかさもあり、一目で気に入ったものだ。
 会場へ向かう前に最終確認に行くと、朝とは違い完全に仕事モードの副社長。
 「では先に向かいます。よろしくお願いします」
 彼の様子に安堵し部屋を出ようとすると「そのドレスも似合ってるな」との声に思わず振り返る。
 頬杖をつきじっとこちらを見ている彼は、ふっと微笑んでからまた手元に視線を落とした。
 その仕草に、なぜかドクンッと心臓が強く跳ねた。
 ...なんだろう、この感じは...
 不思議な感覚に戸惑いながらも急ぎ、ピンクベージュのセットアップに着替えた瀬那ちゃんや他の秘書の方達とも合流し会場のホテルへと向かった。

 開場時間になるとそれぞれの配置につき、私は瀬那ちゃんと二人で受付に立ち大勢のゲストと挨拶を交わす。
 「ふぅ、ひと段落したね。私が残るから絆音は副社長の所行かないとでしょ?」
 「うん、行ってくるね」
 残りの受付は瀬那ちゃんに任せ、私はこの後にスピーチを控える副社長の元へと急いだ。
 「お疲れ様です、問題ありませんか?」
 「ああ、大丈夫だ。スピーチの内容も全て頭に入ってる。お前は?」
 「受付はほとんどの方が終わっています。今の所問題はありません」
 「じゃなくて、お前が大丈夫か聞いてるんだけど」
 「...はい、私も特に問題ありません」
 「何かあったらすぐ俺のとこ来いよ?」
 そう小声で私に言ってから、社長のスピーチが終わると盛大な拍手の中ステージへ登壇した。
 ネイビーのスリーピーススーツを着こなし堂々とした佇まいからは彼の自信が表れていて、身に纏うオーラさえ凛としている。
 社長に負けないくらい信条や今後のビジョンについて熱く語る姿に、この会場にいる全ての人達の視線を集めている。
 注目を一心に浴びながら完璧なスピーチを終えると、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
 やっぱり、すごい人だな...。私、こんなにすごい人の秘書なんだ...
 最近は生活まで共にしているのに、今は少し彼が遠く感じる。
 それがなんだか少し寂しい...。なぜかそんな感情が浮かびながらも拍手し、降壇した所で「お疲れ様です、完璧でした」と声をかける。
 一瞬こちらを見てふっと余裕の笑みを浮かべてから、すぐにたくさんの人に囲まれていく彼をぼんやりと見ていた。
 やっぱり、私とは住む世界が違いすぎる...。
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