俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
 はっきりとそう言われてしまい困った私は、とりあえず目を閉じる。
 「絆音、そんな寝たふりが俺に通用すると思うのか?」
 「...もう、寝ます」
 「まだ眠れないんだろう?何か話でもするか?」
 「...じゃあ、副社長が会社に入った頃の話が聞きたいです」
 「そんなに面白い話もないけど...」
 そう言いながらも、地方の営業部にいた頃の話を聞かせてくれた。
 初めの頃は、上司とも反りが合わず同期には堂上という名前を見ただけで気を遣われてしまい苦労の多い日々だったと。それでも彼には目標があり、そこに向かって突き進むのみと日々努力を重ねてきたそう。
 やっぱりすごい人だなぁ。私は副社長に就任してからの彼しか知らなかったので、貴重な話を聞けて嬉しい...そう思った所で私は眠りに落ちていた。

 気がつけば、部屋の中は薄らと明るくなっていて副社長の姿もない。
 相変わらず激しい雨が窓に打ちつける音が響いていて、天気予報を見ても今日の夕方まで雨は止まないらしい。
 ぼんやりとスマホを眺めていると朝の回診が始まり、問題がなければ明日風戸病院へ転院することが決まったと先生が教えてくれた。
 朝食が下げられた頃、毎朝のメッセージが届き急遽名古屋へ出張になったそうで今夜中に戻れるか分からないと書いてあった。
 そっか...今日は来られないんだ...
 そう思うと、なんだか急に寂しくなり天気も相まって気持ちもどんよりと沈んでいく。
 降りしきる雨を眺めながら、新幹線は大丈夫かな?昨日は何時に帰ったんだろう...ちゃんと眠れたかな?ご飯食べているのかな?と気がつけば彼の事ばかり考えていた。
 空は真っ黒な雲に覆われゴロゴロと雷の音まで響いてきて、朝だというのに部屋は薄暗い。
 この状況は、あの時と一緒。嫌でも思い出してしまうほどそっくりだ。

 あれは私が四歳の時、父が所属していた楽団の海外公演の為家族でオーストリアにいた。
 事故に遭い両親が亡くなったのは、帰国を予定していた前日のこと。
 その日は今日のような土砂降りで雷も鳴っていた。今でも全てをはっきりとは思い出せないけれど、気がつくと私は病室のベッドに寝ていた。
 大きな怪我はなかったけれど、その時も全身をぶつけたようであちこちが痛みベッドから起き上がることも出来なかった。
 そこに次々とお医者さんや知らない大人が来て、痛いし言葉も分からないし自分がどうしてここに居るのかも理解できずとにかく怖かった。
 次の日に伯父さん達が迎えに来てくれるまで、眠る事も出来ず一晩中土砂降りの雨音を聞きながら一人ベッドの中で泣き続けていた。晴くんに抱っこしてもらい安心した事は、今も鮮明に覚えている。
 それがトラウマとなり、しばらくは酷い雨の日には辛い気持ちになったし、病院は怖い場所と脳と心が覚えてしまった。
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