俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
 ...結、婚?
 あの時はぼんやりしていたけれど、今ははっきりと聞こえた。でも、どういう意味なのかが理解できない。
 「...すみません。それは、どういう...?」
 「そのままだよ、俺と結婚してほしい」
 「...私、ですか...?」
 「俺にはお前が必要なんだ。これから先もずっと、俺のそばにいてくれないか?」
 結婚って愛し合う二人がするものだよね...?どうして突然そんな事を...?
 もしかして、今回のことに責任を感じて言ってくれているのかな...?
 疑問が多すぎて何から質問して良いか分からず黙っていると、繋いだままだった右手を引かれさっきと同じように温かい腕に包まれる。
 「こうされるのは、嫌か?」
 さっきは彼の温もりに安心して眠ってしまったのに、今は...ドクンっドクンっと心臓が強く打ち付け速度も増していく。
 「...わかりません」
 そう言うとゆっくり身体を離し、少し切なさを含んだ瞳でじっと見つめられる。
 「絆音、俺は本気でお前と結婚したいと思ってる。階段から落ちて青白い顔で血を流して倒れていた時、頭が真っ白になってこのまま消えてしまうんじゃないかって...怖かった。眠り続けていた間も、もう二度と目を覚まさないんじゃないかと...そう考えただけで頭がおかしくなりそうだったんだ」
 「...副社長」
 「俺のせいでこんな目にあわせてしまって、守ってもやれなくて...ものすごく後悔した。一人でこの部屋に帰った時、恐ろしいほどの喪失感があって...情けないけど、そこでようやく気がついたんだよ。絆音と暮らしていた数ヶ月が、どれだけ幸せだったのかって」
 「...え?」
 「俺は公私共にお前に支えられていたんだ。でもそれは、ただ甘えていただけだった。絆音が入院してそれを痛いほど思い知ったよ。今までそんな事にも気づけていなかった、本当に申し訳ない」
 「そ、そんな...私は何も...」
 「だからこれからは俺がお前をいっぱい甘やかして、辛かった事も悲しい記憶も全部思い出せなくなるくらい幸せで満たしたい。もう二度と怖い思いなんてしないように、俺がそばで守り続けたい、一生」
 いつも自信に満ち溢れた彼の、こんなにも不安そうな顔は見たことがない...。
 いつも近くにいた人間が消えてしまいそうになって、怖い思いをさせてしまったのかもしれない。だからその思いと責任感からそう言ってくれたんだろう。
 でも、そのために結婚なんて一生の事を副社長に背負って欲しくない。
 それに、恋愛もわからない私が結婚なんて...。そもそも、会社を継ぐ副社長はちゃんと相応しい人と結婚しないと...。
 副社長の言葉は嬉しいし、彼が嘘を言っていない事はその目を見ればわかった。
 でも...まだ気持ちの整理も出来ていない私には「はい」と言うことは到底出来そうにない...。
 「...すみません。今回の事は、本当に副社長は何も悪くないですし今までたくさん支えてもらいました。結婚なんて...そこまでして責任を取らなくて大丈夫です」
 「...そうだな、俺の伝え方が悪かった。それに、あんな話をした後で言うなんて卑怯だったよな...」そう言う彼は、悲しそうな傷ついたような表情で続ける。
 「俺は決して責任感で結婚しようと言っている訳じゃない。好きなんだよ、絆音が。きっと自分でも気がつかないほど自然に、ずっと前から惹かれていたんだ」
 ...私を、好き? 副社長が...?
 彼の言葉に嘘はないと信じているけど...好きって?どの種類の好きなの?類くんと同じ?それとも、私が類くんを想う気持ちと同じ...?
 やっぱり、私にはわからない...
 「副社長の言葉を、信じていない訳ではありません。でも...分かりません、頭が混乱して、今は何て言ったら良いかも分からないんです...」
 「こんな時に、悪かった。とりあえず家まで送るよ」

 運転する彼の横顔を見ていると、なぜだかとても切なくなる。
 副社長の事は信じているけれど...人の心はいつ変わったしまうか分からない。そして、鈍感な私はきっとそれに気がつけない。
 瀬那ちゃんの思いに一ミリも気づいていなかったように...。
 もしも彼の気持ちが変わってしまって、私への気持ちが無くなったら...そう思うと怖くて何を信じて良いのか分からなくなりそう...。
 実家の前まで送ってもらい車を降りようとすると、パッと右手を捕まれた。
 「絆音、俺は本気だ。お前に信じてもらえるまで、この気持ちも行動で示していくから」
 そう言う彼の瞳には、先程までの不安の色は消えいつもの自信に満ちた強い意思が宿っていた。
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