俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
翔side
 そんな日々を乗り越え、今年も残すは後一週間となった頃。
 「絆音、年末年始の予定はあるのか?」
 「いえ、特には」
 「じゃあ、何か美味しいもの食べに行こう」
 「...え?」
 「何が食べたい?甘いものでも何でもいいよ」
 「えっと...最近食べてばかりで少し太ってしまって...」
 「じゃあ、ゆっくり温泉でも行かないか?」
 「...でも、まだ足も治っていませんし...」
 「ほら、湯治ってあるだろ?骨折後の固まった筋肉をほぐしたり精神的なリラックス効果もある」
 「で、でも...」
 「俺も最近忙しかったからゆっくりしたいんだ。だから付き合ってくれないか?」
 「...少し、考えさせて下さい」
 やはり絆音が立てた壁は高く、容易には越えさせてくれないようだ。
 最近は仕事でも人との関わりを避けているようにも見えるし、笑顔も明らかに減っている。
 まるで心が凍りついて動かなくなってしまったように。
 だが、もう何もせずに引き下がることもしたくない。このまま絆音が閉じこもってしまう前に、俺が暖かい太陽になってその凍りごと包み込んで溶かしてやりたい。

 そして、無事に仕事納めをし休暇に入ると俺はまた絆音のリハビリに付き添ったり食事や映画に誘って二人の時間を作った。
 それも二人きりで誘えば断られると思い、わざと家にお邪魔し伯母さんがいる前で話をすると、案の定「あら、いいじゃない!二人でお出かけして来たら?」と助け舟を出してくれる。すると絆音も断りづらくなり、連れ出すことに成功する。
 我ながら卑怯だと思うが、今はなりふり構っていられない。
 同じ手を使い温泉に誘い出すことにも成功し、年が明けてから一緒に行く事を渋りながらも約束してくれた。

 暖かい陽気の中迎えた大晦日は、俺も実家に帰り朝から上機嫌で飲んでいる父さんに付き合っていた。
 毎年この日の夜は、堂上家と風戸家が集まりすき焼きを食べることが昔からの恒例行事となっている。
 大学に入ってからは参加していなかったし、今年も仕事で海外に行っている類と晴臣はいないが、絆音は参加するだろうと思い俺も帰ってきたわけだ。
 「翔、来年は頑張りどきだぞ?新工場の開業もあるし、お前が進めてきたプロジェクトも動き始めるだろ?だから...」
 先ほどから何度もループしている父さんの話を聞き流しつつ、テレビを見ながら俺も飲んでいた。
 夕食の手伝いへ行った母さんと交代に伯父さんが日本酒を持って来たので父さんを任せ、俺も風戸家へ絆音の様子を見に行った。
 リビングに入ると、美雨さんも含め四人でわいわいとキッチンで楽しそうに支度をしていて、絆音もリラックスした笑顔を見せている。
 ...やっぱり、好きだな...
 俺がずっと見たかったのは、屈託のないあどけなさが残るこの笑顔だ。
 ぼんやりと見つめていた俺に「暇なら手伝いなさいよ」と母さんに皿を渡され、テーブルへ運ぶのを手伝う。
 「副社長、これもお願いします」とサラダの器を渡す絆音は、やっぱり先程までの笑顔とは違う。
 なぜ俺には作ったような微笑みしか見せてくれないんだ...?どうしたら、美雨さんに向けていたような笑顔になってくれる...?
 急に切ないさや寂しさが混ざった感情が湧き上がり、グッと掴まれたように胸が痛かった。
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