俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
 午後からは部品工場の視察など外出に同行し、社に戻ったのは六時を過ぎていた。
 事務作業をしつつ窓に目をやると、先程までの横殴りの雨はだいぶ落ち着いている。小雨のうちに帰りたいなぁと思いつつ、気がつけば九時をまわっていた。
 まだ仕事をされている副社長に挨拶に行くと、彼は腕を組んで窓際に立ち外の景色を見ていた。
 「副社長、何かお手伝いする事はありませんか?」
 「大丈夫だ。それよりまだ残っていたのか?早く帰れよ」
 「では失礼します、お疲れ様でした」そう言いながらドアノブに手をかけると「あ、絆音」とプライベートな呼び方をされ振り返る。
 「はい?」
 「来月の命日、有給申請したのか?俺のとこにまだ報告あがってきてないぞ」
 「あ...忘れていました。近日中に申請しますので、よろしくお願いします」
 「せっかくだからゆっくりして来いよ」
 「ありがとうございます。では失礼します」

 最近バタバタと忙しかったせいもありすっかり忘れていたけれど、来月は私の両親の命日。
 二人は私が四歳の時に事故で亡くなり、その後伯母夫婦に育ててもらった。
 私が成人してからは、毎年命日には長野県にある二人のお墓にお参りに行っている。
 電車に揺られながら、長野行きの新幹線のチケットを探しているとあっという間に最寄駅に到着した。
 電車を降りようとした時、向かいの席に座っていた三十代くらいの男性が傘を忘れて行った事に気がつき急いで追いかけた。
 「あの!この傘、電車に忘れませんでしたか?」
 「あ、僕のです!ありがとうございます」
 階段を駆け降りたのでハァハァとまだ息が上がっている私をみて、その男性は申し訳なさそうに言葉を続ける。
 「走って追いかけてくれたんですね。もし良かったら、これお礼にどうぞ」そう言って持っていた紙袋からチョコレートの箱を取り出す。
 「い、いえ!お礼なんて結構です」
 「チョコは嫌いですか?」
 「好きですよ、そのお店のチョコレート美味しいですよね」
 甘い物に目がない私はつい正直に答えてしまうと、男性はニコッとして私の手を掴み紙袋を持たせる。
 「じゃあ是非もらって下さい。追いかけてきてくれて嬉しかったです!」
 そう言うとすぐに改札を出て行ってしまった。
 一方的に何かを握らされたのは、今日はこれで二度目だ...。

 食事などを済ませグラスにワインを注ぐと、パソコンの電源を入れ唯一の趣味であるゲームに没頭する。
 私が好きなのはバトルロイヤル系のもの。オンラインで繋がっている誰かと一緒にチームを組み戦うゲーム。
 しばらくそれに集中していると、スマホにメッセージが届いていることに気がつく。それは、時間が合えばよく一緒にゲームをしている彼からのお誘いだった。
 「絆音ちゃんお疲れー。今日は始めるの遅かったね?」
 「今日は残業してたから少し遅くなったの。類くんは?」
 「俺もまだ仕事するけど、一旦息抜き。絆音ちゃんとゲームしたかったし」
 彼の名前は堂上 類(どうじょう るい)。幼馴染で高校までは同級生だった。そして堂上家の次男であり副社長の弟である。
 彼は小さい頃体が弱くあまり外では遊べなかったので、よく家の中で一緒にゲームをした。私がこういう系のゲームにハマったのも、完全に彼の影響。
 私達は幼稚舎から大学までエスカレーター式の学校に通っていたけれど、類くんは高校生の時にやりたい事を見つけ、大学へは進まず海外へと留学した。
 そして現在はモデル兼デザイナーとしてフランスで活躍している。
 「そういえばね、今度日本に戻る事にしたんだ!日本でもお店出そうと思って」
 「相変わらず類くんはすごいね!その行動力、本当に尊敬しちゃう」
 「上手くいくか分からないけど、やらなきゃ始まらないからね。だからさ、そっち帰ったら会ってくれる?オンラインじゃなくて、一緒にお酒飲みながらゲームしよ!」
 「うん、もちろん!楽しみにしてるね」
 大人なってからもこうしてゲームはしているけれど、会うのは何年降りだろう...すごく楽しみ。
 何戦かして仕事に戻った彼を見送った後、私も切り上げベッドに入る。
 程よく酔いが回りふぁーっとした感覚の中眠りにつくこの瞬間が、何よりも幸せだった。
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