桜花彩麗伝
まさかと思いながら恐る恐る尋ねると、朔弦は静かに首肯した。
王との子は望めないと判断した帆珠は、別の男となした子を御子と偽っているのであろう。
許されざる不義であり、乱逆にほかならない。
露見すれば蕭家といえど死罪を免れないであろう。
ただし、非難すべく取り沙汰するには、いまはまだそれを証す証拠がない。
衝撃を受けた一方で、春蘭はどこかほっとしてもいた。
煌凌との子ではない。その事実に、不安定であった感情がいくらか安穏を取り戻した。
「妃の住まう後宮に出入りできる男は、陛下と内官のみ。内官は父親になり得ないから、可能性があるのは宮外の男だろう」
ほかに煌凌が直々に許可を下した男に限っては出入りできるが、それは基本的に日中のみであり、亥の刻を過ぎてからは禁じられている。
さすがに白昼堂々、人の目や耳のある宮中で不義に及ぶとは考えづらく、宮外での可能性の方が高いと言えた。
「でしたら……蕭派家門のうちの誰かが怪しいでしょうか」
「そうだな、わたしもそう睨んでいる。これから蕭家周辺を洗うことにする」
羽林軍へ戻った朔弦は、さっそく莞永とともに蕭家と蕭派官吏の家門の直近の動向を探っていった。
蕭派においては中枢から末端まで、それぞれ手分けしながら調べを進める。
連中は多数おり、しらみ潰しに事に当たっては膨大な時間を費やす羽目になる。
そこで、王が口にしていた戸部尚書────容燕の計画に加担したと思しき白家から着手することとした。
「将軍、ただいま戻りました」
莞永が言いながら執務室へと入ってくる。
直近の科挙で及第し、官吏として戸部に籍を置いている淵秀への聞き取りを経て戻ってきたところであった。
「どうだった?」
「彼は“白”ですね。淑妃さまとは面識もないそうで」
父親と異なり友好的で摯実な白家の公子に、核心に触れないようそれとなく遠回しに尋ねてみたが、おおよそ帆珠の子の父親であるようには感じられなかった。
彼女の懐妊についても莞永から聞いたのが初耳であったらしく、遅れて知ったようである。
「ただ……気になることを言ってました」
「何だ?」
「彼の友人が少し前に亡くなったそうです。自害ということになってますが、自ら命を絶つとは思えないそうで……とにかく不自然だと」
「それは蕭派の者か」
「はい、そう言ってました」
莞永の首肯を受け、秀眉を寄せつつ机上で手を組む。
朔弦の寸分たがわぬ読み通り、不審死を遂げたその蕭派の公子こそが、帆珠の子の父親である可能性が高いであろう。
真相は掴んだ。あとはその罪を証し、連中を追い詰める証拠を得るだけだ。