桜花彩麗伝
     ◇



 一夜明け、王は泰明殿に文武百官を(つど)わせた。
 蕭派の核であった容燕の姿はない。
 巻子(かんす)を開いた元明は、普段のような温和な笑みを消し、重厚な様子で詔書(しょうしょ)を読み上げていく。

「────こたび、兵部尚書・蕭航季は懐妊(かいにん)中の側室に刺客(しかく)を差し向け、貴妃の命を狙った。人道にもとる不忠(ふちゅう)にほかならない」

 蕭派は視線を落とし、ただ黙していた。反駁(はんばく)する余地もない。

「また、私兵の自白により、門下侍中・蕭容燕の罪も明白となった。廃妃(はいひ)となった張玲茗や娘の蕭帆珠の数々の悪行に関し、裏で手を引いていた黒幕が蕭容燕であったことが明かされた。長年にわたる悪政(あくせい)や民への搾取(さくしゅ)(あわ)せると、その地位に留まる資格はない」

 一度言葉を切った元明は顔をもたげ、凜然と続ける。

「よって、蕭容燕ならびに航季を罷免(ひめん)とした上で斬首刑(ざんしゅけい)に処す。その首は見せしめとし、市井(しせい)に晒す」

 殿内がざわめいた。この上ない重罰をかの容燕に、蕭家当主に処すとは。
 しかし、そんな蕭派の動揺を王はものともしない。
 元明が心中を代弁するように詔書を読み上げる。

「……国を開いた始祖(しそ)・光玄王に尽くした功臣の一門として、家号(かごう)を贈られた鳳家と蕭家はこれまで何かと免責(めんせき)されてきた。お陰で両家はますます栄華を極め、他の追随(ついずい)を許さぬ地位を確立した。しかし、そんな光玄王の意に反し、悪行の限りを尽くしのさばったのが蕭容燕である」

 いつしか蕭家は悪の象徴となってしまった。
 容燕は光玄王の意に背き、誇り高き蕭家の家門に泥を塗ったのである。

「よって、功臣の末裔(まつえい)であろうとその一門であろうと、今後は免責などせぬ。無論、光玄王に誓って名門たる地位は守るが、専横的(せんおうてき)放埒(ほうらつ)な振る舞いは許さぬゆえしかと心得よ」

 元明が巻子(かんす)を閉じると、殿内のざわめきはおさまるどころかいっそう大きくなった。
 しかし、いまの彼の耳には遠い波音のようにしか聞こえない。
 元明は口を噤んだまま少しく目を閉じる。────いまは亡き緋茜と宋妟に思いを()せた。
 しがらみに囚われ、役目に縛られ、身動きの取れなかった不甲斐ない自分に代わり、娘が矢面(やおもて)に立ち戦ってくれた。王とともに仇を討ってくれた。
 思わず滲んだ涙が目に染みる。

 と、王が堂々と玉座から立ち上がった。連なる(おみ)らを眺め、口を開く。

「……もうひとつ、そなたらに伝えることがある」

 威光(いこう)をまとう王に誰もが自然と敬服の念を抱き、喧騒(けんそう)の波が瞬く間に引いていく。
 もはや誰ひとりとして“惰弱(だじゃく)傀儡(かいらい)”などと評することはなかった。
 煌凌自身、こんな日を夢みていながら、実際に訪れるとは夢にも思わなかった。
 ここに自分ひとりの足で立っていることが未だ信じられない。無論、あらゆる人才(じんさい)に救われてこそ勝ち得た玉座であるが。

「蕭容燕の失脚に伴い、余は親政(しんせい)を行うこととする」
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