性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
結局、光の提案により奇妙な共同生活が始まった訳だが、意外にもこの場での生活は快適だった。
なによりも嬉しかったのは喋る相手ができたということである。
「るいちー!おはよー!」
「おはよう。エリカちゃん」
エリカはまだ十代だというにも関わらず毎日類に声かけてくれた。
「うっす。朝から元気だな…、お前ら…」
礼二は見かけによらず面倒見がよく、
「類さん、歯磨き粉はこれを使うといいですよ」
誠は大人びた発言とは裏腹に意外と甘えん坊だった。
まるで、兄弟ができたような気分に類はすぐにこの奇妙な共同生活に慣れることができた。
「そーいえば、るいちー今日から烏天狗だねー」
エリカは口をゆすぐと、類に尋ねた。
「う、うん…。私接客とか苦手なんだけど大丈夫かな…」
正直なところ、今までアルバイトというものを経験したことがない類は不安そうな表情を浮かべる。
「光兄さんがついてます。問題ないでしょう」
誠が類を励ますように答える。
「そー、そー!あ、くれぐれもあのバカには気を付けてね!」
「おーい、きこえてんぞー」
朝は苦手なのか、やけにテンションの低い礼二に類は微笑む。
「そういえば、光さん…、何日もここに来てないけどいつもそうなの?」
あの日以来、光とは一度も顔を合わせていない。
「まーヒカルン忙しいからねー。自分の家には帰ってるんじゃない?」
「自分の家?」
「あれ、言ってなかったけ?ヒカルンは普段都内のマンションで生活してるんだよ」
エリカの言葉に類は少し驚く。てっきり他で管理している神社にでも住んでいるものだと思っていた。
「ずりぃよな、あいつだけ都内の高級マンション」
礼二が少し悔しそうに呟く。
「そりゃ、あんたと違ってヒカルンは喫茶店の経営してるし、陰陽師協会でも結構上のランクだし…」
「ほとんど陰陽師の仕事で食ってるようなもんだろ、それ…」
「陰陽師協会?」
二人の会話を聞きながら類は聞きなれない言葉に首をかしげる。
「そ。ヒカルンみたいな陰陽師がたくさんいる組織のこと。そこに所属すると初めて陰陽師として仕事を受けられるんだよ」
丁寧に説明してくれるエリカに類は「そうなんだ…」と納得する。
「ま、入るのも難しい鬼畜集団だけどな…」
礼二は剃刀を手に持つと、シェーバークリームを顎へと塗りたくる。
「そりゃ、しょーがないっしょ。そもそも礼二は怨霊とか払えないじゃん」
「寄せ付けない体質なんだから必要ねぇだろ」
「え、礼二さんって寄せ付けない体質なんですか?」
類は驚いて礼二に尋ねる。
「おお…、いってなかったか?」
礼二は慎重に剃刀を滑らせながら答える。
(そうか…、だから初めて会った時…)
初めてみんなと顔合わせをした時、どこか意識が虚ろだった類を現実世界へと引き戻したのは礼二の体質だったようだ。
「エリカちゃんはどんな体質なの?」
「あーし?」
類の質問にエリカは髪に充てていたヘアアイロンを鏡台へと置く。
「あーしは見えるってだけ」
「霊感が強いってこと?」
「そうそう、色んなもの見えちゃってもう大変…。だからヒカルンが、るいちーを連れてきたときなんかもう大変だったんだよ?」
「え、何が?」
類はよくわからないといった様子で小首をかしげる。
「だって、るいちーめっちゃ背中に憑けてくるんだもん」
「え…?!」
エリカの衝撃発言に類の背筋が冷たくなる。
「でも、ヒカルンが大体払ってくれたのと、馬鹿礼二のおかげで今は見えないけどね?」
満面の笑みでそう答えるエリカに、類は「そ、そう…」と呟いて生唾を飲み込む。
「だから、あーしは対して能力ないんだー」
エリカはそういうと、マスカラを手にアイメイクをし始める。
「まあ、エリカさんの場合そちらの体質より、頭が良いという特質のほうが目立ちますがね…」
誠が歯磨きをしながら反応する。
「そうなんだ…」
「あーしこう見えて大学飛び級で卒業しましたから!」
少し誇らしげに胸を張るエリカに類は素直に驚く。
「ちなみに僕も一緒です。霊感がありますがそこまで強くありません。僕とエリカさんはその頭脳を買われて、光兄さんに引き取られたようなものです」
「お前はただの聞き込み要因だろーが」
礼二が鬱陶しそうに突っ込みを入れる。
「まこちゃんは、若い子向けの聞き込み要因としてヒカルンが拾ってきたの」
エリカができるだけ小さな声で類に耳打ちをする。
「意外と、魑魅魍魎の情報って子供の方が詳しいからね…」
類はその言葉に小学生時代に流行った「学校の七不思議」や「こっくりさん」を思い出す。
「それより…、そろそろ出ねぇとやべーな」
礼二は少し慌てた様子で壁にかかる時計を確認する。
「早くしなよ礼二、るいちーが遅刻したらあんたが怒られるんだからねー」
エリカは尚もアイメイクを続けながら、礼二を急かす。
「だーうるせぇな!わーってるよ!」
礼二は慌てて剃刀を洗面台の棚へと戻すと、勢いよく水で顔を洗う。
「おし!行くぞ!類!」
「は、はい!」
ようやく準備の整った礼二は、傍らに置いてある斜め掛けの鞄を手に取ると、類を連れてその場を後にした。
なによりも嬉しかったのは喋る相手ができたということである。
「るいちー!おはよー!」
「おはよう。エリカちゃん」
エリカはまだ十代だというにも関わらず毎日類に声かけてくれた。
「うっす。朝から元気だな…、お前ら…」
礼二は見かけによらず面倒見がよく、
「類さん、歯磨き粉はこれを使うといいですよ」
誠は大人びた発言とは裏腹に意外と甘えん坊だった。
まるで、兄弟ができたような気分に類はすぐにこの奇妙な共同生活に慣れることができた。
「そーいえば、るいちー今日から烏天狗だねー」
エリカは口をゆすぐと、類に尋ねた。
「う、うん…。私接客とか苦手なんだけど大丈夫かな…」
正直なところ、今までアルバイトというものを経験したことがない類は不安そうな表情を浮かべる。
「光兄さんがついてます。問題ないでしょう」
誠が類を励ますように答える。
「そー、そー!あ、くれぐれもあのバカには気を付けてね!」
「おーい、きこえてんぞー」
朝は苦手なのか、やけにテンションの低い礼二に類は微笑む。
「そういえば、光さん…、何日もここに来てないけどいつもそうなの?」
あの日以来、光とは一度も顔を合わせていない。
「まーヒカルン忙しいからねー。自分の家には帰ってるんじゃない?」
「自分の家?」
「あれ、言ってなかったけ?ヒカルンは普段都内のマンションで生活してるんだよ」
エリカの言葉に類は少し驚く。てっきり他で管理している神社にでも住んでいるものだと思っていた。
「ずりぃよな、あいつだけ都内の高級マンション」
礼二が少し悔しそうに呟く。
「そりゃ、あんたと違ってヒカルンは喫茶店の経営してるし、陰陽師協会でも結構上のランクだし…」
「ほとんど陰陽師の仕事で食ってるようなもんだろ、それ…」
「陰陽師協会?」
二人の会話を聞きながら類は聞きなれない言葉に首をかしげる。
「そ。ヒカルンみたいな陰陽師がたくさんいる組織のこと。そこに所属すると初めて陰陽師として仕事を受けられるんだよ」
丁寧に説明してくれるエリカに類は「そうなんだ…」と納得する。
「ま、入るのも難しい鬼畜集団だけどな…」
礼二は剃刀を手に持つと、シェーバークリームを顎へと塗りたくる。
「そりゃ、しょーがないっしょ。そもそも礼二は怨霊とか払えないじゃん」
「寄せ付けない体質なんだから必要ねぇだろ」
「え、礼二さんって寄せ付けない体質なんですか?」
類は驚いて礼二に尋ねる。
「おお…、いってなかったか?」
礼二は慎重に剃刀を滑らせながら答える。
(そうか…、だから初めて会った時…)
初めてみんなと顔合わせをした時、どこか意識が虚ろだった類を現実世界へと引き戻したのは礼二の体質だったようだ。
「エリカちゃんはどんな体質なの?」
「あーし?」
類の質問にエリカは髪に充てていたヘアアイロンを鏡台へと置く。
「あーしは見えるってだけ」
「霊感が強いってこと?」
「そうそう、色んなもの見えちゃってもう大変…。だからヒカルンが、るいちーを連れてきたときなんかもう大変だったんだよ?」
「え、何が?」
類はよくわからないといった様子で小首をかしげる。
「だって、るいちーめっちゃ背中に憑けてくるんだもん」
「え…?!」
エリカの衝撃発言に類の背筋が冷たくなる。
「でも、ヒカルンが大体払ってくれたのと、馬鹿礼二のおかげで今は見えないけどね?」
満面の笑みでそう答えるエリカに、類は「そ、そう…」と呟いて生唾を飲み込む。
「だから、あーしは対して能力ないんだー」
エリカはそういうと、マスカラを手にアイメイクをし始める。
「まあ、エリカさんの場合そちらの体質より、頭が良いという特質のほうが目立ちますがね…」
誠が歯磨きをしながら反応する。
「そうなんだ…」
「あーしこう見えて大学飛び級で卒業しましたから!」
少し誇らしげに胸を張るエリカに類は素直に驚く。
「ちなみに僕も一緒です。霊感がありますがそこまで強くありません。僕とエリカさんはその頭脳を買われて、光兄さんに引き取られたようなものです」
「お前はただの聞き込み要因だろーが」
礼二が鬱陶しそうに突っ込みを入れる。
「まこちゃんは、若い子向けの聞き込み要因としてヒカルンが拾ってきたの」
エリカができるだけ小さな声で類に耳打ちをする。
「意外と、魑魅魍魎の情報って子供の方が詳しいからね…」
類はその言葉に小学生時代に流行った「学校の七不思議」や「こっくりさん」を思い出す。
「それより…、そろそろ出ねぇとやべーな」
礼二は少し慌てた様子で壁にかかる時計を確認する。
「早くしなよ礼二、るいちーが遅刻したらあんたが怒られるんだからねー」
エリカは尚もアイメイクを続けながら、礼二を急かす。
「だーうるせぇな!わーってるよ!」
礼二は慌てて剃刀を洗面台の棚へと戻すと、勢いよく水で顔を洗う。
「おし!行くぞ!類!」
「は、はい!」
ようやく準備の整った礼二は、傍らに置いてある斜め掛けの鞄を手に取ると、類を連れてその場を後にした。