性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
金木犀の花の香りに包まれながら、南雲類はじっと目の前に座る男の姿を捉えていた。
私の命、人生そのものが欲しいと言った男は目の前で優雅に紅茶を飲んでいる。
「うん、中々美味しい一品だな」
「…」
「ほら、君も飲みなさい」
「…」
「何、毒なんか入っていない」
「…結構です」
「それは紅茶が要らないということかね?、それとも私の提案を飲まない。ということかね?」
「…両方、といいたいところですが、私からも一つ提案があります」
類の言葉に蓮はカップをソーサーへと置く。
「なんだね、言ってみなさい」
「今から聞くことに正直に答えて下さい。そしたら、私は貴方の提案を呑みます」
「ほう…、いいだろう。何が聞きたいんだ?」
「私の母についてです」
「君の母?」
「私の母は恐らく言霊使いです。そして、これも推測ですが、母は協会に所属していました」
類の話に蓮は特に動揺した素振りを見せずに耳を傾ける。
「ですが、母は死にました。最初は父の事を追ってだと思っていましたが、二人の死は今思えばどうにも納得がいかないのです」
類は膝の上で両手を握りしめる。
確かに生活は苦しかったのかもしれない。それでも父は母といられて幸せそうだったし、母は父といられて幸せそうだった。
「恐らく、私が物心つく頃に母は協会を辞めていたのでしょう。お陰で生活はとても苦しかった…。でもだからといって死ぬほど追い詰められていた感じもしないのです」
そう。特にそう言った異変は無かった。あるとすれば目に見えない何者かの介入。
「しかし、ある日立て続けに二人は死にました。本当に突然。誰かに呪い殺された様に…」
「…人の死というのはいつも突然訪れるものだ」
蓮は手元に置かれた角砂糖の塊を紅茶の中に一つずつ入れていく。
「確かに、そうかもしれません。でも、私はそれだけで片付けられる問題ではない様に思うのです」
類の言葉に蓮は目を細める。
「私には、昔からある怨霊が憑いています。彼はいつも私が困っていると私の前に姿を現し、私の事を殺そうともしましたが、大半は私のことを守ってくれました」
「怨霊が人を助ける?馬鹿馬鹿しい…」
「えぇ、確かに。本当の怨霊ならそれは絶対にあり得ない事です。でも、仮にもしその怨霊が元々純粋無垢な人間だったとしたら?何かの理由で怨霊にならざるを得なかったとしたら?」
「…」
「土御門さん。私は【真実が知りたい】のです」
類はそこまで言うと口を閉ざした。それ以上にこの男にかける言葉が見当たらない。
「ふん、なるほど。真実か」
蓮は何か思案する様に、腕を組む。
「しかし、君はそれを知ってどうするんだね?」
「…どうもしません。ただ貴方の提案を飲むなら隠し事は無しにしたいだけです」
類は出来るだけ、凛とした態度で答える。こんなところで恐れを見せてはならない。何故なら今、目の前にいる男は光よりも強い能力を持ったベテラン陰陽師なのだ。
すると、蓮は暫くの沈黙を貫いた後その重たい口を開いた。
「……確かに、君の母は数年前うちにいた言霊使いだ。しかし、それと彼女の死は無関係だ。君に憑いている怨霊の事を私は知らないし。君の父には会ったとこともない」
「本当ですか?」
「こんな所で嘘を吐くメリットがあるのかね?」
「貴重な言霊使いを勧誘出来ます」
「ほう…」
蓮はどこか類の事を値踏みするように、その瞳を細める。
「…では、先に君の言い分を聞こう。話はそれからだ」
蓮はそう言うと、類に話の続きを求める。
「…私は、貴方が母と父を呪い殺したのだと思っています」
すると、何を思ったのか蓮は盛大に笑い始めた。
突然のことに類はビクリと肩を震わす。
「何を言うかと思えば…!私が?君の両親を?そんな馬鹿な話があるかね?」
その異常な反応に、類の中で益々不信感が高まる。
やはり、
この男は危険だー。
「土御門さん。笑わないで聞いて下さい。この話にはしっかりと証拠があるのです」
類の発言に蓮の表情が一瞬、強張る。
「証拠?私が君の両親を殺した証拠かね?」
「えぇ、そうです」
蓮は馬鹿馬鹿しいと言った表情を浮かべると、再び口元に笑を浮かべる。
「私に憑いている怨霊には名前があります」
「…怨霊に名前だと?」
「えぇ、彼の名は覚。彼は初めて私に会った時そう名乗ったのです」
類は蓮から目を逸らす事なく話を続ける。
「この名前に覚えが無いとは言わせません。私はあの世とこの世の狭間で沢山の事を見てきました。貴方は実の息子である覚を怨霊にし、私の両親を呪い殺した。そして、行き場のなくなった覚は心の弱い私に取り憑くようになった、違いますか?」
夢の中の母は真実を聞いてはいけないと言った。
でも、それは無理な話だ。
ごめんね、お母さんー。
私は、
光さんと覚を救いたい。
例え、ここで消されても
私は、あの二人をあるべき姿に戻してあげたいのだ。
私の命、人生そのものが欲しいと言った男は目の前で優雅に紅茶を飲んでいる。
「うん、中々美味しい一品だな」
「…」
「ほら、君も飲みなさい」
「…」
「何、毒なんか入っていない」
「…結構です」
「それは紅茶が要らないということかね?、それとも私の提案を飲まない。ということかね?」
「…両方、といいたいところですが、私からも一つ提案があります」
類の言葉に蓮はカップをソーサーへと置く。
「なんだね、言ってみなさい」
「今から聞くことに正直に答えて下さい。そしたら、私は貴方の提案を呑みます」
「ほう…、いいだろう。何が聞きたいんだ?」
「私の母についてです」
「君の母?」
「私の母は恐らく言霊使いです。そして、これも推測ですが、母は協会に所属していました」
類の話に蓮は特に動揺した素振りを見せずに耳を傾ける。
「ですが、母は死にました。最初は父の事を追ってだと思っていましたが、二人の死は今思えばどうにも納得がいかないのです」
類は膝の上で両手を握りしめる。
確かに生活は苦しかったのかもしれない。それでも父は母といられて幸せそうだったし、母は父といられて幸せそうだった。
「恐らく、私が物心つく頃に母は協会を辞めていたのでしょう。お陰で生活はとても苦しかった…。でもだからといって死ぬほど追い詰められていた感じもしないのです」
そう。特にそう言った異変は無かった。あるとすれば目に見えない何者かの介入。
「しかし、ある日立て続けに二人は死にました。本当に突然。誰かに呪い殺された様に…」
「…人の死というのはいつも突然訪れるものだ」
蓮は手元に置かれた角砂糖の塊を紅茶の中に一つずつ入れていく。
「確かに、そうかもしれません。でも、私はそれだけで片付けられる問題ではない様に思うのです」
類の言葉に蓮は目を細める。
「私には、昔からある怨霊が憑いています。彼はいつも私が困っていると私の前に姿を現し、私の事を殺そうともしましたが、大半は私のことを守ってくれました」
「怨霊が人を助ける?馬鹿馬鹿しい…」
「えぇ、確かに。本当の怨霊ならそれは絶対にあり得ない事です。でも、仮にもしその怨霊が元々純粋無垢な人間だったとしたら?何かの理由で怨霊にならざるを得なかったとしたら?」
「…」
「土御門さん。私は【真実が知りたい】のです」
類はそこまで言うと口を閉ざした。それ以上にこの男にかける言葉が見当たらない。
「ふん、なるほど。真実か」
蓮は何か思案する様に、腕を組む。
「しかし、君はそれを知ってどうするんだね?」
「…どうもしません。ただ貴方の提案を飲むなら隠し事は無しにしたいだけです」
類は出来るだけ、凛とした態度で答える。こんなところで恐れを見せてはならない。何故なら今、目の前にいる男は光よりも強い能力を持ったベテラン陰陽師なのだ。
すると、蓮は暫くの沈黙を貫いた後その重たい口を開いた。
「……確かに、君の母は数年前うちにいた言霊使いだ。しかし、それと彼女の死は無関係だ。君に憑いている怨霊の事を私は知らないし。君の父には会ったとこともない」
「本当ですか?」
「こんな所で嘘を吐くメリットがあるのかね?」
「貴重な言霊使いを勧誘出来ます」
「ほう…」
蓮はどこか類の事を値踏みするように、その瞳を細める。
「…では、先に君の言い分を聞こう。話はそれからだ」
蓮はそう言うと、類に話の続きを求める。
「…私は、貴方が母と父を呪い殺したのだと思っています」
すると、何を思ったのか蓮は盛大に笑い始めた。
突然のことに類はビクリと肩を震わす。
「何を言うかと思えば…!私が?君の両親を?そんな馬鹿な話があるかね?」
その異常な反応に、類の中で益々不信感が高まる。
やはり、
この男は危険だー。
「土御門さん。笑わないで聞いて下さい。この話にはしっかりと証拠があるのです」
類の発言に蓮の表情が一瞬、強張る。
「証拠?私が君の両親を殺した証拠かね?」
「えぇ、そうです」
蓮は馬鹿馬鹿しいと言った表情を浮かべると、再び口元に笑を浮かべる。
「私に憑いている怨霊には名前があります」
「…怨霊に名前だと?」
「えぇ、彼の名は覚。彼は初めて私に会った時そう名乗ったのです」
類は蓮から目を逸らす事なく話を続ける。
「この名前に覚えが無いとは言わせません。私はあの世とこの世の狭間で沢山の事を見てきました。貴方は実の息子である覚を怨霊にし、私の両親を呪い殺した。そして、行き場のなくなった覚は心の弱い私に取り憑くようになった、違いますか?」
夢の中の母は真実を聞いてはいけないと言った。
でも、それは無理な話だ。
ごめんね、お母さんー。
私は、
光さんと覚を救いたい。
例え、ここで消されても
私は、あの二人をあるべき姿に戻してあげたいのだ。