性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 「はい、お疲れっす。これで未提出の報告書は全部です。帰って貰っていいっすよ」

 檜森は紙の資料を纏めると、それを鍵付きのキャビネットケースへと保管した。

 「あぁ疲れた…。ってか何で今更報告書が紙なんだよ。電子にしろ、電子に」

 光の文句に、檜森は苦笑する。

 「んなの、僕じゃなくて会長に言ってくださいよ。まぁ、なんでも紙の方が機密性が高いってので採用されてるみたいっすけど、お陰で俺ら事務員は毎日大変っすよ…」

 檜森はそういうと、早々に帰り支度を始める。

 「え、もう帰んの?」

 「えぇ、今日は妻の誕生日なんで」

 檜森の言葉に、光はつまらなそうにソファーから立ち上がる。

 「嫁さん、元気?」

 「元気っすよ」

 「幸せ?」

 「幸せですよ」

 「…」

 わかりやすく、不機嫌になった光の態度に檜森は溜め息を吐く。

 「何すか、突然黙らないでもらえます?」

 「ねぇ、結婚って楽しい?」

 「はあ?」

 唐突な質問に、檜森は思わず顔を顰める。

 「楽しいっすよ、でもその分楽しくない事もあるっす」

 「んだよ、それ」

 「そのままの意味っすよ。何事にもプラスマイナスな事はあるでしょう」

 「…なるほど、まぁそういうもんだよな」

 光はどこか、納得した様子で先程投げ捨てた雑誌類を元の場所へと丁寧に片付けていく。

 「そんなことより、先輩はいいんですか?こんな時間まで類ちゃんを家に放置しといて」

 桧森の皮肉混じりな質問に光は苦笑する。

 「いいんだよ。あいつは他の女と違って構ってちゃんじゃないし、一人でもそれなりに考えて行動する。何なら、俺がいない方があいつには、いいのかもな」

 「やけに弱気っすね」

 「弱気にもなる。何せあいつからしたら俺は嘘つきだから」

 「…?」

 「さて、そろそろ、帰ろう。ほら、雑誌はこんなもんでいいだろ?」

 光はそう言うと、雑誌ラックを指差す。

 「はい。完璧っす」

 まるで、書店のように綺麗に並べられた雑誌を見て檜森は満足そうに頷く。

 「じゃあ、先輩お疲れ様でした」

 「あぁ、お疲れ」

 二人は軽く挨拶を済ませると、それぞれ事務所を後にした。
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