性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 類は訳がわからぬまま、光に手を引かれ、半ば強制的に自宅だというマンションのエレベーターへと押し込まれた。

 「あの…」

 類は不安そうに、光の顔を見つめる。
 
 「大丈夫だよ。ここは本当にお前と俺の家だから。ちゃんとお前の部屋もあるし、私物も置いてある」

 類の心中を察してか、光は優しく説明する。

 「いえ、そういう事ではなくて、その…」

 「?」

 「家族って、お兄さんとかですか?それとも弟?それとも…」

 「あぁ、そういう事か…」

 ようやく類の言わんとしている事に気がついた光は、類の手を引いてエレベーターを降りる。

 「そうだな、なんて説明したらいいかな…」

 こんなことなら、早く彼女との関係性をもっと、分かりやすいものにしておけば良かったと光は珍しく後悔する。

 「……」

 ふと、黙り込んでしまった光に類は首を傾げる。そんなに複雑な家族関係なのだろうか?

 「兄ちゃんかな…」

 しばらくして、ようやく口を開いたかと思えば意外にもその答えは普通であった。

 「お兄さん…?」

 「うん。俺はお前の兄貴。そんでお前は俺の妹」

 「…でも、苗字が、」

 「お互い片親が違うんだ」

 光の説明に、類は押し黙る。何故かそれ以上話を聞いてはいけないような気がした。

 「ま、そんな親も今は海外に居て会えないんだけどね」

 「そ、そうなんですか…」

 「うん。だからこの家はお前と俺の二人暮らし…あ、あと猫もいるよ?」

 光はそう言うと自宅の鍵を開けて、類を家の中へと招き入れる。

 「ソファに座ってて、今お茶入れるから」

 聞きたいことが山ほどあったが、類はひとまず光の指示に従い、広いリビングルームに備え付けられた大きなソファへと腰掛ける。

 室内を見渡すが、やはり今の類には何一つ思い出せない。

 すると、類の足元に一匹の猫が姿を現した。

 「んなぁー」

 猫は間延びした鳴き声を上げると、嬉しそうに類の足元へ自身の顔を擦り付けている。

 「君は私を覚えてるの?」

 「なぁおーん」

 「そっか…、私は全然覚えてないんだ…。ごめんね」

 類の言葉に猫は少々驚いた表情を見せるとポフっと類の膝に着席した。

 「かわいい…」

 類が猫の頭を撫でていると、台所からようやく光が姿を現した。

 「お待たせ。やけに懐いてんな。そいつの名前はだいふく。古い友人から預かってんだ」

 「古い友人…?」

 「うん。まぁ、もうこの世には居ない人なんだけどね」

 光はそう言うと、類の前に可愛らしいマグカップを置いた。中には暖かい紅茶が注がれている。

 「あの…」

 「ん?」

 「私、これからどうすればいいんでしょうか?」

 「…」

 何故かその質問に光は黙り込んでしまう。

 ここまで類を不安にさせまいと平然を装ってきた。しかし、いざこれからの事を尋ねられると何と答えて良いのかわからない。

 「…」

 「あの…」

 「あぁ。ごめん。そうだよな、そうだな、まずは…、まずは…」


 駄目だー。


 良い解決策が何一つ思い浮かばない。


 「…?」

 類は不安そうに、光の顔を覗き込む。


 「…とにかく今日は休め。これからの事は明日考えよう」

 光はそう言うと類の背中を優しく撫でる。

 「病院とか行かなくていいのでしょうか?」

 「医者じゃ治せない」

 「?」

 「とにかく、明日考えよう。一晩眠ればもしかしたら何かいい案が出てくるかもしれない」

 そう。きっと出てくるに違いない。

 光は自分にそう強く言い聞かせると、できる限り優しく微笑んだ。
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