性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 獏との通話の後、すっかり眠りこけていた光は朝方四時に目が覚めた。

 (……)

 気分はどんよりと重く、心なしか目元が腫れぼったい。

 光は、小さく溜め息を吐くと、自分を落ち着けるために一つ深呼吸をする。

 祖父の提案では、類と休めとの事だったが、生憎それを素直に受け入れる心の余裕が今の光には無かった。

 (…残念だけど、類に囮の仕事はもう頼めない)

 このまま、無理にでも囮の仕事を続けさせれば、今度こそ父親は類の命を狙ってくるに違いない。

 光はぼんやりと天井を見つめながらこれからの事について考えを巡らす。

 「いい子だったよな…」

 ふと、本心が口をついて出る。でもきっとこの言葉が類に届くことは一生ない。

 (一先ず、あいつの受け入れ先を探してやらなきゃな…)

 光はそう思い直すと、スマホに登録されている一つの連絡先をタップした。

 すると、まだ早朝だというのに一人の女性が電話口に現れた。

 「全く、どいつもこいつも人づかいが荒いね…」

 女は少ししゃがれた声でそう話すと、「仕事かい?」と端的に尋ねた。

 「三十代前半から四十代くらいで、心底優しいお人よしの結婚願望が強い独身男性を探してる…」

 光も端的に要望を伝えると、電話越しの女はやれやれと小さく溜め息を吐いた。

 「その声は、光だね。あんたがわざわざ、この私を使って男を探す何て一体どういう風の吹き回しだい?」

 「状況が変わった。とにかく早急に探して欲しい」

 女はその言葉に苦笑すると、「ちょっと、待ちな。」と言って電話を保留にする。

 数分後再び電話越しに現れた女は、一つ咳払いをすると再びしゃがれた声で喋り始めた。

 「良さそうなのが、二人居るね、一人は公務員の男で中肉中背…、もう一人は会社経営者…、細身でハンサムだが…離婚歴がある。どちらも悪い噂は聞かない。後者の離婚理由も妻による不倫が原因らしい…」

 女の言葉に、光は少しだけ思案する。

 「二人のデータを送ってくれ。後、他にも候補者がいればそれも頼む…」

 「ふん、どんな理由かは聞かないでおいてやるが、お代は割り増しで請求させて貰うよ…」

 女は意地悪くそう吐き捨てると、通話を切った。

 「相変わらず、怖ぇおばさんだな…」

 光はスマホを放り投げると、再び天井を見つめる。

 今し方電話した女は、協会内でも有名な女で、みんなは彼女のことを巡り合わせババアと呼ぶ。何でも要望通りの相手を見つけてくるエキスパートで、元は芸能事務所の社長をしていたこともあるらしい。

 光は盛大にため息を吐く。

 これでいい。彼女は自分なんかと居るより、優しくて思いやりのある男と一緒に居るべきである。

 そう、自分なんかより誠実な男とー。

 光は、瞼を閉じる。そこには類と過ごした日々の出来事が鮮明に広がっていた。

 出会った頃の不安そうな彼女の表情。

 少し慣れてきて微笑む彼女の笑顔。
 
 戸惑いながらも、堂々と怨霊に対峙していた彼女の横顔は今まで出会った誰よりも美しかった。

 「…」

 いつか、こうなることは予測していた。

 なったらなったで仕方がないと思ってた。

 でも、改めてその時が来ると離れたくないと思ってしまうのは何故だろうか。

 「俺は、後何回こんなことを繰り返すんだ…」

 できる事なら、もうこんなことは辞めたい。でも、自分の中にあるどす黒い復讐心を未だに消化できずにいる。

 とにかく、今は類の為に動かなくては。それが今の自分にできる最大限の恩返しだ。
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