性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
「ほら、母さんの言った通りだったでしょう?」
光の脳内に、母の声が響き渡る。母がこの世を去ってからというもの光は常に、この母のような存在に悩まされていた。
厳密には母ではない。
母の形をした怨霊だ。
覚を奪われ、無念の中消えることが出来なかった残りカス。
当然、母ではない。しかし、光はそれを祓えずにいた。
(…)
「光。早くお母さんとお父さんのところへ戻りましょう」
(…)
「さぁ、早く。お父さんのところへ」
(…)
「光」
(…)
「聞いてるの?」
(…)
「光、光?」
(…)
「光、光、光、光!光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光!」
「光さん!」
光はその言葉にハッと顔を上げる。
「大丈夫…、ですか…?」
「…あ、あぁ、ごめん。えっと」
光は額を拭うと、自分が酷く汗をかいていた事に気がつく。
「…光さん」
「ごめん、やっぱり復讐を辞めるのは無理だ…。俺はやらなきゃいけない…」
「…それって、お母さんの為に?それとも貴方についてる怨霊の為に?」
類の言葉に光は目を見開く。
まるで、すべての隠し事を見透かされてしまった子供のように光は動揺する。
「…俺に怨霊だと?冗談よせよ、何もわかってねぇくせに」
「…光さん」
「俺はお前以上に沢山の怨霊をこの手で祓ってきた、それを何を今更…」
「私が言いたいのは、」
「黙れ!、何も知らねぇ癖に!」
光は怒りに任せて、類を怒鳴りつけると部屋を出ようとする。しかしー、
「光さん!【待ってください】!」
類から無意識に放たれた言霊に、光の体が静止する。初めての事態に光は混乱する。
「私は貴方を責めたいんじゃありません…。話がしたいんです」
「…俺は何も話したくない」
「怨霊とは話すのに?」
「は?」
「ここに来るまでの間、貴方はずっと上の空でした…、ここに来てからも、ずっと、ずっと、ずっと、頭の中て誰かと会話してる、ずっと、ずっと、不自然で、何かに囚われていて、とにかく、変なんです…」
「ハハ…、俺が?、怨霊に?、馬鹿言うなよ…」
「これは、私の勘ですけど…、私が記憶をなくす前から貴方はそうだったのかも知れません…。いえ…、もしかしたら、もっと前から…」
「前から…、変、俺が?俺が、変だった…?」
光は動揺した表情で、虚空を見つめる。
「光さん…。貴方に憑いてる女性は貴方のことを何も知りません…。何一つ、知らないんです」
類の言葉に光の瞼から涙が溢れる。
何も覚えていない筈なのに…、彼女は何故、以前の自分と同じような言葉を使うのか。
「本当のお母さんは、復讐なんて望んでません」
「…なんで、そんな事お前にわかるの?」
「わかりますよ。人間ですから。人を傷つけたり、誰かを恨んだり、仕返ししたり、そんなの喜ぶのは怨霊だけです」
自分を傷つけることも、誰かを恨むことも、仕返しすることも、そんなの誰も望んではいない。
小さな赤子が、あいつはズルい。あいつはムカつくだなんて思わない。
彼らはただ懸命に生きたいと泣いているだけなのだ。
「喜ぶのは、怨霊だけ…」
光はどこかハッとした表情で、視線を動かす。まるで、今まで見えていた灰色の世界が嘘のように剥がれ落ちていく感覚に光の脳内は一気に後悔の念で埋め尽くされた。
「俺は、…俺は、今まで一体何をしていた…。今までの…俺の人生は何だったんだ…」
いつも、どこかで世間を見下し、
いつも、どこかで他者を嘲笑ってきた。
でも、最初はそうじゃなかった。
最初は純粋に喜んでもらいたいだけだった。
母に喜んでほしくて、沢山手伝いをした。
父に喜んでほしくて、沢山訓練をした。
覚に喜んでほしくて、沢山一緒に遊んだ。
ただ、それだけだった。
それだけだったのに。
「…一番、憑かれてたのは、、俺…なのか、、?」
光は涙を流しながら震えた声で呟く。
今まで、自分は人を救ってやっていると思っていた。でも、本当に救ってやらなければいけないのは己自身だった。
光はその事実に、茫然自失と立ち尽くす。
もはや、言霊で身体が囚われていることなんてどうでもいい。今すぐに、沢山の人々に謝りたい気持ちが溢れかえる。
すると、類は静止した光の側へと近づき、彼に向かい合うようにして立った。
「…類。俺は、俺は、、」
光は言葉にならない言葉を紡ぐ。そこには確かな混乱と後悔が渦巻いていた。
「俺は…、俺はどうすれば…」
「きっと、その経験は貴方のこれからの人生に必要な物だった。」
「これからの人生…」
「光さん。貴方は【幸せになる為に産まれてきたんですよ】」
類はそう言うと、光の額へと優しく口付けた。
どうか、彼がこの先の人生幸せでありますように。
嘘を吐き続ける人生から抜け出せますように。
そう願いを込めて。
光の脳内に、母の声が響き渡る。母がこの世を去ってからというもの光は常に、この母のような存在に悩まされていた。
厳密には母ではない。
母の形をした怨霊だ。
覚を奪われ、無念の中消えることが出来なかった残りカス。
当然、母ではない。しかし、光はそれを祓えずにいた。
(…)
「光。早くお母さんとお父さんのところへ戻りましょう」
(…)
「さぁ、早く。お父さんのところへ」
(…)
「光」
(…)
「聞いてるの?」
(…)
「光、光?」
(…)
「光、光、光、光!光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光光!」
「光さん!」
光はその言葉にハッと顔を上げる。
「大丈夫…、ですか…?」
「…あ、あぁ、ごめん。えっと」
光は額を拭うと、自分が酷く汗をかいていた事に気がつく。
「…光さん」
「ごめん、やっぱり復讐を辞めるのは無理だ…。俺はやらなきゃいけない…」
「…それって、お母さんの為に?それとも貴方についてる怨霊の為に?」
類の言葉に光は目を見開く。
まるで、すべての隠し事を見透かされてしまった子供のように光は動揺する。
「…俺に怨霊だと?冗談よせよ、何もわかってねぇくせに」
「…光さん」
「俺はお前以上に沢山の怨霊をこの手で祓ってきた、それを何を今更…」
「私が言いたいのは、」
「黙れ!、何も知らねぇ癖に!」
光は怒りに任せて、類を怒鳴りつけると部屋を出ようとする。しかしー、
「光さん!【待ってください】!」
類から無意識に放たれた言霊に、光の体が静止する。初めての事態に光は混乱する。
「私は貴方を責めたいんじゃありません…。話がしたいんです」
「…俺は何も話したくない」
「怨霊とは話すのに?」
「は?」
「ここに来るまでの間、貴方はずっと上の空でした…、ここに来てからも、ずっと、ずっと、ずっと、頭の中て誰かと会話してる、ずっと、ずっと、不自然で、何かに囚われていて、とにかく、変なんです…」
「ハハ…、俺が?、怨霊に?、馬鹿言うなよ…」
「これは、私の勘ですけど…、私が記憶をなくす前から貴方はそうだったのかも知れません…。いえ…、もしかしたら、もっと前から…」
「前から…、変、俺が?俺が、変だった…?」
光は動揺した表情で、虚空を見つめる。
「光さん…。貴方に憑いてる女性は貴方のことを何も知りません…。何一つ、知らないんです」
類の言葉に光の瞼から涙が溢れる。
何も覚えていない筈なのに…、彼女は何故、以前の自分と同じような言葉を使うのか。
「本当のお母さんは、復讐なんて望んでません」
「…なんで、そんな事お前にわかるの?」
「わかりますよ。人間ですから。人を傷つけたり、誰かを恨んだり、仕返ししたり、そんなの喜ぶのは怨霊だけです」
自分を傷つけることも、誰かを恨むことも、仕返しすることも、そんなの誰も望んではいない。
小さな赤子が、あいつはズルい。あいつはムカつくだなんて思わない。
彼らはただ懸命に生きたいと泣いているだけなのだ。
「喜ぶのは、怨霊だけ…」
光はどこかハッとした表情で、視線を動かす。まるで、今まで見えていた灰色の世界が嘘のように剥がれ落ちていく感覚に光の脳内は一気に後悔の念で埋め尽くされた。
「俺は、…俺は、今まで一体何をしていた…。今までの…俺の人生は何だったんだ…」
いつも、どこかで世間を見下し、
いつも、どこかで他者を嘲笑ってきた。
でも、最初はそうじゃなかった。
最初は純粋に喜んでもらいたいだけだった。
母に喜んでほしくて、沢山手伝いをした。
父に喜んでほしくて、沢山訓練をした。
覚に喜んでほしくて、沢山一緒に遊んだ。
ただ、それだけだった。
それだけだったのに。
「…一番、憑かれてたのは、、俺…なのか、、?」
光は涙を流しながら震えた声で呟く。
今まで、自分は人を救ってやっていると思っていた。でも、本当に救ってやらなければいけないのは己自身だった。
光はその事実に、茫然自失と立ち尽くす。
もはや、言霊で身体が囚われていることなんてどうでもいい。今すぐに、沢山の人々に謝りたい気持ちが溢れかえる。
すると、類は静止した光の側へと近づき、彼に向かい合うようにして立った。
「…類。俺は、俺は、、」
光は言葉にならない言葉を紡ぐ。そこには確かな混乱と後悔が渦巻いていた。
「俺は…、俺はどうすれば…」
「きっと、その経験は貴方のこれからの人生に必要な物だった。」
「これからの人生…」
「光さん。貴方は【幸せになる為に産まれてきたんですよ】」
類はそう言うと、光の額へと優しく口付けた。
どうか、彼がこの先の人生幸せでありますように。
嘘を吐き続ける人生から抜け出せますように。
そう願いを込めて。