性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
第二十一章【零ポイント】
 春のうららかな昼下がり、二ノ宮は協会があるビルの屋上で大きな欠伸を噛み殺した。

 「はあ?、あの性悪陰陽師が協会を辞めたやと?」

 「うん。何でも、好きな子が出来たからって」

 堂上は珍しく、退屈そうな表情で待っていた小説のページを捲る。

 「ちょお、待て。あいつがんなアホな理由で辞めるとか、何かあるやろ。なんか」

 二ノ宮は何度も目を擦りながら、堂上に尋ねる。

 「それが、何も出てこないんだよねぇ」

 光が辞職届を出したのは、ついこの間のこと。それも、紙切れ一枚だけの簡素なもので、それを受け取った事務員の女は卒倒したというほど、協会内には驚きと哀愁が漂っていた。

 「理由の欄に、好きな子とこれからの人生を考えたい為。ってふざけた理由が書かれていてね、僕も最初見た時は腹が捩れそうなほど爆笑したけど、これが本当だと知ってから、頭の血管が切れそうなほど怒り浸透だったよ」

 堂上はそう言いながら、包帯だらけの指先を二宮に見せる。
 
 「で、でも良かったやん。一応骨は繋がったんやろ?それならそれでー、」

 「いいと思うかい?、あいつの結んだ変な呪いのせいで、僕はもう印が結べない。お陰で退屈な事務仕事に回されて、お先真っ暗さ」

 あの日、光に指をへし折られてからと言うもの、堂上の陰陽師生命は完全に絶たれてしまった。

 「呪いなんやったら、あいつに解いてもらったらええやん。どうせ、もう引退した身なんやから、言うたら意外と解いてくれるかもしれへんよ?」

 二ノ宮はいつもの仕返しとばかりに、嫌味たっぷりにアドバイスをする。

 「もちろん、お願いしに行ったさ。菓子折りを持ってね。そしたら、あいつ何て言ったと思う?」

 「何て言うたん?」

 二ノ宮は興味津々に尋ねる。
 
 「会長の悪事を全て公開しろ。って言うんだ。この僕に向かってね」

  「そら、また、凄い要求やな…」

 陰陽師協会の会長、土御門蓮には昔から後ろ暗い話が絶えない。しかし、皆報復を恐れて見て見ぬふりをしているのは有名な話しである。

 「いやぁ、参ったね。別に悪事を公開するのは構わないんだけど…、そうなると僕まで罰せられる可能性があるからね」

 堂上はやれやれと言った様子で本を閉じる。言葉尻とは違ってその表情は意外にも穏やかだ。

 「何か企んでるんか?」

 二ノ宮はそんな堂上の様子に怪訝そうに首を傾げる。

 「いやいや、何も企んでないよ。正直、会長の存在は邪魔だなと思ってたし、僕が興味あるのは光だけだからね」

 「はあ?、自分何気持ち悪い事言うてんの?」

 二ノ宮は分かりやすく不愉快な表情を見せる。

 「おや、知らなかったかい?、僕はこう見えて土御門光という人間が大好きなんだよ?だって、面白いじゃないか。嘘つきで、自信家、その割には繊細で傷つきやすい。能力はあるのに、変な倫理観から親父は超えられない。無駄に顔だけは良いからから人に好かれやすく、憑かれやすい…」

 隣でクスクスと笑う堂上の姿に、二ノ宮は光以上にこの男の方が危険なのでは無いかと危惧する。

 「さて、無駄話は終わりだ。僕もそろそろ腹を括らないとね」

 「…ほんまに、会長を売るんか?」

 「だって、それしか無いだろ?」




 この僕が陰陽師としてこれからも生き残るにはねー。
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