性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
第五章【波乱のラウンジ】
 買い出し当日。

 ようやく待ち合わせ場所に着いた類は、何度もあたりを見渡すと小さくため息を吐いた。てっきり、社から一緒に出向くものだと思っていたが、意外にも現地集合であったことに、いよいよ光に嫌われているのではないかと一抹の不安がよぎる。

 (すごい人…)

 正直、人混みがあまり得意ではない類は落ち着かない様子でエリカから借りた腕時計を何度も確認する。

 (ちょっと早く着きすぎちゃったな…)

 時刻は、十一時二十分。待ち合わせの時刻までは、後十分もある。類は目の前のショーウィンドウに移った自分の姿を確認する。
 少し派手目な自分の姿に苦笑する。

 (やっぱり、エリカちゃんの服は若すぎたかな…)

 お出かけ用の服装など持ち合わせていなかった類は、仕方なく同性のエリカに洋服を借りたわけであるがやはりティーンエイジャーの服装は自分にはキツかったかもしれない。

 (できるだけ地味目の選んできたんだけどな…)

 結局グレーのニットスカートに、ブーツといった格好に収まった訳だがよくよく見るとシルエットがかなりはっきりしており、下手をすればそういう目的で立ちんぼをしている女にも見える。

 やはりパンツスタイルにしておくべきだったと、内心落ち込む類は盛大にため息を吐く。すると、そのため息に反応するように何者かに肩を叩かれた。

 ようやく光が来たものだと思った類はゆっくりと後ろを振り返る。

 「どうしたの?んなため息ついちゃって」

 しかし、そこには見たことのない男が立っていた。光と同じくらいの身長だろうか、背の高い男は周囲の女性が足を止めてしまうくらい、とても目立っていた。

 「え…、いや、別に…」

 見ず知らずの、少しチャラそうな男に声を掛けられてしまった類は、一気に警戒心を露わにする。

 「ああ、驚かせたんならごめんね」

 男はそんな類の反応に眉根を下げる。しかし、先ほどから何故か顔は笑ったままである。

 (何か…、この人、怖い)

 直感でそう感じた類は、一歩後ろへと後ずさる。すると、男は類の内心を察したのか、困った様子で両手を上げて見せた。

 「ごめん、ごめん。いやね、君結構〚ツイテル〛から」

 「え…?」

 ツイテルとはどういうことだろう…。

 「君さ、バイトとか興味ない?」

 「バイトですか…」

 「そうそう。バイト」

 男は両手を下げると、懐から名刺のようなものを取り出す。

 「俺…、僕は堂上彰《どうじょう あきら》って言うんだ」

 何故か一人称を言い直した堂上という男に不信感を募らせながらも、類は差し出された名刺を渋々受け取る。すると、そこには〚憑き物でお悩みの方は、令和陰陽師まで!〛とポップな字体の宣伝文と共に名前と電話番号が書かれていた。

 「お、陰陽師…」

 まさか、こんな都心で再び陰陽師を名乗る男に出会った事に、類は驚いた表情を見せる。

 「うん。ちょっと胡散臭いかもだけど、ちゃんと陰陽師協会に登録された本物だよ」

 堂上と名乗った男はそういうとニコニコと、自身が不審者では無い事をアピールする。

 「ちなみに、君は今学生さん?」

 「い、いえ…」

 「ほー、そうなんだ。じゃあ主婦さん?それともどこかにお勤め?」

 少し変わった喋り口調に類は困惑したように、「ア、アルバイトです…」と答える。

 「なんだ。じゃあ都合がいいや。陰陽師のバイトやってみない?」

 「お、陰陽師のバイトですか…」

 「うん。仕事内容は簡単。君は囮になって僕と一緒に怨霊の出るスポットに来てくれればいいんだ」

 なんだか、どこかで聞いたことがある文言に類は顔色を青くする。

 「もちろん。報酬はちゃんと支払うよ?なんと今なら時給二千円!」

 そういって堂上は両手をピースして見せる。類はそんな堂上の言葉に顔を引きつらせる。

 「そ、それって、安全なんですか…?」

 光から聞いた話では生命の保証はないという話であったが…。すると、堂上は「あれ?」といった表情で首をかしげる。

 「君って面白い事を言うね、〚憑かれ人〛は大概自分の人生に嫌気がさしている人間が多いはずなんだけど…」
 
 そういうと、先ほどまでニコニコと微笑んでいた瞳が鋭く開眼した。



 「どうやら君は違うようだ…」
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