性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
給仕係の男が光の元へ可愛らしいアフタヌーンティースタンドを運んできたのは、類がラウンジを飛び出してから直ぐの事であった。
「お待たせいたしました…。おや?先程まで一緒に居たお連れ様は如何されましたか?」
給仕係の男は空いたソファを見つけると、チラりと光の方へと視線を投げかける。
「それって、嫌味?」
光は不機嫌そうな表情で給仕係の男を睨みつける。
「いえ、とんでもございません。私はただこの可愛らしいアフタヌーンティーセットをお召し上がりになる予定だった、あのお嬢様の笑顔が気になっただけでございます…」
まるで、類をこの場に連れてきた光の意図をわざとらしく代弁する給仕係の男に光は顔を顰める。
「やっぱ嫌味じゃん…。クソ…」
光は両手で顔覆うと、そのままソファに沈み込んだ。給仕係の男はそんな光の姿に苦笑する。
「そんなに落ち込むなら、さっさと謝罪しに行けば宜しいでは無いですか」
「別に、落ち込んでねぇよ…」
「おや、そうですか。てっきり女の子に平手打ちを食らって落ち込んでいるものだと…」
給仕係の男は淡々と机の上にティーカップや、角砂糖などを配膳していく。
「全部見てたのかよ…」
「いえ、まさか。そこで暇を持て余していた給仕係に話を聞いただけですよ」
給仕係の男はそう言って微笑むと、光の席から少し離れた場所に立つ二人組を一瞥する。
「…」
光は睨みつけるようにその二人組へ視線を送ると、その視線に気づいた二人は慌てた様子でどこかに姿を消してしまった。
「それよりさ、何してんの?」
「何とは?」
光は再び視線を戻すと、先ほどから自分しかいないテーブルの上に丁寧にアフタヌーンティースタンドをセッティングする男を見つめる。
「だから、なんでケーキ並べてんだって聞いてんだよ」
もう必要ではなくなったティーセット一式を見て光は不愉快そうに尋ねる。
「ああ。こちらのアフタヌーンティーセットはこの後来られる女性陰陽師の方が注文された物ですよ…。それとも今出ていかれたお嬢さん様にもう一つご用意いたしましょうか?」
その時、光は初めて自分が揶揄われていた事を認識する。
「へー。いい度胸してんじゃん…」
光はそう呟くと、手元で小さく印を結んだ。すると、男の身体がたちまち二つに切り裂かれる。
「おや…、私を消されるおつもりですか?」
「そうだよ。どう?消される気持ちって?」
光はどこか悪戯っ子の様に笑ってみせると給餌係の男は困ったように眉根を下げる。
「どうと申しましても…、そんな事よりよろしいんですか?」
「何が?」
「会長の式神を勝手に消すと、色々と問題になりますが…?」
しかし、光は「いいんだよ…」と小さな声で呟くと、勢いよく二本の指を真横に引いた。
次の瞬間、給仕係の男は跡形もなくその場から姿を消す。床には細かく切り裂かれた紙切れだけが残り、まるで最初からその場には誰も居なかったように静けさだけが、その空間を包み込む。
「だって、俺はその会長の息子なんだから…」
どこか自嘲するようにそう呟くと、仕返しとばかりに、傍らに置かれたティーポットの中身をアフタヌーンティースタンドに向けてぶちまける。綺麗に並べられた焼き菓子やケーキ達は瞬く間に水分を含み形を変えていく。
「あーあ。もったいね」
楽しそうにポットの中身を全てぶちまけた光は、中身が空になると何事も無かったかのようにその場を後にした。
「お待たせいたしました…。おや?先程まで一緒に居たお連れ様は如何されましたか?」
給仕係の男は空いたソファを見つけると、チラりと光の方へと視線を投げかける。
「それって、嫌味?」
光は不機嫌そうな表情で給仕係の男を睨みつける。
「いえ、とんでもございません。私はただこの可愛らしいアフタヌーンティーセットをお召し上がりになる予定だった、あのお嬢様の笑顔が気になっただけでございます…」
まるで、類をこの場に連れてきた光の意図をわざとらしく代弁する給仕係の男に光は顔を顰める。
「やっぱ嫌味じゃん…。クソ…」
光は両手で顔覆うと、そのままソファに沈み込んだ。給仕係の男はそんな光の姿に苦笑する。
「そんなに落ち込むなら、さっさと謝罪しに行けば宜しいでは無いですか」
「別に、落ち込んでねぇよ…」
「おや、そうですか。てっきり女の子に平手打ちを食らって落ち込んでいるものだと…」
給仕係の男は淡々と机の上にティーカップや、角砂糖などを配膳していく。
「全部見てたのかよ…」
「いえ、まさか。そこで暇を持て余していた給仕係に話を聞いただけですよ」
給仕係の男はそう言って微笑むと、光の席から少し離れた場所に立つ二人組を一瞥する。
「…」
光は睨みつけるようにその二人組へ視線を送ると、その視線に気づいた二人は慌てた様子でどこかに姿を消してしまった。
「それよりさ、何してんの?」
「何とは?」
光は再び視線を戻すと、先ほどから自分しかいないテーブルの上に丁寧にアフタヌーンティースタンドをセッティングする男を見つめる。
「だから、なんでケーキ並べてんだって聞いてんだよ」
もう必要ではなくなったティーセット一式を見て光は不愉快そうに尋ねる。
「ああ。こちらのアフタヌーンティーセットはこの後来られる女性陰陽師の方が注文された物ですよ…。それとも今出ていかれたお嬢さん様にもう一つご用意いたしましょうか?」
その時、光は初めて自分が揶揄われていた事を認識する。
「へー。いい度胸してんじゃん…」
光はそう呟くと、手元で小さく印を結んだ。すると、男の身体がたちまち二つに切り裂かれる。
「おや…、私を消されるおつもりですか?」
「そうだよ。どう?消される気持ちって?」
光はどこか悪戯っ子の様に笑ってみせると給餌係の男は困ったように眉根を下げる。
「どうと申しましても…、そんな事よりよろしいんですか?」
「何が?」
「会長の式神を勝手に消すと、色々と問題になりますが…?」
しかし、光は「いいんだよ…」と小さな声で呟くと、勢いよく二本の指を真横に引いた。
次の瞬間、給仕係の男は跡形もなくその場から姿を消す。床には細かく切り裂かれた紙切れだけが残り、まるで最初からその場には誰も居なかったように静けさだけが、その空間を包み込む。
「だって、俺はその会長の息子なんだから…」
どこか自嘲するようにそう呟くと、仕返しとばかりに、傍らに置かれたティーポットの中身をアフタヌーンティースタンドに向けてぶちまける。綺麗に並べられた焼き菓子やケーキ達は瞬く間に水分を含み形を変えていく。
「あーあ。もったいね」
楽しそうにポットの中身を全てぶちまけた光は、中身が空になると何事も無かったかのようにその場を後にした。