性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
筈だった。
「……」
確かに、合図に合わせて身を投げた筈なのに一向に浮遊感を感じない。
その事に、疑問を抱いた類は恐る恐る目を開く。
「え?…」
すると、何故か見知らぬ駐車場に立っていた。先ほどまで遥か下に位置していた地上に何故か降り立っている自分に類はキョトンとした表情で辺りを見渡す。
「はい。残念。」
ふと、聞きなれた声が響く。
振り向くと、そこには光の姿があった。
「ひ…、光さん?」
突然のことに、類は理解できないといった表情で光の名を呟く。光はそんな類の姿に、ため息を吐くと来ていた黒いパーカーを脱ぎ始める。
「ひ、光さん?!」
その行動に驚いた類は分かりやすく動揺すると、突然脱いだパーカーを差し出される。
「着ろ」
「え…」
「んな下着姿でうろつかれたら、俺が犯罪者みたいになんだろ…」
どこか気まずそうに視線を逸らした光に、類は慌ててパーカーを受け取る。
(そういえば…キャミソールのままだった…)
慌ててパーカに袖を通すと、ふんわりと光の匂いが鼻先をかすめる。なんだか少し気恥ずかしい。
「さ、帰るぞ」
パーカーを着たことを確認すると、光は何事も無かった様子で類に背を向けて歩き出す。
「か、帰るって…」
一体何が起きたのかも説明されぬまま行こうとする光に類は思わず尋ねる。
「家だよ、家…。それともここで野宿でもすんの?」
光の言葉に類は首を横に振る。
「じゃあ、さっさとして」
「…」
いつもの調子で急かしてくる光に類は黙り込む。
「ねえ、聞いてた?早くして」
「…」
「おい」
「…」
しかし類は暗い表情で俯いたまま、一向にその場から立ち上がろうとはしない。
「…」
光はそんな類の姿に、再びため息をつくと何か諦めた様子で類の前にしゃがみ込んだ。
「ねえ、それって反抗してるつもりなの?」
「…」
「そんな事されても俺困るんだけど…」
光はどこか鬱陶しそうに頭を掻く。
「…」
しかし、類は相変わらずその場から動こうとしない。そんな類の頑な態度に光はどこか苦しそうに呟いた。
「んなに死にたかったかよ…」
少し震えた光の声に、類の目頭が熱くなる。
「お前、知ってる?…飛び降りって一番キツイんだぜ…」
「…」
「飛び降りに限らず、自分を殺すってのは想像以上にキツイんだ…」
「…」
「別に俺は慈善活動家でもなんでもねぇからさ…、それが絶対ダメだとは言わねぇよ…」
「…」
「でも、お前の両親はお前がそうなってほしいなんて一ミリも思ってねぇよ…」
類はその言葉に思わず顔をあげる。そこには今にも泣き出しそうな表情をした光の姿があった。
「思うわけねぇだろ…。親がそんな事…お前だってそんな事くらいわかってんだろ…」
何故か苦しそうな表情でそう話す光から類は目が離せなくなる。
何故、貴方が悲しむのかー。
「命なんてさ、いつか自然に消えんだよ…、どうせ、どんなに頑張ったっていつかは死ぬんだよ…、だから、んな焦って消費しようとすんなよ。せめて旨いもん食って、好きなことして、名一杯楽しんでからでもいいんじゃねぇの?」
光は一息にそこまで言い切ると、少しばつが悪そうにそっぽを向く。
「ラウンジで言ったことが気に障ったんなら謝る。悪かった…。昔からの悪い癖なんだ…。これからは出来るだけ気をつける…。だから、もうあっちの世界に行こうとするのはやめてくれ。頼む…」
何故か生きることを願う光に、類の瞳から涙が溢れ出す。
「…どうして」
類の声が震える。
「どうして、そんな事言うんですか…」
「どうしてって…」
「貴方言ったじゃないですか…。私は物意外の価値なんて無いって…」
そう。言った筈だ。
「それなのに…、何で…、何で今更止めるのよ…」
価値など無いと。
何の意味もないと。
生きてる意味なんか…。
類は泣きながら光の肩を叩く。光はそれを何も言わずに受け止める。
「何で…、何で…、いつも邪魔するのよ…もう、放っておいてよ…」
「…」
何度も何度も、考えて、
何度も何度も、絶望して、
何度も何度も、生きようとした。
でも、もう、これ以上は無理なのだ。
類は何度も何度も光の肩を叩く。
「あんた何様よ…、それで人を支配したつもり?、偉くなったつもり?なんなのよ、あんた…、もう、いい加減にしてよ…」
類の口から本音がポロポロと溢れ出す。光はそんな類の訴えを黙って受け止める。
「何でこういう時に限って黙るのよ…!」
しかし、光はただ黙ったまま類の暴力を受け止める。
「さっきみたいに罵倒しなさいよ…!」
「……」
「怒ってみなさいよ!」
「……」
「何とか言いなさいよ!」
すると、光は類の腕を引っ張った。突然の事に類は体制を崩し、光の胸元へと盛大にダイブする。
「じゃあ、生きてー。」
光の声が耳元で直接響く。
「俺の為に、生きてよ。類ー。」