性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 類の純真無垢な笑顔に光は一瞬目を奪われる。

 「…それなら良かった。全部お前の為に作ったんだ、好きなだけ食えよ」

 光は椅子に腰掛けると、テーブルに肘をついて頬杖をつく。どれから食べようかと悩んでいる類の姿に柄にも無く、笑みがこぼれる。

 「お前、誕生日いつなの?」

 「12月24日です」

 「へー、イヴじゃん」

 珍しく驚いた表情を見せる光に類は苦笑する。

 「お陰で、お祝いはクリスマスと一緒にされてました…」

 ケーキが準備されてるだけ良かったのかもしれないが、幼いながらに、クリスマスと一緒にされることが嫌で仕方がなかったなかった。

 「そうなんだ。まぁ気持ちはわかるけど」

 光の発言に類は首をかしげる。

 「もしかして、光さんも一緒に済まされていたタイプですか?」

 類の質問に光は「んだよ、タイプって…」と突っ込みを入れる。

 「…まぁ俺の場合、元旦産まれだから仕方ないってのもあるけど」

 「え…、元旦って、まさか1月1日産まれですか?」

 「そうだよ」

 意外な事実に類は驚いた様子で目を丸くする。

 「凄い、珍しいですね」

 「んな珍しくもねぇよ。まぁお前と同じく友達とかには忘れられたけど…、お袋は毎年ケーキ準備して祝ってくれたしな」

 光はどこか懐かしそうな表情で呟く。

 「でもなんだか、羨ましいです」

 類は持っていた箸の動きを止めると、今は亡き母のことを思い出す。もし、今も生きていてくれたなら、光の母のようにケーキを準備してくれただろうか。

 「そのお母様とは、今も仲がよろしいんですか?」

 きっと、そんな母なら今も仲がいいに違いない。そう思った類は興味津々に家族の事を尋ねてみる。

 「まぁ、今も生きてたら仲は良かっただろうね…」

 「えっ…」

 思わぬ返答に、類の瞳が揺れる。

 「あぁ、言ってなかったっけ。お袋は俺が小学生の時に自殺したんだ」

 光はそう言うと、話をこれ以上続けたくないのか座っていた椅子から立ち上がった。

 「そんなことよりさ、お前エリカの服どうした?」

 類はその言葉に、あっと口を開く。

 「あ!!畳んでそのままにしてきちゃいました…」

 類は思い出した様にその場に立ち上がる。

 「まぁ、そうだろうと思った。俺も、術使ったしな…お前のせいじゃねぇよ」

 よくわからない事を口走る光に類は首を傾げる。

 「…気づかなかった?お前が飛び降りる直前に場所を瞬間移動させたんだ」

 まるで当たり前のように説明する光に類は少し混乱した様子で「瞬間移動…?」と首を傾げる。

 「要するに、お前が踏み込んだと同時にあの駐車場へと移動させたんだ…」

 現実離れした内容に類は素直に驚く。

 「移動って…、よくアニメにあるあれですか?」

 類の質問に光は「珍しく、頭冴えてんじゃん」と微笑む。

 「まぁ実際あの類の術をかけるのは結構大変なんだけどな、覚に取り憑かれてる限り、お前は昨日みたいな行動を起こしかねない。だから、お前に印を結んだ時にもう一つ追加で呪いをかけといた」

 サラリと怖いことを話す光に類の背筋が冷たくなる。

 「の、呪い、ですか…」

 「そ、高いところから落ちそうになったら強制的に瞬間移動する呪い」

 (そんな呪いがあるのか…?)

 できれば、あまりかけられたくない物ではあるが一応、危機から救ってくれたのだから深く追求するのは控えることにした。

 「まぁ、そんなんだからきっとエリカの服も多分あの駐車場だと思う」

 光はそう言いながら、再び車の鍵を手に取る。しかし、そんな光の行動に一つの疑問が過った。

 「ちょっと待って下さい。どうしてあの服がエリカさんの服だってわかったんですか?」

 光に会ってからそんな説明はした覚えがない。すると、光は何故か持っていた車の鍵を床へと落とした。

 「だ、大丈夫ですか?」

 ガチャリと音を立てて落ちた鍵に類は少し驚くと光るは「悪い…」と言ってゆっくりと鍵を拾い上げる。

 「光さん?」

 「あ?あぁ…エリカの服だってわかったのは、あの服のブランドはティーンがよく好んで着る有名ブランドだから…。そんなんを、三十そこそこのお前がわざわざ購入してるとは思えなかったからだよ」

 光は丁寧に説明し終えると、「遅くなるから先寝てていいよ」といって再び夜の世界へと姿を消した。
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