性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
第七章【性悪の本懐】
 類に服を取りに行く事を告げ、再び自身の車へと乗り込んだ光はドアを閉めると背もたれに背を預けて盛大にため息を吐いた。あのまま、あの場にいてはボロが出ていたに違いない。

 (危ね…)


 類の服が、エリカの物である事は待ち合わせの時点で理解していた。問題は何故そのブランドを知っていたのかだ。

 「死んだ女が好きだったブランドなんて言えるわけねぇよな…」

 そう。それも類と同じ囮の仕事をしていた女である。

 光は懐にしまっていた電子タバコを口に咥える。普段人前で、吸う事は無いがこうやって一人の時間が出来た際にはいつも一服することを決めている。

 (ま、どうでもいいか)

 電子タバコ特有の水蒸気を口から吐き出すと、光は後ろポケットからスマホを取り出した。

 「うわ、まじかよ…」

 電源を入れるとスマホの通知欄には、何十件ものメッセージが入っていた。

 『光さん!、今度はいつお仕事ですか?』

 『ひかるー!また、友達に意地悪されたの!話聞いて!』

 『光君!電話したい、まじもう生きてくの無理…』

 どれも似た様な内容に光は失笑する。

 「俺は、慈善活動家じゃねぇっての…」

 毎日とめどなく送られて来る、相談事の数に流石に過去の自分の行動を反省する。

 「流石に、囲いすぎたな…」

 陰陽師としての仕事を始めてからというもの、教会でのランクをあげる事だけを考えてきた光は、いつからか怨霊に取り憑かれた女性を何人も保護してきた。当初の予定では憑き物落としが終了すれば女性達とは縁を切るつもりだったのだが、何故か女達は光を離そうとはしなかった。

 結果、女性たちは何かと理由をつけて光を頼り、ひっきりなしメッセージを送って来るようになったのだ。

 最初は相談に乗る程度に相手をしてきた訳だが、女性達の要求は徐々にエスカレートしていき、お陰で、今は女達の場所を転々とする生活を余儀無くされている。

 光はメッセージを一つずつ確認していくと、慣れた手つきで返信を返していく。

 「まずは、こいつかな…」

 複数のメッセージの中でも、一番病んだ内容のメッセージを開くと光は早急に優しい言葉を連ねて返信をしていく。

 すると、今返信したばかりだというのに、「会いたい」と一言だけメッセージが返される。

 「だから、無理だっての…」

 光は少々苛つきながらも素早いフリック操作で「ごめん、今日は仕事」と返すと、女からの返信は来なくなってしまった。

 結局、全ての返信を返し終えるのに30分も時間がかかってしまったことに、光はため息を吐く。

 「クソ、どいつもこいつも…」

 光は座席シートを倒すと、そのまま助手席へとスマホ放り投げた。

 「ま、いいや。エリカの服はここにあるし…」

 光はそう言って後部座席の足元に置かれた紙袋を確認する。類にはエリカの服を取りに行くと説明したが、あれは別の女の家に行くための口実である。

 「飯食ったら、あいつも寝んだろ…」

 光は腕時計を確認すると、少しだけ仮眠を取ることにした。どうせ、女の家に行けば朝方までは離してもらえない。そうなると今睡眠を取っておくことは非常に重要な事なのだ。

 光は目覚ましをセットすると、少し微睡んだ意識を夢の中へと手放した。
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