性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
第八章【本格始動】
「さて、何から買う?」
再び光の自宅でシャワーを浴びた類は真新しいスウェットに袖を通すと、光に連れられるがまま、とあるショッピングセンターを訪れていた。
「何からって…、携帯を買うんじゃ…」
当たり前の様に答える類に、光は分かりやすくため息を吐く。
「その前に、揃えなきゃなんねぇ物があるだろ…」
「揃えなきゃいけない物?」
いまいち理解していないのか、類は分かりやすく首をかしげる。
「服とか、靴とか、あと下着とか…」
そっぽを向きながら、呟く光に類は「ああ、なるほど…」と納得する。
「まあ、まずはそのスウェットをどうにかする必要があるな…」
光はそういうと、類を連れて婦人服のあるフロアへと訪れた。途中、数名の女性客が光の顔を見て何やら黄色い声を上げていたが、どうやら当の本人は気づいていない様だ。
「お前さ、好きな服のブランドとかあんの?」
「ブ、ブランドですか…」
光の問いに類は考え込む。いかんせん知っているブランドといえばよくある一般的なものばかりで、特にコレといったものが一つも見当たらない。
「えーっと…」
何と答えようか一人悶々と頭を悩ませていると、ふと光が一つの店を指さした。
「あれは?」
視線の先を辿ると、そこには女子なら誰しも一度は憧れたであろう可愛いルームウェアの店があった。店先には季節限定のかわいらしい部屋着が並び、小さな店にも関わらず大勢のお客で賑わっている。
「確かに、若い頃はああいう服に憧れたりしましたけど…、さすがに今は……」
しかし光は類の話に耳を傾けることなく、颯爽とその店へ向かっていく。
「ちょっと、光さん!」
普通、男であればああいう店は躊躇するはずであるが、何故か光には全くその戸惑いが見られない。
先に店の中へと入ってしまった光に慌ててついていくと、一人の女性店員が二人に声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ!只今季節限定商品をご用意しておりますー。どういったお召し物をお探しですか?」
よくあるセールストークであるが、久しく人と会話をしていなかった類は「いえ…、その…」としどろもどろに返答する。しかし、そんな類とは対照的に光は慣れた様子で「彼女に合う部屋着をいくつか見繕ってもらえますか?」と女性店員にオーダーを出した。
「ひ、光さん!いいですよ…」
類は慌てて光に反論するが、女性店員は「かしこまりました!」と言って姿を消してしまった。
「光さん!私こんな高い部屋着買えませんよ!」
「別にお前が払う訳じゃないんだからいいだろ」
「いや、でも…、それなら尚更悪いです!」
別にこんな高価なものでなくてもそこら辺のスーパーにある服で十分だと伝えると光の表情がみるみるうちに不機嫌になっていく。
「そういうのやめてくんない?言っとくけどお前のそれって遠慮でもなんでもねぇから」
少し怒気を含んだ光の声に類は押し黙る。
「俺がいいって言ってんの。それを変な理由つけて悪いですって言うのはお前のエゴだ。わかるか?人が親切心でやってくれたことは素直にありがとうございますって言って受けとりゃあいいんだよ」
意外な言葉に類は目を見開く。今までにそんな考えをしたことは一度も無かった。
「で、でも…、本当に悪いと思ったんで…」
しかし、類もできるだけ自分の言い分を光にぶつけてみる。何故なら今の類にとってその考え方は少し受け入れがたいものがあったからだ。
「本当に悪いと思ってんなら、なんで俺についてきたんだよ…」
「そ、それは…」
「それは、心のどこかで誰かに頼りたいって思ってたからじゃないのか?」
的を得た光の意見に類は顔を伏せる。確かに今の今まで人様に迷惑をかけてばかりだ。
「ごめんなさい…、確かに光さんの仰る通りです…」
類は素直に謝罪する。しかし、光は未だに不機嫌そうに顔を顰めている。
「そういうのもやめろ…、誤り癖は下手すると相手にいいように利用されかねない。「そうですね」くらいでいいんだよ…」
「はあ…」
いまいち理解できない光の持論に類は戸惑う。普通にコミュニケーションを取りたいだけなのに、どこか気難しい光の態度に彼も人間なのだと理解する。
「じゃ、じゃあ、ありがとうございます。にしておきます…」
類はそういって微笑むと、ようやく光の不機嫌そうな表情が和らいだ。
「そういうこと。変に自分を偽るな。お前はお前でいいんだよ」
彼なりの優しさに、類は苦笑する。
(そうか。遠まわしに気を使わなくていいよって言ってくれてるんだ…)
光の事をなんとなく理解できたことに、類は嬉しくなる。どうやら彼は不器用なだけらしい。
隣でニヤニヤと笑みを浮かべる類に、光は「何?」と再び不機嫌そうな顔で尋ねる。
「いえ。別に…、ただ光さんって意外と優しいんだなと…」
隠してもまた何か言われかねないので、今度は素直に自分の気持ちを口にしてみる。
「は?そういうのもやめてくれる?」
「はいはい」
「…やっぱここの服買うのやめようかな」
「え、そんな…」
「…冗談だよ」
「…」
類はこの日、初めて光という人間を理解できたような気がした。
再び光の自宅でシャワーを浴びた類は真新しいスウェットに袖を通すと、光に連れられるがまま、とあるショッピングセンターを訪れていた。
「何からって…、携帯を買うんじゃ…」
当たり前の様に答える類に、光は分かりやすくため息を吐く。
「その前に、揃えなきゃなんねぇ物があるだろ…」
「揃えなきゃいけない物?」
いまいち理解していないのか、類は分かりやすく首をかしげる。
「服とか、靴とか、あと下着とか…」
そっぽを向きながら、呟く光に類は「ああ、なるほど…」と納得する。
「まあ、まずはそのスウェットをどうにかする必要があるな…」
光はそういうと、類を連れて婦人服のあるフロアへと訪れた。途中、数名の女性客が光の顔を見て何やら黄色い声を上げていたが、どうやら当の本人は気づいていない様だ。
「お前さ、好きな服のブランドとかあんの?」
「ブ、ブランドですか…」
光の問いに類は考え込む。いかんせん知っているブランドといえばよくある一般的なものばかりで、特にコレといったものが一つも見当たらない。
「えーっと…」
何と答えようか一人悶々と頭を悩ませていると、ふと光が一つの店を指さした。
「あれは?」
視線の先を辿ると、そこには女子なら誰しも一度は憧れたであろう可愛いルームウェアの店があった。店先には季節限定のかわいらしい部屋着が並び、小さな店にも関わらず大勢のお客で賑わっている。
「確かに、若い頃はああいう服に憧れたりしましたけど…、さすがに今は……」
しかし光は類の話に耳を傾けることなく、颯爽とその店へ向かっていく。
「ちょっと、光さん!」
普通、男であればああいう店は躊躇するはずであるが、何故か光には全くその戸惑いが見られない。
先に店の中へと入ってしまった光に慌ててついていくと、一人の女性店員が二人に声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ!只今季節限定商品をご用意しておりますー。どういったお召し物をお探しですか?」
よくあるセールストークであるが、久しく人と会話をしていなかった類は「いえ…、その…」としどろもどろに返答する。しかし、そんな類とは対照的に光は慣れた様子で「彼女に合う部屋着をいくつか見繕ってもらえますか?」と女性店員にオーダーを出した。
「ひ、光さん!いいですよ…」
類は慌てて光に反論するが、女性店員は「かしこまりました!」と言って姿を消してしまった。
「光さん!私こんな高い部屋着買えませんよ!」
「別にお前が払う訳じゃないんだからいいだろ」
「いや、でも…、それなら尚更悪いです!」
別にこんな高価なものでなくてもそこら辺のスーパーにある服で十分だと伝えると光の表情がみるみるうちに不機嫌になっていく。
「そういうのやめてくんない?言っとくけどお前のそれって遠慮でもなんでもねぇから」
少し怒気を含んだ光の声に類は押し黙る。
「俺がいいって言ってんの。それを変な理由つけて悪いですって言うのはお前のエゴだ。わかるか?人が親切心でやってくれたことは素直にありがとうございますって言って受けとりゃあいいんだよ」
意外な言葉に類は目を見開く。今までにそんな考えをしたことは一度も無かった。
「で、でも…、本当に悪いと思ったんで…」
しかし、類もできるだけ自分の言い分を光にぶつけてみる。何故なら今の類にとってその考え方は少し受け入れがたいものがあったからだ。
「本当に悪いと思ってんなら、なんで俺についてきたんだよ…」
「そ、それは…」
「それは、心のどこかで誰かに頼りたいって思ってたからじゃないのか?」
的を得た光の意見に類は顔を伏せる。確かに今の今まで人様に迷惑をかけてばかりだ。
「ごめんなさい…、確かに光さんの仰る通りです…」
類は素直に謝罪する。しかし、光は未だに不機嫌そうに顔を顰めている。
「そういうのもやめろ…、誤り癖は下手すると相手にいいように利用されかねない。「そうですね」くらいでいいんだよ…」
「はあ…」
いまいち理解できない光の持論に類は戸惑う。普通にコミュニケーションを取りたいだけなのに、どこか気難しい光の態度に彼も人間なのだと理解する。
「じゃ、じゃあ、ありがとうございます。にしておきます…」
類はそういって微笑むと、ようやく光の不機嫌そうな表情が和らいだ。
「そういうこと。変に自分を偽るな。お前はお前でいいんだよ」
彼なりの優しさに、類は苦笑する。
(そうか。遠まわしに気を使わなくていいよって言ってくれてるんだ…)
光の事をなんとなく理解できたことに、類は嬉しくなる。どうやら彼は不器用なだけらしい。
隣でニヤニヤと笑みを浮かべる類に、光は「何?」と再び不機嫌そうな顔で尋ねる。
「いえ。別に…、ただ光さんって意外と優しいんだなと…」
隠してもまた何か言われかねないので、今度は素直に自分の気持ちを口にしてみる。
「は?そういうのもやめてくれる?」
「はいはい」
「…やっぱここの服買うのやめようかな」
「え、そんな…」
「…冗談だよ」
「…」
類はこの日、初めて光という人間を理解できたような気がした。