性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 結局、光のポケットマネーで沢山の洋服やら生活用品やらを買いそろえてもらった類は満足げな表情でショップバックを両手に抱え、光の車に乗り込んだ。当然、右手には最新のスマートフォンが握られており既にケースも装着済である。

 「んな喜ぶことか?」

 助手席で嬉しそうに笑みをこぼす類に光は苦笑すると、車のキーを差し込んだ。

 「嬉しいに決まってるじゃないですか!こんなに沢山の買い物をしたのは初めてです!」

 類は興奮冷めやらぬ様子でそう訴えると、光は満足そうに微笑む。

 「んな喜んでくれるならまた連れてきてやるよ」

 「え、いいんですか?」

 飼い犬の様に嬉しそうな表情を浮かべる類に光は「お前の頑張り次第」と付け加えた。

 「そ、そうですよね…。頑張ります!」

 当初の不安感はどこへと消えたのか、類はどこかやる気満々に答える。

 「じゃあ、早速今日の夜からいい?ちょうど案件溜まってんだ」

 光はハンドルを切りながら類に尋ねる。

 「も、もちろんです!あ…、でもいいんですかね?」

 「何が?」

 「いや、だって私…社の当番すっぽかしたままですし…、それに本来であれば今日は烏天狗の出勤日だし…」

 普通に考えればまずは皆に謝罪をするのが、正しいような気もする。

 「ああ、それなら気にすんな…。一応俺が礼二に全部事情を伝えてるから…」

 「え、全部ですか…」

 「もちろん、お前が飛び降りようとしてた事以外な…」

 光の言葉に類は分かりやすく安堵した表情を見せると、助手席に背中を預けた。何だか久々の外での生活に少し疲れてしまった。

 「でもまあ、今から烏天狗に向かうから、礼二にはそん時謝れば?エリカと誠は社戻った時にでも声かければいいじゃん」

 光の提案に類は「そうですね…」と小さな声で返答する。

 「ただ、借りた洋服を返せるのは明日ね、さすがに今すぐクリーニングはできないから…」

 類はその時初めて光がエリカの洋服をクリーニング店に出しておいてくれたことを知る。

 「す、すみません…、何から何まで…」

 類はしゅんとした様子で顔を伏せると光は「そういう時はなんて言うの?」と尋ねる。

 「あ、ありがとうございます!」

 「どーいたしまして」

 少し恥ずかしそうに感謝の言葉を述べた類に光は珍しく微笑んだ。
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