性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
ここには何もありゃせんよ。
ここには何もありゃせんよ。
あるのは重たい空気だけ。
ここには何もありゃせんよ。
類はハッと目を覚ます。身体中には変な汗がへばりつき服を気持ち悪く濡らしている。ゆっくりとその場に立ち上がると、そこがとある和室の一室であることに気がつく。
類は恐る恐る辺りを見渡す。部屋であることは確かなのだが、何故か家具らしきものが一つも見当たらない。
「やだ、ここどこ…」
突然見知らぬ場所に来てしまった事に類は混乱する。確か先程まで光達と一緒に長い廊下を歩いていたはずだ。
混乱したまま立ち尽くす類を他所にどこからともなく鈴の音が響き渡る。
「だ、誰?!」
ふと人の気配を感じた類は思い切り後ろへ振り向く。すると、その場所には綺麗な着物を身につけた一人の少女が立っていた。
「あ、あなた…」
「ここには何もありゃせんよ」
「え…」
ここの子?と尋ねよとするも少女は少し食い気味に口を開いた。ここには何もないとはどういうことか。
「え、えっと…、安心して?私別に泥棒なんかじゃないわ」
類は慌てて弁解するも、少女は無表情のまま「ここには何もありゃせんよ」とだけ答えた。
「えっと、だからね、私…」
「ここには何もありゃせんよ」
「その…、だから、」
「ここには何もありゃせんよ」
「ちょっと…話を…」
「ここには何もありゃせんよ」
「…」
何を言っても同じことしか返さない少女に類は困り果てる。これでは自分が何者であるか伝える事が出来ない。
類は一つ溜め息を吐くとそっと少女に近づいた。少女はそれに合わせて小さく身を引くも、大人の歩幅には叶わず直ぐに距離を詰められる。
そんな少女の様子に少し苦笑しながら類は視線を合わせる様にゆっくりと両膝をついた。そして、少女の身体を包み込む様に抱きしめると、小さな声で「大丈夫、私、貴方に何もしないわ。だから怖がらないで」と耳元で優しく囁いた。
「…ここには」
「何もないのよね。わかったわ」
今度は少女の言葉を遮る様に類が口を開く。すると少女はようやく諦めた様に「そう…」と呟いた。
類はようやく会話が成立したことに安堵するとゆっくりと少女から身体を離す。
「貴方、ここの子?」
「元々は…」
「元々?」
「…ここは元々おっとうが家族のために建てたお家」
「おっとう…?」
酷く古い呼び方をする少女に類は彼女がもう既に人間ではない事を悟る。
「そう…その…、おっとうは今どこにいるの?」
「おっかあの薬をとりに行ってるの」
「…」
どうやら少女はその父親の事をずっと待ち続けているらしい。
(きっと帰ってこないまま、魂だけがここに留まってしまったのね…)
類は少女の身の上を察して、胸が苦しくなる。
「…お前」
「ん?何?」
先程まで黙っていた少女が口を開く。
「おっかあ…、治るまで、ここにいた方がいい」
「…?」
「だ、だから、おっかあ治るまでここにいて」
どこか、類のことをここに留めておきたい様子の少女に類は少し戸惑う。
「いてあげたいのは山々なんだけど…私、用事があってここに来たの。だから、一旦戻って確認してもいいかな?」
光にこの事を説明しなければと類は少女にお願いをしてみる。しかし、少女は首を大きく横に振った。
「嫌だ。お前戻ったら死ぬ。だからここにいろ」
爆弾発言をする少女に類は顔を強張らせる。
「し、死ぬって…そんな事冗談でも言っちゃだめよ」
少し困りながら少女にお説教するが、内心人間じゃないものに死を予言されて恐怖心が尋常ではない。
「冗談じゃない。お前みたいな人間、おっかあならすぐ取り込める。あの男に任せるが吉」
あの男とは光のことだろうか?
「で、でも、お母さんが病気なんでしょ?だったら尚更人手があった方が…」
そもそも人ではないモノに人手もクソもあったものではないが一先ずこの場をやり過ごせる言葉を並べてみる。
「駄目、お前ここで私と遊ぶ」
「そんな、無茶苦茶だわ」
「お前、行っては駄目」
「で、でも、行かなきゃ…」
「行っては駄目!」
「ッ?!痛い!」
少女が物凄い力で類の腕を掴む。一体何処からそんな力が出ているのか類は素直に驚く。
「行っては駄目!」
「わ、わかったから!わかったから離して!」
「お前わかってない!」
「いッ?!」
人間の力、ましてや少女の力とは思えない強さに類は顔を顰める。
「い、痛いよ!離して!」
「いやじゃ!」
「こ、このままだと、腕がー」
千切れちゃう。
ここには何もありゃせんよ。
あるのは重たい空気だけ。
ここには何もありゃせんよ。
類はハッと目を覚ます。身体中には変な汗がへばりつき服を気持ち悪く濡らしている。ゆっくりとその場に立ち上がると、そこがとある和室の一室であることに気がつく。
類は恐る恐る辺りを見渡す。部屋であることは確かなのだが、何故か家具らしきものが一つも見当たらない。
「やだ、ここどこ…」
突然見知らぬ場所に来てしまった事に類は混乱する。確か先程まで光達と一緒に長い廊下を歩いていたはずだ。
混乱したまま立ち尽くす類を他所にどこからともなく鈴の音が響き渡る。
「だ、誰?!」
ふと人の気配を感じた類は思い切り後ろへ振り向く。すると、その場所には綺麗な着物を身につけた一人の少女が立っていた。
「あ、あなた…」
「ここには何もありゃせんよ」
「え…」
ここの子?と尋ねよとするも少女は少し食い気味に口を開いた。ここには何もないとはどういうことか。
「え、えっと…、安心して?私別に泥棒なんかじゃないわ」
類は慌てて弁解するも、少女は無表情のまま「ここには何もありゃせんよ」とだけ答えた。
「えっと、だからね、私…」
「ここには何もありゃせんよ」
「その…、だから、」
「ここには何もありゃせんよ」
「ちょっと…話を…」
「ここには何もありゃせんよ」
「…」
何を言っても同じことしか返さない少女に類は困り果てる。これでは自分が何者であるか伝える事が出来ない。
類は一つ溜め息を吐くとそっと少女に近づいた。少女はそれに合わせて小さく身を引くも、大人の歩幅には叶わず直ぐに距離を詰められる。
そんな少女の様子に少し苦笑しながら類は視線を合わせる様にゆっくりと両膝をついた。そして、少女の身体を包み込む様に抱きしめると、小さな声で「大丈夫、私、貴方に何もしないわ。だから怖がらないで」と耳元で優しく囁いた。
「…ここには」
「何もないのよね。わかったわ」
今度は少女の言葉を遮る様に類が口を開く。すると少女はようやく諦めた様に「そう…」と呟いた。
類はようやく会話が成立したことに安堵するとゆっくりと少女から身体を離す。
「貴方、ここの子?」
「元々は…」
「元々?」
「…ここは元々おっとうが家族のために建てたお家」
「おっとう…?」
酷く古い呼び方をする少女に類は彼女がもう既に人間ではない事を悟る。
「そう…その…、おっとうは今どこにいるの?」
「おっかあの薬をとりに行ってるの」
「…」
どうやら少女はその父親の事をずっと待ち続けているらしい。
(きっと帰ってこないまま、魂だけがここに留まってしまったのね…)
類は少女の身の上を察して、胸が苦しくなる。
「…お前」
「ん?何?」
先程まで黙っていた少女が口を開く。
「おっかあ…、治るまで、ここにいた方がいい」
「…?」
「だ、だから、おっかあ治るまでここにいて」
どこか、類のことをここに留めておきたい様子の少女に類は少し戸惑う。
「いてあげたいのは山々なんだけど…私、用事があってここに来たの。だから、一旦戻って確認してもいいかな?」
光にこの事を説明しなければと類は少女にお願いをしてみる。しかし、少女は首を大きく横に振った。
「嫌だ。お前戻ったら死ぬ。だからここにいろ」
爆弾発言をする少女に類は顔を強張らせる。
「し、死ぬって…そんな事冗談でも言っちゃだめよ」
少し困りながら少女にお説教するが、内心人間じゃないものに死を予言されて恐怖心が尋常ではない。
「冗談じゃない。お前みたいな人間、おっかあならすぐ取り込める。あの男に任せるが吉」
あの男とは光のことだろうか?
「で、でも、お母さんが病気なんでしょ?だったら尚更人手があった方が…」
そもそも人ではないモノに人手もクソもあったものではないが一先ずこの場をやり過ごせる言葉を並べてみる。
「駄目、お前ここで私と遊ぶ」
「そんな、無茶苦茶だわ」
「お前、行っては駄目」
「で、でも、行かなきゃ…」
「行っては駄目!」
「ッ?!痛い!」
少女が物凄い力で類の腕を掴む。一体何処からそんな力が出ているのか類は素直に驚く。
「行っては駄目!」
「わ、わかったから!わかったから離して!」
「お前わかってない!」
「いッ?!」
人間の力、ましてや少女の力とは思えない強さに類は顔を顰める。
「い、痛いよ!離して!」
「いやじゃ!」
「こ、このままだと、腕がー」
千切れちゃう。