性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 ふと、自分の後ろにあった気配が消えたことに光は足を止める。

 (早速、連れて行かれたか…)

 ここに来る前から、類の周囲には気を張り巡らせていたつもりでいたが、屋敷内に足を踏み入れるなり一気に彼女の周囲には魑魅魍魎が集まり、彼女の気配を意図も容易く掻き消してしまった。

 「おや、どうかされましたか?」

 突然立ち止まった光に気がついたのか、前を歩いていた女が光の方へと振り向く。

 「いえ、ただ先程まで一緒にいた連れの姿が見当たらないので…」

 光は目を細めて答える。

 「まぁ、それは大変」

 女は驚いた様子で口元へと手を当てると、大袈裟に目を見開く。

 「ど、どうしましょう…、私、探してまいりましょうか?」

 「いえ、きっと忘れ物でも取りに戻ったのでしょう…」

 「で、ですが、もしお連れ様に万が一の事が起こったら…」

 「大丈夫ですよ。私がいますから、それにまだそう遠くへは行っていないー」

 「え…、」

 まるでどこにいるのか知っている様な口ぶりで話す光に女は驚いた表情を見せる。

 「驚きました?」

 「え、えぇ…」

 「まぁ驚くのも無理はありません。陰陽師の中でも、この世ならざるモノと距離を測れるのは協会内で私を合わせて二人だけですから…」

 光はそう言うと黒いマスクの下でそっと微笑む。

 「そ、そうですか…」

 女は少し動揺した様子で言葉を返すと、どこか急ぐ様に「では、先に参りましょう」と言って再び光へと背を向けた。

 「ところで」

 しかし、光はそんな女の背中越しから声をかける。

 「はい?」

 「一体何処に、連れて行く気ですか?」

 「は…?」

 突然の質問に女は思わずその場に足を止める。

 「で、ですからこの家の家主の所に…」

 「ほう、ならばこの屋敷に家主はいませんよ?先ほどから生者の気配がまるで感じられない」

 「…」

 「何故黙るんですか?」

 光は鋭い眼光を女へと向ける。

 「…あ、貴方こそ、何故そんな出鱈目な事を仰るのですか?」

 女の質問に光は小さく微笑む。

 「先程言ったでしょう。僕はこの世ならざるモノとの距離が測れるとー」
 
 「それは…どう言う意味かしら?」

 「そのままの意味ですよ」

 「そのままの意味?」

 「ええ、そのままの意味です」


 すると、光は黒いマスクをゆっくりと下ろしー、


 【茶番は終いってことだよ】


 と言葉を放った。
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