性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 女は光の放った言葉に一瞬肩を震わすと、ゆっくり光の方へと振り向いた。

 「まぁ、茶番だなんて」

 女の言葉に光は少し顔を顰める。

 「こんなのは茶番でしょう。今し方お前の張った結界は解除させて貰った。いい加減、本来の姿を現せよ」

 「まぁ、酷い方…」

 女は寂しそうに目を伏せる。きっと普通の男であればその仕草に胸を高鳴らせたかもしれないが生憎、光には効果を発揮しない。

 「それを言うんならこっちの台詞だ、いつまで人間ごっこして遊ぶつもりだ?」

 こんな誰もいない屋敷でー、と付け加えた光の言葉に女の眉がピクリと動く。

 「私の夫が帰ってくるまでよ」

 「夫?」

 「えぇ、私と娘を捨てたあの男が帰ってくるまで私はここを離れない…」

 「離れられないの間違いでは?」

 「黙れ!、貴様は今から私に喰われれば良いのだ」

 これ以上話しを続けたくないのか、女はどこからとも無く大きな刀を出現させる。

 「それで、俺を切る気か?」

 光は特段驚く様子もなく淡々と会話を続けようとする。

 「そうだ。何、安心しろ。死んだ事も気付かぬままお前を黄泉の国へと送ってやる」

 「ハハ、それはご親切にどーも」

 一ミリもそんなことを思っていないのか、光は鬱陶しげに礼を述べると、一瞬の隙をついて女の顔を蹴り上げた。

 しかし、女はそれを予想してたかの様に後ろへと飛び退く。光はその隙に長い廊下を思い切り走り出す。そして、礼司からもらった塩を掌に掴むとそのまま素早く印を結ぶ。


 【結界を展開せよ】


 すると、光の周りに薄い膜の様なモノが出現する。


 「待て!小僧!」

 後ろからは鬼の形相をした女が人間とは思えない速さで追いかけてくる。

 「待たねぇよバーカ」

 光は後ろから追いかけてくる女を煽ると、間髪入れずに、次の印を結ぶ。


 【印を結びし者の元へ】

 
 すると、今度は光の姿が跡形もなくその場から消え去った。残された女は慌てて辺りを見渡すもさっぱり姿が消えてしまっていることに、相手がこれまでの人間とは訳が違うことを知る。

 「クソ!!陰陽師め!」

 女はいよいよ、人間の姿を消し去ると今度は自身の力を使って光の気配を辿り始める。

 「ククク…、愚かな人間め。たとえ陰陽師でもこの私の呪いに勝てるものはおらぬ!」

 女だった異形は人間の声とも言えない不協和音をその場に響かせると、光と同じ様にその場から姿を消した。
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