性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 しばしの沈黙が空間を支配する。ここにきてから一体どれほどの時間が経過したのか、類は知る由もない。

 「わ、私は…」

 霊に囲まれた中、自分ただ一人だけが生者である事がこれほどまでに心細いことだとは思わなかった。

 二人の霊は類の決断を今か、今かと待ち侘びている。

 決めねばならないー。

 自分一人でー。

 今まで人に言われるがまま生きてきた類にとってそれがどれほどの困難を伴うか、きっとこの霊達は知らない。

 「わ、私は…」

 それでも決めねばー、

 自分の人生を取り戻す為にー。

 また、光に会う為にー。


 類はどこか意を決したように、前を向く。

 そして、


 「私、ここから…」


 二人の霊に向かって、自分の宣言を表明しようと一呼吸置いた次の瞬間ー、


 目の前で類の様子を伺っていた霊の姿が消えた。


 「え…、あれ?覚?お嬢ちゃん?」

 類は慌てて辺りを見渡す。すると、床に見覚えのある札を二枚見つける。

 「こ、これって…」

 札に触れようと手を伸ばすが、類が触れる前に札は炎をあげて燃え尽きてしまう。

 (燃えちゃった…)

 類は唖然とその様子を見つめる。

 「んだよ、せっかく助けにきてやったのに」

 ふと背後から聞き慣れた声が聞こえる。振り向いてみるとそこには今一番会いたかった人が立っていた。

 「ひ、光さん!!」

 嬉しくなった類は勢いよくその場に立ち上がると、光の体へと恥ずかしげもなく抱きつく。

 「…っだからなんだよ…さっきまで一緒に居ただろうが」

 「え…私結構な時間ここに居た気がするんですけど」

 何となく時間の概念がおかしくなっている類に光は周囲を見渡す。なるほど、この空間だけとてつもない速さで時間が流れているようだ。

 (長居は危険だな…)

 光は注意深く辺りを観察する。

 「そ、それより、ここに居た女の子は?覚も一緒だった筈なんですけど…」

 「見てわかんない?もう居ねぇよ」

 「居ないって…」

 「さっきの札で子供の霊は消滅。覚はまぁ今は消えてるだろうけどね…」

 やはり、少女の霊は光の札によって除霊されてしまったらしい。

 (ごめんなさい…)

 類は心の中でそっと謝罪の言葉を呟く。

 「言っておくけど、霊に変な情をかけると憑かれるから注意しとけよ」

 「え…」

 光の言葉に類は顔を青ざめる。

 「それから、これ」

 光は類の掌に小さな紙包を握らせる。

 「礼二からもらった塩。一応念を込めておいたから待ってて」

 「持っててって言われても…」

 類は困った表情で掌に乗せられた小さな紙包を見つめる。

 「間違って喰われたとしても、それがあれば一回くらいは再生できる」

 光の恐ろしい説明に類は顔を引き攣らせる。

 「えっと…、喰われるってどういうー」

 「来るぞ…!」

 「へ?」

 言葉の意味を尋ねようと、類は顔を上げると、そこにはこの世のモノとは思えない恐ろしい化け物の姿があった。
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