性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
フワフワと暖かい光に包まれる。
ふと気がつくと、そこはお屋敷の長い廊下であった。
(あれ…?、私…)
確か先程まで、化け物に食われそうになっていた筈だが、辺りは妙に静まり返っている。
「そうだ…!、百合さん!」
ふと百合の存在を思い出し、その姿を探す為に後ろを振り向く。しかし、振り向き様にどこからともなく伸びてきた掌で思い切り半顔を掴まれる。
(しまった…、食べられる!)
突然のことに、驚いた類は思わずギュッと目を瞑る。
いよいよ、化け物に捕まってしまった恐怖心で体が震わしていると、よく聞き慣れた声がその場に響いたー。
「おい。いつまで目ぇつぶってんだ…」
「ひかるしゃん…」
恐る恐る瞳を開くと、何故かそこには不機嫌そうな表情をした光の姿があった。うまく喋れないのは光の掌が類の顔下半分を鷲掴みにしている為である。
「光しゃん、じゃねぇ…、お前どんな魔法使ったの?」
「ふぁ?」
意味不明な質問に類は間の抜けた返答をする。
「まほうなんてつかってましぇんけど?」
「じゃあ、あの化け物を何処へ消した?さっきから気配が全く感じられないどころか、不快なエネルギーすら感じなくなった」
光はそう言うと、ようやく類の顔から手を離した。
「し、知りませんよ…。ただ私は百合さんとお話をしていただけで…」
「話?」
光は相変わらず不愉快そうに顔を顰める。
「はい。あの怖い化け物に食べられそうになった瞬間、見たことのない札が飛んできて…、気がついたら目の前に女性が…」
「どんな札?」
「えっと…、こんな勾玉みたいな絵が書いてあって…」
類は何もない空間をなぞる様にその形を書いてみせる。
「見たことねぇ札…」
「あ、あと覚もでてきましたよ?」
「お前ってところ構わず怨霊召喚すんのな…」
「べ、別に召喚してません!勝手にでてきたんです」
類は不満そうに頬を膨らます。
「ってか、なんだよあの怨霊…。お前のこと殺そうとしたり、助けたり…マジ意味わかんねぇ…」
光は理解できないと言った様子で目頭を抑える。
「む、昔から覚は私のこと色々と助けてくれました!光さんにとっては怨霊なのかもしれませんけど、私にとってはとても優しい怨霊さんです」
「優しい怨霊が居てたまるか。怨霊ってのは生きてる人間に悪さするのがセオリーなんだよ。そもそも人を助けたり、夢に出てきて、ご丁寧に名前教えたりなんてしねぇの」
光の言葉に類は、ふと最初の頃みた夢の存在を思い出す。
「それに…、覚って名前も元は妖怪の名前だ。怨霊に名前なんて概念は無い」
「じゃ、じゃあ妖怪なんじゃ…」
「覚のエネルギーはそんなんじゃねぇ、明らかに何かに恨みを持ってる。それにヤケにお前に執着してるみたいだったしな…」
「恨みって…、も、もしかして私のことですか?!」
類は顔色が一瞬で青ざめる。
「ま、本来なら…。でもそれなら今回みたいに助けたりはしないはずだし、ましてや自殺なんて回りくどいやり方もしねぇよ」
「回りくどいやり方?」
「恨みのエネルギーってのは想像以上に強いんだよ…、普通ならとんでもない事件をおこさせたり、事故を起こさせたりするもんなんだ。例えば、逮捕されて死刑になったり、依存症になって体がボロボロになって破滅していったり…」
類は光るの発言に類は背筋を震わせる。
「ま、とにかく。化け物の気配もないし、エネルギーも正常。一旦帰るぞ。んでもって協会に報告だ…」
光はそう言うと踵を返す。
「そ、そういえばここの家主さんはご無事なんでしょうか?」
「家主?お前何いってんの?」
光は類の質問に歩みを止めると、少々鬱陶しそうに振り向く。
「え…、だって来る時女中の方に…」
「これだから素人は…」
光は分かりやすく溜め息を吐く。
「ここは随分昔から、曰くつきの物件として有名で、最後に人が住んでたのは昭和初期の頃。んでもって住んでた人間はみーんな仲良くあの化け物に食われちまって、そこから誰も寄り付かなくなったんだ。それ以来この屋敷は国のモノになってたんだけど…、いい加減取り壊したいから住み着いてる化け物を祓ってくれって依頼があったんだよ」
淡々と説明をする光るに類の顔が見るみる青ざめていく。
「え、じゃあ、あの女性は?」
「居ねぇよ」
「え、でも喋ってたじゃないですか!」
「そりゃ喋るだろ、俺陰陽師だし…」
光のよくわからない理論に類は理解が追いつかない。
「それって、あの女性も霊だったってことですか?」
「んだよ、お前…、まだわかんねぇの?あの女があの化け物。お前が喋ってた百合って女」
光は面倒臭さそうに、説明を付け加える。言われてみれば確かに姿形が似ていたような…。
「どうして、教えてくれなかったんですか?」
類は少し不満気に光に尋ねる。
「お前に教えたら、色々とバレんだろ。こっちはわかってても騙されたふりしなきゃなんねぇんだよ…」
なるほど。余計な事を話すなと言ったのはこの為だったのか。
「それとも、今から会う女はとんでもない化け物だから気をつけろよ、とでも言ったほうが良かったか?」
類ブンブンと首を横に振る。
「でも、それなら出会った瞬間に祓っちゃえば良かったんじゃ…」
わざわざ、気が付かないふりをする意味がわからない。
「恨みの根源を見つけたかったんだよ…」
「根源?」
「そ。その怨霊は何に恨みを持って形を成してしまったのか…、どうすればそれを止められたのか…それがわからないと、いくら凄腕の陰陽師でも怨霊は祓えないんだ」
「そ、そうだったんですか…」
類は百合の姿を思い出す。確かに彼女にはしっかりと怨霊になってしまった理由があった。
「まぁ、今回は屋敷に取り憑いた怨霊だったから良かったけど、面倒なのは人に憑いた霊な。生者についてしまった霊はまず生きてる方を説得する必要がある。これが中々難しいんだ。お前みたいな奴ばっかで…」
光はやれやれとわざとらしく首を横に振る。
「わ、悪かったですね…私みたいなのばっかで…」
「おら、話はここらへんにしてさっさと帰るぞ」
「あ、ちょっと待って下さい!」
光は再び長い廊下を歩き始めると、二人はようやく長い一日に終わりを告げた。
ふと気がつくと、そこはお屋敷の長い廊下であった。
(あれ…?、私…)
確か先程まで、化け物に食われそうになっていた筈だが、辺りは妙に静まり返っている。
「そうだ…!、百合さん!」
ふと百合の存在を思い出し、その姿を探す為に後ろを振り向く。しかし、振り向き様にどこからともなく伸びてきた掌で思い切り半顔を掴まれる。
(しまった…、食べられる!)
突然のことに、驚いた類は思わずギュッと目を瞑る。
いよいよ、化け物に捕まってしまった恐怖心で体が震わしていると、よく聞き慣れた声がその場に響いたー。
「おい。いつまで目ぇつぶってんだ…」
「ひかるしゃん…」
恐る恐る瞳を開くと、何故かそこには不機嫌そうな表情をした光の姿があった。うまく喋れないのは光の掌が類の顔下半分を鷲掴みにしている為である。
「光しゃん、じゃねぇ…、お前どんな魔法使ったの?」
「ふぁ?」
意味不明な質問に類は間の抜けた返答をする。
「まほうなんてつかってましぇんけど?」
「じゃあ、あの化け物を何処へ消した?さっきから気配が全く感じられないどころか、不快なエネルギーすら感じなくなった」
光はそう言うと、ようやく類の顔から手を離した。
「し、知りませんよ…。ただ私は百合さんとお話をしていただけで…」
「話?」
光は相変わらず不愉快そうに顔を顰める。
「はい。あの怖い化け物に食べられそうになった瞬間、見たことのない札が飛んできて…、気がついたら目の前に女性が…」
「どんな札?」
「えっと…、こんな勾玉みたいな絵が書いてあって…」
類は何もない空間をなぞる様にその形を書いてみせる。
「見たことねぇ札…」
「あ、あと覚もでてきましたよ?」
「お前ってところ構わず怨霊召喚すんのな…」
「べ、別に召喚してません!勝手にでてきたんです」
類は不満そうに頬を膨らます。
「ってか、なんだよあの怨霊…。お前のこと殺そうとしたり、助けたり…マジ意味わかんねぇ…」
光は理解できないと言った様子で目頭を抑える。
「む、昔から覚は私のこと色々と助けてくれました!光さんにとっては怨霊なのかもしれませんけど、私にとってはとても優しい怨霊さんです」
「優しい怨霊が居てたまるか。怨霊ってのは生きてる人間に悪さするのがセオリーなんだよ。そもそも人を助けたり、夢に出てきて、ご丁寧に名前教えたりなんてしねぇの」
光の言葉に類は、ふと最初の頃みた夢の存在を思い出す。
「それに…、覚って名前も元は妖怪の名前だ。怨霊に名前なんて概念は無い」
「じゃ、じゃあ妖怪なんじゃ…」
「覚のエネルギーはそんなんじゃねぇ、明らかに何かに恨みを持ってる。それにヤケにお前に執着してるみたいだったしな…」
「恨みって…、も、もしかして私のことですか?!」
類は顔色が一瞬で青ざめる。
「ま、本来なら…。でもそれなら今回みたいに助けたりはしないはずだし、ましてや自殺なんて回りくどいやり方もしねぇよ」
「回りくどいやり方?」
「恨みのエネルギーってのは想像以上に強いんだよ…、普通ならとんでもない事件をおこさせたり、事故を起こさせたりするもんなんだ。例えば、逮捕されて死刑になったり、依存症になって体がボロボロになって破滅していったり…」
類は光るの発言に類は背筋を震わせる。
「ま、とにかく。化け物の気配もないし、エネルギーも正常。一旦帰るぞ。んでもって協会に報告だ…」
光はそう言うと踵を返す。
「そ、そういえばここの家主さんはご無事なんでしょうか?」
「家主?お前何いってんの?」
光は類の質問に歩みを止めると、少々鬱陶しそうに振り向く。
「え…、だって来る時女中の方に…」
「これだから素人は…」
光は分かりやすく溜め息を吐く。
「ここは随分昔から、曰くつきの物件として有名で、最後に人が住んでたのは昭和初期の頃。んでもって住んでた人間はみーんな仲良くあの化け物に食われちまって、そこから誰も寄り付かなくなったんだ。それ以来この屋敷は国のモノになってたんだけど…、いい加減取り壊したいから住み着いてる化け物を祓ってくれって依頼があったんだよ」
淡々と説明をする光るに類の顔が見るみる青ざめていく。
「え、じゃあ、あの女性は?」
「居ねぇよ」
「え、でも喋ってたじゃないですか!」
「そりゃ喋るだろ、俺陰陽師だし…」
光のよくわからない理論に類は理解が追いつかない。
「それって、あの女性も霊だったってことですか?」
「んだよ、お前…、まだわかんねぇの?あの女があの化け物。お前が喋ってた百合って女」
光は面倒臭さそうに、説明を付け加える。言われてみれば確かに姿形が似ていたような…。
「どうして、教えてくれなかったんですか?」
類は少し不満気に光に尋ねる。
「お前に教えたら、色々とバレんだろ。こっちはわかってても騙されたふりしなきゃなんねぇんだよ…」
なるほど。余計な事を話すなと言ったのはこの為だったのか。
「それとも、今から会う女はとんでもない化け物だから気をつけろよ、とでも言ったほうが良かったか?」
類ブンブンと首を横に振る。
「でも、それなら出会った瞬間に祓っちゃえば良かったんじゃ…」
わざわざ、気が付かないふりをする意味がわからない。
「恨みの根源を見つけたかったんだよ…」
「根源?」
「そ。その怨霊は何に恨みを持って形を成してしまったのか…、どうすればそれを止められたのか…それがわからないと、いくら凄腕の陰陽師でも怨霊は祓えないんだ」
「そ、そうだったんですか…」
類は百合の姿を思い出す。確かに彼女にはしっかりと怨霊になってしまった理由があった。
「まぁ、今回は屋敷に取り憑いた怨霊だったから良かったけど、面倒なのは人に憑いた霊な。生者についてしまった霊はまず生きてる方を説得する必要がある。これが中々難しいんだ。お前みたいな奴ばっかで…」
光はやれやれとわざとらしく首を横に振る。
「わ、悪かったですね…私みたいなのばっかで…」
「おら、話はここらへんにしてさっさと帰るぞ」
「あ、ちょっと待って下さい!」
光は再び長い廊下を歩き始めると、二人はようやく長い一日に終わりを告げた。