性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
先程まで屈辱を受けていたのは自分の方であるはずなのに、何故か光のその一言で類の心の中には大きな罪悪感が芽生え始める。
光はそんな類の様子に「ま、お前じゃ無理か」と興味なさげに呟くと、ようやく類の体を解放した。
「さて。それじゃあ、早く降りてくれる?」
「は?」
まるで何事と無かったかの様に、自分を車の外へと降ろそうとする光に類は顔を顰める。
「俺この後仕事なの。だから降りて」
「いや、それ以外に言う事が…」
「何?」
その言葉に、類は先程かけられてしまった呪いを思い出す。
「は、はい…。今降ります」
これ以上、変な事をされたくないので素直に車から下車する。
「あ、そうだ。洋服は後々そっちに送るから、当日ちゃんと着てこいよ?それから、適度に化粧してこい。あ、濃すぎるのはNGね。似合わねぇだろうから、じゃ」
去り際、さりげなく罵倒された類はこめかみに青筋を立てる。
(ってか、今の一連の状況って犯罪では?)
普通に訴えたら今の時代勝てそうな気もするが、その分仕返しが怖そうなのも確かである。
(…なんか、ムカつく)
無理やり命令されることもそうではあるが、何よりも首筋をを舐められた事実が類の思考を掻き乱す。
(あんなの、セクハラじゃない…)
類は汚された首筋をさすると、何故か酷く心が傷ついていることに気がついた。あれでは瑞稀から最低呼ばわりされてしまうのも納得である。
類は何とも言えない表情で本殿へと歩みを進める。途中、鴉にカァカァと鳴かれたことに、もう既に日が落ちかけている事実を認識する。
(はぁ…。折角の休日が…)
特段何かする予定は無かったものの、こうも早く一日が過ぎてしまうと、人生とは本当に一瞬に過ぎ去ってしまうものだと少し物悲しくなる。
「きっと、普通の女の子なら今頃、恋人とデートして、仕事終わりに友達と飲みにいったりして、それから…」
類はそこまで言って言葉に詰まる。
それから、みんな一体何をしてるのだろうー。
いつも一人ぼっちだった類にとって、普通という感覚はよく理解出来ない。普通、皆んなは何をして、何を感じて生きているのだろうか。
境内の大きな木々がザワザワと風で揺れる。
まだ冬前だと言うのに、やけに冷え込みを感じるのはこの場所が神聖な場所であるからかもしれない。
「今日はお鍋がいいな…」
「お鍋だそうですよ?」
突然背後から聞こえた声に、類は驚いて振り返る。
「ま、誠君!」
そこにいたのは、ランドセルを背負った誠の姿であった。
「どうしたんですか?こんな所で?」
誠は少しキョトンとした表情で首を傾げる。
「あー、いや、さっきまで光さんと打ち合わせ?をしてて…」
「そうだったんですか。お疲れ様です」
誠はそう言って微笑むと、類の隣に並んで歩き始める。
「何でお鍋ってわかったの?」
「礼二さんの食事レパートリーと言えば、煮物、焼き魚、鍋の三種類だけです。まぁそれぞれ季節ごとに魚の種類や、鍋の種類が変わるので、それなりに美味しいんですけどね」
「なるほど…」
誠の説明に類は小さく頷く。
「そんなことより…、何かあったんですか?」
「…え?」
突然投げかけられた質問に類は首を傾げる。
「何だか今朝よりも表情が暗く見えたので…」
まさか、そんな事を指摘されるとは思っていなかった類は思わずその場に立ち止まる。
(私…、そんなに暗い表情してたかな…)
類は内心驚きながらも、何故か平然を装う。光にされたことを彼に話せたら、どんなに楽だろうかー。
「誠君…」
「何でしょう?」
「ありがとね…」
類は振り向いた誠に優しく微笑みかける。
「類さん…?」
「じ、実は光さんに怒られちゃって…」
きっと、彼がもう少し大人であれば相談できた内容かもしれない。
「そうだったんですか。でも、光兄さんは誰にでも厳しい人ですからね。あまり気になさらなくて大丈夫だと思います」
「そ、そうかな…、なら、いいんだけど」
類は適当に言葉を濁すと、再び誠の隣に並んだ。
(こんな、気持ち。子供には話せない)
光はそんな類の様子に「ま、お前じゃ無理か」と興味なさげに呟くと、ようやく類の体を解放した。
「さて。それじゃあ、早く降りてくれる?」
「は?」
まるで何事と無かったかの様に、自分を車の外へと降ろそうとする光に類は顔を顰める。
「俺この後仕事なの。だから降りて」
「いや、それ以外に言う事が…」
「何?」
その言葉に、類は先程かけられてしまった呪いを思い出す。
「は、はい…。今降ります」
これ以上、変な事をされたくないので素直に車から下車する。
「あ、そうだ。洋服は後々そっちに送るから、当日ちゃんと着てこいよ?それから、適度に化粧してこい。あ、濃すぎるのはNGね。似合わねぇだろうから、じゃ」
去り際、さりげなく罵倒された類はこめかみに青筋を立てる。
(ってか、今の一連の状況って犯罪では?)
普通に訴えたら今の時代勝てそうな気もするが、その分仕返しが怖そうなのも確かである。
(…なんか、ムカつく)
無理やり命令されることもそうではあるが、何よりも首筋をを舐められた事実が類の思考を掻き乱す。
(あんなの、セクハラじゃない…)
類は汚された首筋をさすると、何故か酷く心が傷ついていることに気がついた。あれでは瑞稀から最低呼ばわりされてしまうのも納得である。
類は何とも言えない表情で本殿へと歩みを進める。途中、鴉にカァカァと鳴かれたことに、もう既に日が落ちかけている事実を認識する。
(はぁ…。折角の休日が…)
特段何かする予定は無かったものの、こうも早く一日が過ぎてしまうと、人生とは本当に一瞬に過ぎ去ってしまうものだと少し物悲しくなる。
「きっと、普通の女の子なら今頃、恋人とデートして、仕事終わりに友達と飲みにいったりして、それから…」
類はそこまで言って言葉に詰まる。
それから、みんな一体何をしてるのだろうー。
いつも一人ぼっちだった類にとって、普通という感覚はよく理解出来ない。普通、皆んなは何をして、何を感じて生きているのだろうか。
境内の大きな木々がザワザワと風で揺れる。
まだ冬前だと言うのに、やけに冷え込みを感じるのはこの場所が神聖な場所であるからかもしれない。
「今日はお鍋がいいな…」
「お鍋だそうですよ?」
突然背後から聞こえた声に、類は驚いて振り返る。
「ま、誠君!」
そこにいたのは、ランドセルを背負った誠の姿であった。
「どうしたんですか?こんな所で?」
誠は少しキョトンとした表情で首を傾げる。
「あー、いや、さっきまで光さんと打ち合わせ?をしてて…」
「そうだったんですか。お疲れ様です」
誠はそう言って微笑むと、類の隣に並んで歩き始める。
「何でお鍋ってわかったの?」
「礼二さんの食事レパートリーと言えば、煮物、焼き魚、鍋の三種類だけです。まぁそれぞれ季節ごとに魚の種類や、鍋の種類が変わるので、それなりに美味しいんですけどね」
「なるほど…」
誠の説明に類は小さく頷く。
「そんなことより…、何かあったんですか?」
「…え?」
突然投げかけられた質問に類は首を傾げる。
「何だか今朝よりも表情が暗く見えたので…」
まさか、そんな事を指摘されるとは思っていなかった類は思わずその場に立ち止まる。
(私…、そんなに暗い表情してたかな…)
類は内心驚きながらも、何故か平然を装う。光にされたことを彼に話せたら、どんなに楽だろうかー。
「誠君…」
「何でしょう?」
「ありがとね…」
類は振り向いた誠に優しく微笑みかける。
「類さん…?」
「じ、実は光さんに怒られちゃって…」
きっと、彼がもう少し大人であれば相談できた内容かもしれない。
「そうだったんですか。でも、光兄さんは誰にでも厳しい人ですからね。あまり気になさらなくて大丈夫だと思います」
「そ、そうかな…、なら、いいんだけど」
類は適当に言葉を濁すと、再び誠の隣に並んだ。
(こんな、気持ち。子供には話せない)