性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 類がこれでもかと大声を張り上げた瞬間、辺りは嘘の様に静まり返った。

 「……」

 「……おや、中々やるね」

 覚の声に類はふと我に帰る。

 「あれ…?」

 先程まで、類達の前に立ちはだかっていた化け物は跡形もなく姿を消し、教室には類と覚の二人きりだけが残された。
 
 「…私、今何を?」

 自分でも状況がよく飲み込めない類は、ただ呆然とその場に立ち尽くす。

 「祓ったのさ…」

 「祓う…?」

 覚の言葉に類は首を傾げる。

 「そう。一時的ではあるが君はあの化け物を払ったんだ」

 「私が…?」

 「そう。君が。まさかとは思っていたけど…」

 覚はそう言って微笑むと、類の頬に手を伸ばす。


 「やはり、君も言霊使いか…」
 

 「言霊使い《ことだまつかい》…?」

 「そう、言霊使い。君の母上と一緒だ」

 「お母さんと一緒…?」

 覚の言葉に類の瞳が揺れる。

 「あぁ、もちろん。君は知らないと思うけど君の母上は素晴らしい言霊使いだった」

 聞き慣れぬ言葉に頭を混乱させる類に、覚は言葉を付け加える。
 
 「陰陽師は言葉とは別に印を結んで術を発動させるだろ?それとは別に言霊だけを自由自在に操れる人間がいるのさ」

 「言霊だけを?」

 「あぁ、あの性悪陰陽師も出来るみたいだけど、あれはかなり高度な訓練の末に完成させたんだろうね」

 「光さんが?」

 「そう」

 覚は目を細める。しかし、何故かその返答に違和感を感じるのは何故だろう。

 「どうして…、そんなこと知ってるの?」

 覚は怨霊だ。本来、怨霊は人の負のエネルギーによって生み出される。よって過去の記憶なんてものは存在しえない。
ハッキリと記憶していないが、類が覚を生み出したのは両親が死んでからのことである。それなのに、何故この怨霊はそんな事実を知っているのか。

 「覚は私に憑いている怨霊よね?なのに何故母がそうだったとわかるの?」

 昔の自分であれば、素直にその言葉を受け入れていたかもしれない。でも、今考えてみれば両親の姿を見たこともない覚が、両親の存在を語ってあの世へと連れて行こうとしていた事自体おかしな話だ。

 「まぁ信じられないのも仕方ないさ。君が産まれる前の話だからね」
 
 「それって…」

 要するに何がいいたいのかー。

 「どう言う意味か…知りたいかい…?」

 覚はそう言うと、口元に怪しい笑みを浮かべる。

 


 そして、


 「私が君の両親を呪い殺したってことさ」

 
 呪いよりも残酷な真実を類へと叩きつけた。
 
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