性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 覚の言葉が冷静に頭の中を木霊する。

 (覚が殺した?、私の両親を?)

 類はゆっくりと覚の瞳を見つめる。何を考えているかわからないその冷たい瞳は類を試す様にこちらを見つめたまま動かない。
 
 「…意味が、わからないわ」

 ようやく絞り出された言葉は酷く小さく、震えていた。

 「まぁ、厳密には私を作り出した人間がー。だけどね」

 「…貴方を作り出した?」

 覚を生み出したのは自分では無いのか?

 「知ってるかい?凄腕の陰陽師ってのは怨霊も生み出せるんだよ?」

 「…凄腕の陰陽師」

 類は一瞬光の姿を思い出す。

 「そして、その怨霊を使って人を呪い殺す事もできるんだ」

 「それって、まさか…」

 類は少し怖くなってゆっくりと覚から距離をとる。

 「そう。君の両親は呪い殺されたのさ。陰陽師の手によってね…」

 覚から話されたまさかの事実に類は混乱する。

 凄腕の陰陽師ー、

 そんなの、思いつくのは一人しかいない。

 「ねぇ、覚、それって…」

 類がその名前を聞こうとしたその時だったー、

 突然、世界がグニャリと歪んだ。

 「な!何?!」

 教室の中が中心の渦に巻き込まれるような感覚に類はよろめく。

 「おや。どうやら憑き物が落とされてしまったようだね…」

 顎に手を当てながら覚は冷静に呟く。

 「ど、どういうこと?!」
 
 「君が人に憑いた怨霊を引き寄せている間に現実世界で、器の気持ちに変化があったのさ」

 「う、器?!」

 「我々はそれを人間というね」

 まどろっこしい説明をする覚に類は顔を顰める。
 
 「まぁ、いい。一旦話はここまでだ。せいぜいあの性悪陰陽師に惑わされるといいー」


 覚は最後にそう言うと、霧のように姿を消した。

 
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