性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。

　「相馬君、どうでした？」

　誠は少し心配そうに、今し方戻ってきた光へ尋ねる。

　「子供は素直でいい…」

　「？」

　「お陰で早く済んだよ、お前にごめんって言っておいてだってさ…」

　光はそう言うと小さく微笑む。

　「そうですか…、それは良かった」

　誠はその言葉に珍しく安堵の表情を浮かべる。

　「にしても、お前も早く言えよな」

　光は溜め息混じりにそう呟くと、誠の頭をくしゃくしゃと撫で回す。

　「や、やめてください！」

　「おら、黙ってた罰だ。今度からは困ったことがあったらちゃんと言えよ？」

　光は誠の頭をこれでもかと撫で回す。

　「わ、わかりましたから！光兄さん！」

　誠はわたわたと両手を振り回しながら、光の攻撃を受ける。

　「今回は被害も最小限で済んだけど、次回からはわかんねぇからな。なんか異変を感じたらすぐ報連相。わかった？」

　光はそう言うとようやく誠の頭から手を放した。

　「わ、わかりました…。それにしても今回は具現化した怨霊が襲って来なくて良かったですね。いつもならそいつらが襲ってくるはずなのに…」

　誠は乱れた髪の毛を手櫛で整えながら光に尋ねる。

　「ま、優秀な囮がいるからな」

　「類さんの事ですか？」

　「そ。あいつが、怨霊と対峙してくれてるから俺は最小限のエネルギーで憑き物落としができるって訳」

　光はそう言うと腕時計を確認する。

　「そろそろかな」

　「そろそろとは？」

　誠が首を傾けた次の瞬間ー。

　

　キャアァァアア！！！


　突然、空から類が落ちてきた。


　光はすかさず、それを受け止める。

　
　「おかえり」

　「？！？！」

　光に受け止められた類はいまいち状況が理解出来ないのか、慌てて光から距離を取る。

　「んだよ。せっかく受け止めてやったのに…」

　「こ、ここは？！？！」

　「学校の裏庭ですよ」

　激しく混乱した様子の類に誠は言葉を付け加える。

　「が、学校？！あ、あれ？誠君…？」

　類は少し状況を理解したのか、誠の顔をまじまじと見つめる。

　「おかえりなさい。類さん」

　誠はそんな類に手を差し伸べると、類はようやく落ち着いたのか、ゆっくりとその手をとるとその場に立ち上がった。

　「えっと…、私…」

　「ご苦労様さん。お前のお陰で穏便に憑き物落としは終わったよ」

　光は類の背後から労りの言葉を投げかける。

　「…」

　しかし、何故か類の表情は曇ったままである。

　「…大丈夫ですか？どこかお怪我でも」

　誠はいつもと違う類の様子に、心配そうに顔を覗き込む。

　「だ、大丈夫！ちょっとビックリしただけだから…」

　「今更ビックリもクソもねぇだろ」

　「…」

　「？」

　いつもなら光に文句の一つでも垂れるはずなのに、何故か今日は光の言葉に一つも反応を返さない。

　「類さん、本当に…」

　再び誠が心配そうに、顔を覗き込む。

　「あ、ごめん。ごめん。大丈夫…」

　類はできる限りの笑顔を作ると、乱れた髪の毛を整える。

　「髪酷すぎ…。俺が直してやるよ」

　光は意地悪そうに笑うと、類の髪に触れようとする。

　しかし、

　「やめて！触らないで！」

　類は勢いよく、光の手を払い除けた。