性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
突然の行動に、光と誠は驚いた表情を見せる。
「…」
光は払われた手を暫く見つめると、小さく溜め息を吐いた。
「…俺また何かした?」
「…いえ、その」
類は戸惑い気味に答えると、どこか怯えた様子で光から視線を逸らす。
「…誠。悪いんだけど先行っててくれる?」
「え、あ、はい。わかりました…」
二人のただならぬ雰囲気を察した誠は指示に素直に従う。
「で、ではまた教室で…」
誠は去り際に一言いい残すと、足早にその場を後にした。
「じゃ、じゃあ私も…」
「お前は駄目」
「ど、どうしてですか…?」
類の質問に光は目を細める。
「どうして?それはこっちの台詞だ」
「…」
「何んで俺の顔を見ない。何んで無視すんの?」
「…」
「俺、お前に何かした?」
光の言葉に類は掌を握りしめる。
「…そんなこと私に聞かなきゃわからないんですか?」
「…?」
「自分が人に何をしたのか聞かないと分からないんですか!って聞いてるんです!」
類は声を張り上げながら怒りを露わにする。
「わかんねぇから聞いてんだろ…」
光は珍しく、困った様に答える。
「たまには自分の胸に手を当てて考えてみたらどうですか?!」
「だから、思い当たる節がねぇ…」
「そんなことない!」
「はぁ?お前、マジでどうした?」
「それはこっちの台詞です!」
「一先ず落ち着け…」
「落ち着ける訳ないでしょ?!このろくでなし!!」
「ッ…、お前いい加減にしろよ」
光はこめかみに青筋をたてると、勢いよく印を結んで指を横へと引いた。
「んぐっ?!むむ!!」
一体どんな術を使ったのかは不明であるが、途端に類の口は上下にくっつき、言葉を発せなくなった。
「【黙れ】っつてんだよ」
「ッ!……」
そして、いつもの如く言霊を使用されるといよいよ何もいい返せなくなってしまった。
「さて、こっからのルール説明。まず俺が質問する。イエスなら一回頷く。ノーなら左右に首を振る。何か言いたいことがあるなら手を挙げる。わかった?」
類はその説明に渋々頷く。
「じゃあ、早速質問。お前が怒ってるのは俺のせい?」
光の質問に類は頷く。
「俺の態度に怒ってる?」
類は首を横に振る。
「俺の言葉に怒ってる?」
類は首を横に振る。
「じゃあ、俺が何かした事を怒ってる?」
類はその質問に小さく頷く。
「それは、お前がこっちに帰ってきてからのこと?」
類は首を横に振る。
「じゃあ、あっちに行く前のこと?」
類は首を縦に振る。光はそこまで聞いて何か納得がいったのか、頭を抱える。
「もしかして…、覚が関係してる?」
類は頷く。
「覚に何か言われた?」
類はなおも頷く。
「じゃあ、何て言われたのか教えて」
光はそう言うと、再び印を結んで術を解除した。
「さ、覚は!」
「【落ち着いて話せ】」
光の言葉に類はハッと息を呑むと、一旦深呼吸をしてから口を開いた。
「覚は…、自分が作られた怨霊だって、凄腕の陰陽師に…、そいつが!私の両親を呪い殺したって…、そ、それで、そんな事…」
酷くまとまりが無い説明ではあるが、涙を流しながら一生懸命に説明する姿に光は静かに耳を傾ける。
「わ、私…、そ、そんな事、出来るの、貴方しか知らない…」
「…」
「そ、それで…、私ッ!」
すると、光は何を思ったのか突然、類の腕を無理やり引っぱって自分の胸元へと抱き寄せた。
「…?!」
突然抱きしめられた類は混乱する。
「そう言うことか…」
「じゃあ、やっぱり…、貴方が…?」
黙りこくる光に、類は思わず顔を上げる。
「どうして!?」
類は涙をポロポロと流しながら光の胸を叩くと、光は再び類のことを力強く抱きしめた。
「…違う」
「今更嘘つかないで!」
類は光から逃れようと、身体をよじる。しかし、光はそれを許さない。
「類。【聞いて】本当に違うんだ…!母さんに誓ってもいい!それは俺じゃ無い。でも…、俺はその陰陽師に心当たりがある…」
「…」
その言葉に、類の身体から力が抜けていく。
「俺はこう見えて陰陽師としてはまだまだ若手なんだ。それなりに鍛錬は積んできたはずだけど、きっと爺ちゃんやベテラン勢には今だに勝てないと思う…」
類は光の言葉に耳を傾ける。
「陰陽師っていうのは死ぬまで現役だ。協会には七十代、八十代のベテラン陰陽師がごろごろいる。そんな中で怨霊を生み出せるのは本当に限られた僅かな奴らだけなんだ…」
「それって…」
類はゆっくりと顔をあげる。
「俺には無理って事…」
どこか自信なさげに答える光に、類は直観的にその話が嘘では無いことを何となく察する。
「例えそんな事出来たとしても、陰陽師が怨霊を生み出すのは禁忌とされている。出来てもやってはいけないのがルールなんだ」
「…協会の、ルール」
「そう。陰陽師の世界もちゃんとしたルールのもとに成り立っている。そんな中で怨霊を生み出すのはルール違反だ」
「じゃあ!誰が!誰が私の両親を!」
類は光に縋る様に尋ねる。
「それは…」
光はそんな類の姿に戸惑いの表情を見せると、類から視線を逸らした。
「お願い…教えて…黙らないで…!囮でも何でもするから、お願い…」
類の搾り出すような言葉に、光の瞳が揺れる。
「…」
「ねぇ…、光さん、…」
すると光は類の耳元に唇を寄せる。
そしてー、
「…多分、親父」
酷く掠れた声が類の鼓膜を震わせた。
「…」
光は払われた手を暫く見つめると、小さく溜め息を吐いた。
「…俺また何かした?」
「…いえ、その」
類は戸惑い気味に答えると、どこか怯えた様子で光から視線を逸らす。
「…誠。悪いんだけど先行っててくれる?」
「え、あ、はい。わかりました…」
二人のただならぬ雰囲気を察した誠は指示に素直に従う。
「で、ではまた教室で…」
誠は去り際に一言いい残すと、足早にその場を後にした。
「じゃ、じゃあ私も…」
「お前は駄目」
「ど、どうしてですか…?」
類の質問に光は目を細める。
「どうして?それはこっちの台詞だ」
「…」
「何んで俺の顔を見ない。何んで無視すんの?」
「…」
「俺、お前に何かした?」
光の言葉に類は掌を握りしめる。
「…そんなこと私に聞かなきゃわからないんですか?」
「…?」
「自分が人に何をしたのか聞かないと分からないんですか!って聞いてるんです!」
類は声を張り上げながら怒りを露わにする。
「わかんねぇから聞いてんだろ…」
光は珍しく、困った様に答える。
「たまには自分の胸に手を当てて考えてみたらどうですか?!」
「だから、思い当たる節がねぇ…」
「そんなことない!」
「はぁ?お前、マジでどうした?」
「それはこっちの台詞です!」
「一先ず落ち着け…」
「落ち着ける訳ないでしょ?!このろくでなし!!」
「ッ…、お前いい加減にしろよ」
光はこめかみに青筋をたてると、勢いよく印を結んで指を横へと引いた。
「んぐっ?!むむ!!」
一体どんな術を使ったのかは不明であるが、途端に類の口は上下にくっつき、言葉を発せなくなった。
「【黙れ】っつてんだよ」
「ッ!……」
そして、いつもの如く言霊を使用されるといよいよ何もいい返せなくなってしまった。
「さて、こっからのルール説明。まず俺が質問する。イエスなら一回頷く。ノーなら左右に首を振る。何か言いたいことがあるなら手を挙げる。わかった?」
類はその説明に渋々頷く。
「じゃあ、早速質問。お前が怒ってるのは俺のせい?」
光の質問に類は頷く。
「俺の態度に怒ってる?」
類は首を横に振る。
「俺の言葉に怒ってる?」
類は首を横に振る。
「じゃあ、俺が何かした事を怒ってる?」
類はその質問に小さく頷く。
「それは、お前がこっちに帰ってきてからのこと?」
類は首を横に振る。
「じゃあ、あっちに行く前のこと?」
類は首を縦に振る。光はそこまで聞いて何か納得がいったのか、頭を抱える。
「もしかして…、覚が関係してる?」
類は頷く。
「覚に何か言われた?」
類はなおも頷く。
「じゃあ、何て言われたのか教えて」
光はそう言うと、再び印を結んで術を解除した。
「さ、覚は!」
「【落ち着いて話せ】」
光の言葉に類はハッと息を呑むと、一旦深呼吸をしてから口を開いた。
「覚は…、自分が作られた怨霊だって、凄腕の陰陽師に…、そいつが!私の両親を呪い殺したって…、そ、それで、そんな事…」
酷くまとまりが無い説明ではあるが、涙を流しながら一生懸命に説明する姿に光は静かに耳を傾ける。
「わ、私…、そ、そんな事、出来るの、貴方しか知らない…」
「…」
「そ、それで…、私ッ!」
すると、光は何を思ったのか突然、類の腕を無理やり引っぱって自分の胸元へと抱き寄せた。
「…?!」
突然抱きしめられた類は混乱する。
「そう言うことか…」
「じゃあ、やっぱり…、貴方が…?」
黙りこくる光に、類は思わず顔を上げる。
「どうして!?」
類は涙をポロポロと流しながら光の胸を叩くと、光は再び類のことを力強く抱きしめた。
「…違う」
「今更嘘つかないで!」
類は光から逃れようと、身体をよじる。しかし、光はそれを許さない。
「類。【聞いて】本当に違うんだ…!母さんに誓ってもいい!それは俺じゃ無い。でも…、俺はその陰陽師に心当たりがある…」
「…」
その言葉に、類の身体から力が抜けていく。
「俺はこう見えて陰陽師としてはまだまだ若手なんだ。それなりに鍛錬は積んできたはずだけど、きっと爺ちゃんやベテラン勢には今だに勝てないと思う…」
類は光の言葉に耳を傾ける。
「陰陽師っていうのは死ぬまで現役だ。協会には七十代、八十代のベテラン陰陽師がごろごろいる。そんな中で怨霊を生み出せるのは本当に限られた僅かな奴らだけなんだ…」
「それって…」
類はゆっくりと顔をあげる。
「俺には無理って事…」
どこか自信なさげに答える光に、類は直観的にその話が嘘では無いことを何となく察する。
「例えそんな事出来たとしても、陰陽師が怨霊を生み出すのは禁忌とされている。出来てもやってはいけないのがルールなんだ」
「…協会の、ルール」
「そう。陰陽師の世界もちゃんとしたルールのもとに成り立っている。そんな中で怨霊を生み出すのはルール違反だ」
「じゃあ!誰が!誰が私の両親を!」
類は光に縋る様に尋ねる。
「それは…」
光はそんな類の姿に戸惑いの表情を見せると、類から視線を逸らした。
「お願い…教えて…黙らないで…!囮でも何でもするから、お願い…」
類の搾り出すような言葉に、光の瞳が揺れる。
「…」
「ねぇ…、光さん、…」
すると光は類の耳元に唇を寄せる。
そしてー、
「…多分、親父」
酷く掠れた声が類の鼓膜を震わせた。