性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 光は酷く疲れ切った顔で自宅の扉前に立っていた。

 時刻は0時30分ー。

 自宅を出たのは20時頃だったというのに、もう既に4時間30分も時間が経過していた事に苛立ちを覚える。

 (クソ…)

 光はポケットから鍵を取り出すと、扉を開いて中へと入る。ふと、足元を見ると女物の靴が目に入った。

 (今日は、ちゃんといい子にしてたか…)

 前回のように外で待たれては色々と面倒だと考えていたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。

 光はゆっくりとした動作で室内へ上がると、リビングのソファで眠りこける類の姿を発見した。

 とても安心しきった様子で眠る類の姿に光は苦笑する。

 (警戒心なさすぎ…)

 光は類の身体を抱き上げると、寝室へと運んでやる。

 以前の自分であれば、こんな面倒な事死んでもやるかと思っていたが、時の流れというのは年齢だけでなく心までも成熟させるようだ。

 (軽いな…)

 霊視では、満足のいく食事を与えられていたのは小学生に上がるまでの事で、それ以降は全ての手間と愛情が下の子供に注がれていた。

 本来であれば、もっと早くに命を落としていてもおかしくない。それなのに、この年まで大きな病気もなく生きてこれたのは案外、覚の存在が大きいのかもしれない。

 (覚…)

 光は類を必要以上にあの世へと連れて行こうとしていた怨霊の姿を思い出す。どことなく目元が母に似ているのは気のせいだろうか?

 光は小さくため息を吐く。いや、まさか。そんなはずはない。そもそも、本当に恨んでいるのなら子供の内にさっさと死に追いやるはずの怨霊が、何故彼女を救ったりなどするのか。

 (まるで、自殺は最終手段…、みたいだな…)

 覚は怨霊だ。優しさの手段も「死」意外存在し得ない。だとしたらあの時、彼女を必要にあの世へと連れて行こうとしていたのは、この先の運命を鑑みての事だったのかもしれない。

 (だとしたら、本当に厄介だ…)

 光は悪い妄想を振り払うと、ゆっくりと類の体をベッドへと寝かせる。このままここで一緒に眠ったら、彼女は一体どんな表情を見せてくれるだろう。

 光は小さく笑みを溢すと、目の前で眠る類の額にそっとキスを落とした。

 「おやすみ、類…」

 (どうか、良い夢を)
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