性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
途端に、類の身体から力が抜けていく。
恐怖心で一杯だった心は妙に静まり返り、冷静に男の顔を見つめることができる。
「お前が言うように、俺は言葉で相手の行動をある程度制御することができる」
にわかには信じ難い話に、類は耳を傾ける。
「普段は滅多なことが無い限り安易に言霊を放ったりはしない。だが、お前が今のように騒げば否応なく利用する。それだけは肝に命じておけ」
まるで忠告のような男の言いつけに、類は再び頷く。
「何か質問は?」
一回では理解できないこと承知しているのか、男は類を組みしだいたまま尋ねる。
「え、えっと…」
突然、質問は無いか?と投げかけられた類は慌ててその内容を考える。
「あ、貴方が私をここに?」
「他に誰がいんだよ…」
「えっと、その…、光さんでいいんですよね?」
類の言葉に男は少し驚いた表情を見せる。
「…エリカに聞いたの?」
「いや、その、夢で知りました」
「夢だと?」
「は、はい…」
何か不味い事でも言っただろうか?途端に険しい顔をする男に類の身体が強張る。
「どんな夢?」
「どんな夢って…」
何故そんなことを聞くのだろうか。
「まさか、覚が出てきた?」
「な、なんでわかったんですか?」
的を得た質問に類は素直に驚く。やはり、この人はただの人では無いらしい。
「マジかよ…」
男はそういって類の上から退くと、両手で顔を覆った。
「な、何がマジなんですか?」
「いや、こっちの話」
男は小さくため息を吐くと再びその場に胡座を描いて座り込む。
「土御門 光《つちみかど ひかる》」
「え?」
「俺の名前…」
男はそういうと、そっぽを向きながら右手を差し出す。
「わ、私は南雲 類といいます!…」
類は慌てて起き上がると、光の右手を握った。すると、一瞬、光の顔が険しく曇る。
「…家、帰りたくねぇの?」
突然の言葉に類は目を見開く。
「な、なんのことですか?…」
「しらばっくれんな、親戚の家だよ…」
まるで知ったような口を開く光に、類は思わず握っていた手を離す。
「どうして、そんなこと…」
確かに、幼くして両親を亡くした類は、親戚の家で肩身の狭い思いをして育った。しかし、そんなこと一言も話した覚えはない。
すると、光は今し方差し出した右手を上げる。
「霊視した」
「れ、霊視…?」
あまりにも人間離れした能力に類は呆気にとられる。そして、ふと光と出会った時のことを思い出す。
「た、確か、光さんは陰陽師さん、でしたよね?」
「…最初にそう言った筈だけど」
「…」
「んだよ…、んな珍しい?」
何とも言えない反応を見せる類に、光はどこか面倒臭そうに尋ねる。
「いや、その…ちょっと驚いちゃって…」
聞きなれない名前に素直な感情を伝えると、類は改めて居住まいを正した。
「じ、実は…、私の両親…、私が小学生の頃に亡くなってしまって…」
類はゆっくりと自身の身の上について語り始める。
「自殺か」
「え…」
まだ話していない事実を言い当てた光に、類の瞳が不安そうに揺れる。
「悪い…、続けて」
「あ、はい…、仰るとおり最初に父が、それを追うように母が亡くなりました…。それで私は遠い親戚の家に預けられたんです」
話の続きを促され、類は再び話を続ける。
「で、最初はとても可愛がってくれたんですが…」
「そのご夫婦に子供が生まれた」
「はい…、仰る通りです」
またもや言い当てられた事実に類は顔を伏せる。
「そこからは、捨てられないように必死でした。毎日母の言いつけ通り家事をして…、妹の面倒とかも全部やってました…」
その結果、高校や大学などには進学させてもらえず、最終学歴は中学止まり。何とか成人した妹を嫁に嫁がせたはいいが、今度はその妹の家族の世話に親の介護…。気づけば結婚適齢期も過ぎた自分の中でふと何かが切れた。
「それで?」
「それで…、色々しんどくて…」
「重かった?」
「はい、とても…、重くて重くて…」
「疲れてた」
「はい。いつも疲れていました…」
毎日家族に気に入られようと色々努力してきたつもりだが、どうにも限界を感じていた。その時、類に声を掛けてきたのが覚だった。
「覚は優しかった?」
「はい…、とても…」
「愛されてると思った?」
「ええ、この世で一番愛してくれている存在だと思いました」
類の言葉に光は失笑する。
「でも、お前、殺されそうになってたけど?」
「それは…!違います!覚は私を解放しようとしてくれたんです!!この苦しい現実から逃す手伝いをしてくれました!」
「まさか、助けてくれるとでも思ったの?」
どこか、嘲笑するように尋ねる光に類は両手を握りしめる。
「はい。少なくとも私の周りに居る人間より優しさを感じました…」
顔を伏せたままそう答える類に、光は一つため息を吐く。
「お前って、お人よしだな…」
光の言葉に類はゆっくりと頭を上げた。
「お前みたいな、奴は怨霊に好かれやすいんだよ」
「怨霊?」
「そ。怨霊。魑魅魍魎ともいうけど…」
光はそういうと、その場に大きく伸びをする。
「でも、お前の場合は体質」
「た、体質ですか…」
「そ。引き寄せやすい体質。だから毎日憑かれてる」
光の言葉に類は小首をかしげる。
「事情はよく分かった…。で、これからどうすんの?」
「どうするって…」
「仕事は?」
「してません…」
「頼れる人は?」
「今の所、その親戚くらいしか…、それか妹家族…」
「金は?」
「無いです…」
「…」
無言のまま押し黙る類に、光は何やら腕を組んで思案する。
そして…、
「三食飯つき…、部屋もやる…」
「…?」
「金もそれなりに出そう。その代わり…俺の仕事を手伝え」
「し、仕事…?」
突然の提案に類は不安気に光を見つめる。すると、光はハッキリとした口調でこう言った。
「お前には【囮の仕事】をやってもらう」
恐怖心で一杯だった心は妙に静まり返り、冷静に男の顔を見つめることができる。
「お前が言うように、俺は言葉で相手の行動をある程度制御することができる」
にわかには信じ難い話に、類は耳を傾ける。
「普段は滅多なことが無い限り安易に言霊を放ったりはしない。だが、お前が今のように騒げば否応なく利用する。それだけは肝に命じておけ」
まるで忠告のような男の言いつけに、類は再び頷く。
「何か質問は?」
一回では理解できないこと承知しているのか、男は類を組みしだいたまま尋ねる。
「え、えっと…」
突然、質問は無いか?と投げかけられた類は慌ててその内容を考える。
「あ、貴方が私をここに?」
「他に誰がいんだよ…」
「えっと、その…、光さんでいいんですよね?」
類の言葉に男は少し驚いた表情を見せる。
「…エリカに聞いたの?」
「いや、その、夢で知りました」
「夢だと?」
「は、はい…」
何か不味い事でも言っただろうか?途端に険しい顔をする男に類の身体が強張る。
「どんな夢?」
「どんな夢って…」
何故そんなことを聞くのだろうか。
「まさか、覚が出てきた?」
「な、なんでわかったんですか?」
的を得た質問に類は素直に驚く。やはり、この人はただの人では無いらしい。
「マジかよ…」
男はそういって類の上から退くと、両手で顔を覆った。
「な、何がマジなんですか?」
「いや、こっちの話」
男は小さくため息を吐くと再びその場に胡座を描いて座り込む。
「土御門 光《つちみかど ひかる》」
「え?」
「俺の名前…」
男はそういうと、そっぽを向きながら右手を差し出す。
「わ、私は南雲 類といいます!…」
類は慌てて起き上がると、光の右手を握った。すると、一瞬、光の顔が険しく曇る。
「…家、帰りたくねぇの?」
突然の言葉に類は目を見開く。
「な、なんのことですか?…」
「しらばっくれんな、親戚の家だよ…」
まるで知ったような口を開く光に、類は思わず握っていた手を離す。
「どうして、そんなこと…」
確かに、幼くして両親を亡くした類は、親戚の家で肩身の狭い思いをして育った。しかし、そんなこと一言も話した覚えはない。
すると、光は今し方差し出した右手を上げる。
「霊視した」
「れ、霊視…?」
あまりにも人間離れした能力に類は呆気にとられる。そして、ふと光と出会った時のことを思い出す。
「た、確か、光さんは陰陽師さん、でしたよね?」
「…最初にそう言った筈だけど」
「…」
「んだよ…、んな珍しい?」
何とも言えない反応を見せる類に、光はどこか面倒臭そうに尋ねる。
「いや、その…ちょっと驚いちゃって…」
聞きなれない名前に素直な感情を伝えると、類は改めて居住まいを正した。
「じ、実は…、私の両親…、私が小学生の頃に亡くなってしまって…」
類はゆっくりと自身の身の上について語り始める。
「自殺か」
「え…」
まだ話していない事実を言い当てた光に、類の瞳が不安そうに揺れる。
「悪い…、続けて」
「あ、はい…、仰るとおり最初に父が、それを追うように母が亡くなりました…。それで私は遠い親戚の家に預けられたんです」
話の続きを促され、類は再び話を続ける。
「で、最初はとても可愛がってくれたんですが…」
「そのご夫婦に子供が生まれた」
「はい…、仰る通りです」
またもや言い当てられた事実に類は顔を伏せる。
「そこからは、捨てられないように必死でした。毎日母の言いつけ通り家事をして…、妹の面倒とかも全部やってました…」
その結果、高校や大学などには進学させてもらえず、最終学歴は中学止まり。何とか成人した妹を嫁に嫁がせたはいいが、今度はその妹の家族の世話に親の介護…。気づけば結婚適齢期も過ぎた自分の中でふと何かが切れた。
「それで?」
「それで…、色々しんどくて…」
「重かった?」
「はい、とても…、重くて重くて…」
「疲れてた」
「はい。いつも疲れていました…」
毎日家族に気に入られようと色々努力してきたつもりだが、どうにも限界を感じていた。その時、類に声を掛けてきたのが覚だった。
「覚は優しかった?」
「はい…、とても…」
「愛されてると思った?」
「ええ、この世で一番愛してくれている存在だと思いました」
類の言葉に光は失笑する。
「でも、お前、殺されそうになってたけど?」
「それは…!違います!覚は私を解放しようとしてくれたんです!!この苦しい現実から逃す手伝いをしてくれました!」
「まさか、助けてくれるとでも思ったの?」
どこか、嘲笑するように尋ねる光に類は両手を握りしめる。
「はい。少なくとも私の周りに居る人間より優しさを感じました…」
顔を伏せたままそう答える類に、光は一つため息を吐く。
「お前って、お人よしだな…」
光の言葉に類はゆっくりと頭を上げた。
「お前みたいな、奴は怨霊に好かれやすいんだよ」
「怨霊?」
「そ。怨霊。魑魅魍魎ともいうけど…」
光はそういうと、その場に大きく伸びをする。
「でも、お前の場合は体質」
「た、体質ですか…」
「そ。引き寄せやすい体質。だから毎日憑かれてる」
光の言葉に類は小首をかしげる。
「事情はよく分かった…。で、これからどうすんの?」
「どうするって…」
「仕事は?」
「してません…」
「頼れる人は?」
「今の所、その親戚くらいしか…、それか妹家族…」
「金は?」
「無いです…」
「…」
無言のまま押し黙る類に、光は何やら腕を組んで思案する。
そして…、
「三食飯つき…、部屋もやる…」
「…?」
「金もそれなりに出そう。その代わり…俺の仕事を手伝え」
「し、仕事…?」
突然の提案に類は不安気に光を見つめる。すると、光はハッキリとした口調でこう言った。
「お前には【囮の仕事】をやってもらう」