性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
第三章【束の間の共同生活】
突然出てきた「囮」という言葉に類は耳を疑う。
「お、囮って、あの囮ですか?」
「想像どおり、囮は囮だ」
光は少々鬱陶しそうに答える。
「まぁ、普通の囮じゃねぇけど…」
「ま、まさか、怨霊の囮とか言わないですよね…?」
今しがた不遇な身の上を話したばかりだというのに、これ以上不幸を被ってなるものかと類は念のため確認をとる。
「嫌ならいいよ。親戚の家でも、あの世でも勝手に逝けよ」
光の心無い言葉に類の瞳が揺れる。怖い人でないのは確かだが、だからと言っていい人という訳では無いようだ。
しばしの沈黙が流れる…。
「で、どうすんの?」
どこか急かすように呟く光に、類は顔を顰める。
「俺も暇じゃ無いからさ。嫌ならさっさと帰って」
「べ、別に嫌なんて一言も言ってないじゃないですか…」
「へぇ…、じゃあやるの?囮」
「それは…」
はっきり言って不安でしかないが、三食飯付き、部屋ありは今の類にとって魅力的でしかない。
「どうすんの…?早く決めてよ」
尚も急かしてくる光に類は頭をフル回転させる。
「ちなみに生命保険とかは無いと思って」
「へ?」
「だから、あんたが死にかけても責任取れないから」
(なんつー契約!?)
それではまるで、最低限生活はさせてやるから死ぬ気で働けと宣うブラック企業となんら変わりはない。
「死のうとしてた割には躊躇するのな」
「そ、それは…」
「どうせ、捨てようとしてた命なんだ。別に今更、生死とかどうでもいいだろ…」
「…」
光の言葉に何故か類の目頭が熱くなる。
(あれ、なんで悲しいんだ…私。)
「…まあ、その代わりといったら何だけど、利用出来る間は責任もって面倒見てやるよ」
今にも泣きそうな類の姿に、光はさりげなく言葉を付け加える。
「それって、死ぬまでは面倒を見てくれるってことですか…?」
「まあ、そうなるな…」
なんだかまるで結婚のような話である。
「ちなみに私がもし、囮としての利用価値が無くなったら…」
「そん時は、他を探す」
「それって、捨てられるってことですか?」
「契約なんてそんなもんだろ」
まるで、利用価値の無いものに興味は無いと言いたげな光の言葉に類は表情を曇らせる。
「要するに、私には囮の価値しかないと…」
「他になんの価値があるんだよ」
「…貴方って、意外と最低ですね」
「俺が善人に見えたか?」
「…」
突き刺すような光の言葉に、類は顔を伏せる。
「わかりました…。やらせていただきます」
しばしの沈黙の後、類はゆっくりと顔を上げた。どうせ、帰るところも無い。かといって社会で通用するスキルも持ち合わせては居ない。類は少し投げやりに光の提案に乗ることを了承した。
「なら契約成立だな。十五時になったら迎えにくる。それまでは休んでおけ」
光はそういって立ち上がると、類の部屋を後にした。本当に暇では無いのか、そそくさと部屋を出て行った光の後ろ姿に、類は小さくため息を吐く。
(了承してしまった…)
正直、怨霊の囮なんていったい何をやらされるのか想像もできない。
(まさか、心霊スポットに出向くなんて言わないよね…)
不安な心持のまま、類は再び布団へと横になる。この際、もうどうでもいいではないか。そう思いたいのに思えないでいる私は一体何がしたいのだろう。
天井を見つめながら小さくため息を吐くと、ひとまず十五時までぼんやりと暇を潰すことにした。
果たして、この選択が吉と出るか凶とでるか、この時の類には知る由も無い。
「お、囮って、あの囮ですか?」
「想像どおり、囮は囮だ」
光は少々鬱陶しそうに答える。
「まぁ、普通の囮じゃねぇけど…」
「ま、まさか、怨霊の囮とか言わないですよね…?」
今しがた不遇な身の上を話したばかりだというのに、これ以上不幸を被ってなるものかと類は念のため確認をとる。
「嫌ならいいよ。親戚の家でも、あの世でも勝手に逝けよ」
光の心無い言葉に類の瞳が揺れる。怖い人でないのは確かだが、だからと言っていい人という訳では無いようだ。
しばしの沈黙が流れる…。
「で、どうすんの?」
どこか急かすように呟く光に、類は顔を顰める。
「俺も暇じゃ無いからさ。嫌ならさっさと帰って」
「べ、別に嫌なんて一言も言ってないじゃないですか…」
「へぇ…、じゃあやるの?囮」
「それは…」
はっきり言って不安でしかないが、三食飯付き、部屋ありは今の類にとって魅力的でしかない。
「どうすんの…?早く決めてよ」
尚も急かしてくる光に類は頭をフル回転させる。
「ちなみに生命保険とかは無いと思って」
「へ?」
「だから、あんたが死にかけても責任取れないから」
(なんつー契約!?)
それではまるで、最低限生活はさせてやるから死ぬ気で働けと宣うブラック企業となんら変わりはない。
「死のうとしてた割には躊躇するのな」
「そ、それは…」
「どうせ、捨てようとしてた命なんだ。別に今更、生死とかどうでもいいだろ…」
「…」
光の言葉に何故か類の目頭が熱くなる。
(あれ、なんで悲しいんだ…私。)
「…まあ、その代わりといったら何だけど、利用出来る間は責任もって面倒見てやるよ」
今にも泣きそうな類の姿に、光はさりげなく言葉を付け加える。
「それって、死ぬまでは面倒を見てくれるってことですか…?」
「まあ、そうなるな…」
なんだかまるで結婚のような話である。
「ちなみに私がもし、囮としての利用価値が無くなったら…」
「そん時は、他を探す」
「それって、捨てられるってことですか?」
「契約なんてそんなもんだろ」
まるで、利用価値の無いものに興味は無いと言いたげな光の言葉に類は表情を曇らせる。
「要するに、私には囮の価値しかないと…」
「他になんの価値があるんだよ」
「…貴方って、意外と最低ですね」
「俺が善人に見えたか?」
「…」
突き刺すような光の言葉に、類は顔を伏せる。
「わかりました…。やらせていただきます」
しばしの沈黙の後、類はゆっくりと顔を上げた。どうせ、帰るところも無い。かといって社会で通用するスキルも持ち合わせては居ない。類は少し投げやりに光の提案に乗ることを了承した。
「なら契約成立だな。十五時になったら迎えにくる。それまでは休んでおけ」
光はそういって立ち上がると、類の部屋を後にした。本当に暇では無いのか、そそくさと部屋を出て行った光の後ろ姿に、類は小さくため息を吐く。
(了承してしまった…)
正直、怨霊の囮なんていったい何をやらされるのか想像もできない。
(まさか、心霊スポットに出向くなんて言わないよね…)
不安な心持のまま、類は再び布団へと横になる。この際、もうどうでもいいではないか。そう思いたいのに思えないでいる私は一体何がしたいのだろう。
天井を見つめながら小さくため息を吐くと、ひとまず十五時までぼんやりと暇を潰すことにした。
果たして、この選択が吉と出るか凶とでるか、この時の類には知る由も無い。