性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
「あー!久々の烏天狗!」
翌日。早朝朝7:00時ー。
類は光の車から下車すると、ハイテンション気味に青空を仰いだ。
「あんま、大声出すな…」
光も遅れて車を下車すると、懐から店の鍵を取り出して類の方へと放り投げる。
「先に店入ってて。俺は郵便ポスト見てから行くから」
「わかりました!」
類は、指示通りに店の扉を解錠すると、久々の店内へと足を踏み入れる。
店内はまだ開店前ということもあり、静まり返っているが、その静けさがやけに類の心を躍らせた。
(早く、エリカちゃんと礼二さん来ないかなー)
今日のシフトは確かあの二人である。類は普段座ることの出来ない光の特等席へと腰掛けると、懐からスマホを取り出した。
(早く連絡先交換したいな…)
光にスマホを買ってもらったはいいものの、あまり使用出来ていない事実に小さく溜め息を吐く。
「教えて貰えるかな…」
光に大見得をきったのはいいものの、もし断られてしまったら結構ショックである。
「随分と、難しそうな顔をしているね」
「そりゃあ、まぁ…」
てっきり、光が郵便ポストを確認して帰ってきたのだと思い込んだ類は、勢いよく顔を上げる。しかし、そこには以前、街中で出会った陰陽師の姿があった。
「…」
突然の来訪者に類は、思わず黙り込む。
「やぁ、久しぶり。それ、君のスマホ?良かったら、僕と連絡先でも交換しない?」
「ど、堂上さん…」
類は男の名前を口にすると、思い切り警戒心を露わにする。確か名前は堂上彰といったか。
「で、どうしたの?そんな怖い顔して」
「いつからそこに居らしたんですか?」
全くといっていいほど、気配を感じなかったことに類は少し恐ろしくなる。
「僕?、最初からいたよ?なんなら、君と一緒に店内に入ってきたんだけど…」
堂上はさも当然の様に答える。
「いや、でも先程までいませんでしたよね?」
「そりゃ、まぁ気配を消していたからね」
「なんで、わざわざそんな事を…」
類の言葉に堂上は嬉しそうに微笑む。
「だって、君はエリート陰陽師君の婚約者な訳だし。あ、この前は怖がらしちゃってごめんね。僕も色々必死だったからさ」
堂上はそう言うと、机の上に置かれたメニュー表を手に取る。
「そ、そんなことより光さんに何かご用ですか?」
「どうして、そう思うんだい?」
「だって、お店に来ている訳ですし…」
類は戸惑い気味に尋ねる。
「まぁ、そうだと言えばそうだし、違うと言われたら違うかな」
「はあ…」
何とも曖昧な回答に類も曖昧な反応を返す。
「はは、ごめんごめん。そんなんじゃ分からないよね」
堂上はメニュー表を再び元の場所へと戻すと机の上で両手を組む。
「君を、デートに誘いたくて」
「…」
「冗談だって」
わかりやすく顔を顰めた類に堂上は再び、ごめん、ごめんと謝罪する。
「いや、実はね、仕事を手伝って欲しいんだ」
「仕事…ですか」
「そ、僕一人じゃ怖くってさ…」
堂上はわざとらしく眉根を下げて困った表情を作って見せる。
「それは…、私にって事ですか?」
「まぁ、厳密にはそうなんだけど…」
そこまでいいかけると、堂上は何かを察したのか突然、目の前で素早く印を結んだ。
コンマ数秒の差で、堂上の周りに無数の札が襲いかかる。
「な、何?!」
突然、押し寄せてきた札に類はパニックになるが、堂上は全くと言っていいほど冷静に微笑んでいる。しかも、彼の周りには薄い膜のような物が張り巡らされ、札は全て弾かれ地面へと落ちていく。
「ごめん、手が滑った」
後方より響いた光の声に類は思わず振り返る。どうやら、今の一連の状況は彼が作り出したものらしい。
「比較的わかりやすい殺気だったからね…」
堂上は再び印を結んでみせると、今度は床に落ちた札を一瞬で焼き払う。
(…凄い)
今までにも、術の類は幾度となく見てきたはずなのに、こうも目の前で分かりやすく披露されてしまうと、本物の魔法を見せつけられている感覚に陥ってしまう。
「何しに来た」
「彼女に仕事の依頼を…ね」
「断る」
「それを決めるのは彼女だ」
堂上はそう言うと、再び類に微笑みかける。
「どうかな?嫌なら無理にとは言わないけど…」
意外にも強引ではないその言葉に、類は「お話だけなら…」と一先ず内容を聞いてみることにした。
「良かった。頼みたい仕事って言うのは、もちろん囮の仕事なんだけど…」
囮という言葉に類はピクリと肩を震わす。
「ある、廃墟の洋館で怨霊が大量発生しているらしいんだ…、原因は鋭意調査中なんだけど余りにも量が多すぎてね、近隣に住む人間にまで影響が出ている」
「はあ…」
「それで急遽、その建物に憑いた怨霊を祓う必要が出てきたわけ。ただ結構な量いるから囮の数も一人では足りないんだ…。君の他にも僕と友人の婚約者が数名来る。そこに君も参加して欲しいんだけど…」
堂上はそこで言葉を切ると、少し間を置いてから再び「どうかな?」と類に遠慮気味に意見を尋ねる。
「もちろん、報酬は支払うよ?」
「報酬…?」
「おや、もしかして、協会から報酬を貰ってないのかい?」
堂上はわざとらしく驚いてみせる。
「ちなみに、今回この仕事を成功させたら協会は一人五千万支払うと言っている」
「そ、そんなに?!」
とんでもない額に類は驚く。
「そりゃそうさ、君たちは命を張る訳だからね…そこに居るエリート陰陽師君は知らないけど、僕ら陰陽師より君たちの方が収入がいいんだよ?これくらいの報酬は皆んな貰ってるはずだけど…」
堂上はそう言うと、光の方をチラリと盗み見る。
今の話が本当であるなら、あのブラックカードに入っているお金は全て、歴代の囮が稼いできた命そのもの…、と言うことになる。恐らく類が知らぬうちに稼いだ金もそこに入っているのだろう。
それを光は自由に使っていいといったー。
「…光さん、今の話本当ですか?」
類は信じられないと言った様子で光の方へと視線を向ける。いつも通り、顔半分をマスクで覆った光は何を考えているのかわからない。だが、その瞳はどこか冷たく堂上を見つめている。
「光さん!」
「お前は知る必要ない」
「そんな…」
「ちなみに…」
堂上が追い打ちをかけるように口をはさむ。
「不当な報酬で囮と契約を結んだ陰陽師は場合によっては一ヶ月の停職、および階級の降格って事もあるから気をつけてね」
店内が静まり返る。
まだ開店前なのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、その空気はどんよりと重たい。
「ま、僕が言いたいことはそれだけ。もし協力してくれる気になったら連絡ちょうだい。はい、これ僕の連絡先ね」
堂上はそう言うと、机の上に置かれた紙ナプキンを一枚取りその表面に指先で番号を書いた。覚えられないからペンで書いて欲しいとお願いすると、堂上はクスリと笑った。
「必要ないよ、よく見ててごらん」
すると、今し方書いたであろう場所が何かを炙り出すように赤く燃えていく。そこにはしっかりと堂上の連絡先が明記されていた。
「凄い…」
きっとこれも術の類である事は間違いないのだが、ここまで自然に披露されるといよいよ、言葉を失いかける。
「手伝ってくれたら、もっと凄い物を見せてあげるよ」
堂上は最後に、そう言い残すと一瞬にして店から姿を消した。
(今のも術かな…?)
翌日。早朝朝7:00時ー。
類は光の車から下車すると、ハイテンション気味に青空を仰いだ。
「あんま、大声出すな…」
光も遅れて車を下車すると、懐から店の鍵を取り出して類の方へと放り投げる。
「先に店入ってて。俺は郵便ポスト見てから行くから」
「わかりました!」
類は、指示通りに店の扉を解錠すると、久々の店内へと足を踏み入れる。
店内はまだ開店前ということもあり、静まり返っているが、その静けさがやけに類の心を躍らせた。
(早く、エリカちゃんと礼二さん来ないかなー)
今日のシフトは確かあの二人である。類は普段座ることの出来ない光の特等席へと腰掛けると、懐からスマホを取り出した。
(早く連絡先交換したいな…)
光にスマホを買ってもらったはいいものの、あまり使用出来ていない事実に小さく溜め息を吐く。
「教えて貰えるかな…」
光に大見得をきったのはいいものの、もし断られてしまったら結構ショックである。
「随分と、難しそうな顔をしているね」
「そりゃあ、まぁ…」
てっきり、光が郵便ポストを確認して帰ってきたのだと思い込んだ類は、勢いよく顔を上げる。しかし、そこには以前、街中で出会った陰陽師の姿があった。
「…」
突然の来訪者に類は、思わず黙り込む。
「やぁ、久しぶり。それ、君のスマホ?良かったら、僕と連絡先でも交換しない?」
「ど、堂上さん…」
類は男の名前を口にすると、思い切り警戒心を露わにする。確か名前は堂上彰といったか。
「で、どうしたの?そんな怖い顔して」
「いつからそこに居らしたんですか?」
全くといっていいほど、気配を感じなかったことに類は少し恐ろしくなる。
「僕?、最初からいたよ?なんなら、君と一緒に店内に入ってきたんだけど…」
堂上はさも当然の様に答える。
「いや、でも先程までいませんでしたよね?」
「そりゃ、まぁ気配を消していたからね」
「なんで、わざわざそんな事を…」
類の言葉に堂上は嬉しそうに微笑む。
「だって、君はエリート陰陽師君の婚約者な訳だし。あ、この前は怖がらしちゃってごめんね。僕も色々必死だったからさ」
堂上はそう言うと、机の上に置かれたメニュー表を手に取る。
「そ、そんなことより光さんに何かご用ですか?」
「どうして、そう思うんだい?」
「だって、お店に来ている訳ですし…」
類は戸惑い気味に尋ねる。
「まぁ、そうだと言えばそうだし、違うと言われたら違うかな」
「はあ…」
何とも曖昧な回答に類も曖昧な反応を返す。
「はは、ごめんごめん。そんなんじゃ分からないよね」
堂上はメニュー表を再び元の場所へと戻すと机の上で両手を組む。
「君を、デートに誘いたくて」
「…」
「冗談だって」
わかりやすく顔を顰めた類に堂上は再び、ごめん、ごめんと謝罪する。
「いや、実はね、仕事を手伝って欲しいんだ」
「仕事…ですか」
「そ、僕一人じゃ怖くってさ…」
堂上はわざとらしく眉根を下げて困った表情を作って見せる。
「それは…、私にって事ですか?」
「まぁ、厳密にはそうなんだけど…」
そこまでいいかけると、堂上は何かを察したのか突然、目の前で素早く印を結んだ。
コンマ数秒の差で、堂上の周りに無数の札が襲いかかる。
「な、何?!」
突然、押し寄せてきた札に類はパニックになるが、堂上は全くと言っていいほど冷静に微笑んでいる。しかも、彼の周りには薄い膜のような物が張り巡らされ、札は全て弾かれ地面へと落ちていく。
「ごめん、手が滑った」
後方より響いた光の声に類は思わず振り返る。どうやら、今の一連の状況は彼が作り出したものらしい。
「比較的わかりやすい殺気だったからね…」
堂上は再び印を結んでみせると、今度は床に落ちた札を一瞬で焼き払う。
(…凄い)
今までにも、術の類は幾度となく見てきたはずなのに、こうも目の前で分かりやすく披露されてしまうと、本物の魔法を見せつけられている感覚に陥ってしまう。
「何しに来た」
「彼女に仕事の依頼を…ね」
「断る」
「それを決めるのは彼女だ」
堂上はそう言うと、再び類に微笑みかける。
「どうかな?嫌なら無理にとは言わないけど…」
意外にも強引ではないその言葉に、類は「お話だけなら…」と一先ず内容を聞いてみることにした。
「良かった。頼みたい仕事って言うのは、もちろん囮の仕事なんだけど…」
囮という言葉に類はピクリと肩を震わす。
「ある、廃墟の洋館で怨霊が大量発生しているらしいんだ…、原因は鋭意調査中なんだけど余りにも量が多すぎてね、近隣に住む人間にまで影響が出ている」
「はあ…」
「それで急遽、その建物に憑いた怨霊を祓う必要が出てきたわけ。ただ結構な量いるから囮の数も一人では足りないんだ…。君の他にも僕と友人の婚約者が数名来る。そこに君も参加して欲しいんだけど…」
堂上はそこで言葉を切ると、少し間を置いてから再び「どうかな?」と類に遠慮気味に意見を尋ねる。
「もちろん、報酬は支払うよ?」
「報酬…?」
「おや、もしかして、協会から報酬を貰ってないのかい?」
堂上はわざとらしく驚いてみせる。
「ちなみに、今回この仕事を成功させたら協会は一人五千万支払うと言っている」
「そ、そんなに?!」
とんでもない額に類は驚く。
「そりゃそうさ、君たちは命を張る訳だからね…そこに居るエリート陰陽師君は知らないけど、僕ら陰陽師より君たちの方が収入がいいんだよ?これくらいの報酬は皆んな貰ってるはずだけど…」
堂上はそう言うと、光の方をチラリと盗み見る。
今の話が本当であるなら、あのブラックカードに入っているお金は全て、歴代の囮が稼いできた命そのもの…、と言うことになる。恐らく類が知らぬうちに稼いだ金もそこに入っているのだろう。
それを光は自由に使っていいといったー。
「…光さん、今の話本当ですか?」
類は信じられないと言った様子で光の方へと視線を向ける。いつも通り、顔半分をマスクで覆った光は何を考えているのかわからない。だが、その瞳はどこか冷たく堂上を見つめている。
「光さん!」
「お前は知る必要ない」
「そんな…」
「ちなみに…」
堂上が追い打ちをかけるように口をはさむ。
「不当な報酬で囮と契約を結んだ陰陽師は場合によっては一ヶ月の停職、および階級の降格って事もあるから気をつけてね」
店内が静まり返る。
まだ開店前なのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、その空気はどんよりと重たい。
「ま、僕が言いたいことはそれだけ。もし協力してくれる気になったら連絡ちょうだい。はい、これ僕の連絡先ね」
堂上はそう言うと、机の上に置かれた紙ナプキンを一枚取りその表面に指先で番号を書いた。覚えられないからペンで書いて欲しいとお願いすると、堂上はクスリと笑った。
「必要ないよ、よく見ててごらん」
すると、今し方書いたであろう場所が何かを炙り出すように赤く燃えていく。そこにはしっかりと堂上の連絡先が明記されていた。
「凄い…」
きっとこれも術の類である事は間違いないのだが、ここまで自然に披露されるといよいよ、言葉を失いかける。
「手伝ってくれたら、もっと凄い物を見せてあげるよ」
堂上は最後に、そう言い残すと一瞬にして店から姿を消した。
(今のも術かな…?)