性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 「で、どーすんの?」

 堂上が姿を消して直ぐに光は不機嫌そうに口を開く。

 「どうするって、光さんの方こそどーなんですか?」

 まるで他人事の様に尋ねてくる光に類は少しの苛立ちを覚える。ただでさえ、報酬の話を隠されていた事が閑に触ると言うのに、謝罪の言葉一つもないのはどう言う事だろうか?

 「いいんじゃね?五千万。金欠のお前にはもってこいの話じゃん」

 まるで投げやりな反応に類は顔を顰める。

 「断るって言ってたじゃないですか?」

 「話を聞いた手前、もうどうにもできねぇよ。お前の責任。だから、お前が決めろ」

 「わ、私のせいなんですか?!私はただお話を聞いただけです!」

 光のよくわからない謎理論に、類は思わず反論する。

 「じゃあ、お前は、無茶苦茶困って今にも死にそうな奴がいるから助けて欲しいって頼まれてるのに、散々話聞いてやった後で、やっぱやめますって言えんのかよ」

 「べ、別に今回は誰かが憑かれている訳じゃないじゃないですか!建物に怨霊が憑いていて周辺に影響が出てるからって話だったじゃないですか!」
 
 「周辺に住む人間に影響が出ているってのは、下手したら昔のお前みたいに魔が刺す奴が出ているって事だ!」

 「昔の私みたいに…」

 「古くからある建物や場所の影響で、その近辺に住む奴らが取り憑かれている場合、その地は忌地となる。忌地となった場所は自殺や事件、事故が増える」

 「それって…」

 類の顔から血が引いていく。

 「要するに、かなりヤバいってこと…」

 光の言葉にようやく、ことの重大さを知る。

 「そもそも堂上は最初に仕事の依頼だと言った。その時点で囮の仕事である事は何となく理解できただろ…、あの時点で断っておけば済んだ話を…」

 光は何やらブツブツ呟くと盛大に溜め息を吐く。

 「ど、どうしましょう…、やっぱり行かないとダメ…ですよね?」

 何となしに悩み相談を聞く感覚で話を聞いてしまった類の心に後悔の念が押し寄せる。

 「お前が人間として正しい生き方をしたいんなら、行くべきだろうな…」
 
 光の言葉が類の胸に、ぐさりと刺さる。

 「そ、そうですよね…」

 人の生死がかかっているいるのだ。それを「行きたくないから」という理由で断れるほど度胸がある訳ではない。

 「ただ、覚悟して行った方がいい。あいつが持ってきた仕事だ。下手したらマジで終わる可能性がある」

 「お、終わる可能性…」

 中々嫌な響きに類の背筋が凍る。

 「いや、だとしたらそれが狙いかな…」

 何やら不穏な事をブツブツと呟く光に類は顔を強張らせる。少し前であれば、命を落とす事なんてなんとも思わなかった筈なのに、こうも死を間近に感じると強く生きたいと思ってしまうのは何故なのか…。

 「あの、」

 「何?」

 「報酬の話…、どうして隠してたんですか?」

 類は先程の堂上との会話で気になった報酬の件について聞いてみる。

 「…」

 「…きっと、何か理由があるから、ですよね?」

 「何で…そう思うの?」

 光はどこか意外そうに類を見つめる。

 「だって、私の知ってる光さんは意味もなく隠したりしませんもん…」

 「お前を騙すつもりだったかもよ?」

 「騙すなら、もっと上手くやります。特に貴方なら…」

 そう。きっとあの場に堂上を入れたのは相当な緊急性を感じていたから。追い出そうと思えば幾らでも追い出せた。隠そうと思えば幾らでも隠せた。それでもそれをしなかったのは、彼なりの優しさなのだと思った。

 「人ってさ…」



 金があると変わるんだ。



 光はポツリ、ポツリ、と呟き始める。

 「金の他にも名声とか、権力とか、他にも数えたらキリがないけど…、一番人を変えてしまうのは金だと思ってる。金は人を良い方へも変えるし、悪い方へも変える」

 まるで、そういった人間を今までに何人も見てきた。という口ぶりに類は静かに耳を傾ける。

 「良い方へ転がればそれはいいと思う。金は豊かになる為のツールだ。賢い人間に渡れば賢く使ってくれる。でも、そうでない人間にとって金は目的だ。金の為に容易く闇に堕ちていく…正直お前はどちらか分からない。ただ、金を持った事ない人間が一夜にして財を築くと、金のエネルギーに振り回される」

 「お金のエネルギー?」

 「よく、宝くじが当たった人間は不幸になるって聞くだろ?あれは今まで少ないエネルギー量で生きていた所に沢山のエネルギーが集中してバランス感覚を失うからだ」

 光はそう言って、店内に飾られている天秤に触れる。

 「少し重いくらいのエネルギーならまだしも、とんでもない量のエネルギーが加わるとどうなるか…」

 光は天秤の片側を思い切り下に降ろす。



 ガシャン!!


 「こうやって、壊れるんだ…」


 天秤は見事にバランスを失い、支軸が外れてしまった。


 「だから黙ってた。お前には、まだ壊れて欲しくなかったから」

 「まだ…?」

 不穏な言葉を発する光に類の瞳が揺れる。

 「そう…。まだ…駄目…、駄目なんだ…」

 光はブツブツと独り言の様に呟きながら、類の方へと近づいていく。その表情は何を考えているのか分からない。

 「光…さん…?」

 光のどこか異常な雰囲気を察した類は咄嗟に座席から立ち上がり、後ずさる様にして距離を取る。

 「だってさ、そんなの許されないだろ…」

 光は類を壁際まで追い詰めると、両の手を壁に付く。逃げ場の無くなった類は、その恐怖心から獲物に囚われた小動物の様に身体を震わせる。

 「怖がんなよ…」

 「ッ…」

 「俺はさ、こう見えて結構…」

 光はそう言うと、ゆっくりと類の頭を撫で、そっと耳元へと唇を寄せた。



 「嫉妬深いからさ」
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