性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 直に耳元で響いた光の声に類は顔を背けようとする。

 しかし、光は類の顎を掴んで離れる事を許さない。

 「お前が、俺以外に壊されるのは我慢ならないんだ…」

 「ッ、光さん…」

 わざと吐息混じりに、囁く光に類はこれでもかと抵抗する。

 すると、光は何を思ったのか顎を掴んでいる方の親指を類の口の中に無理やり侵入させた。

 「んぐッ!」

 その骨貼った指先は口内を自由自在に動き回ると、類の舌を弄ぶ。

 「い、あるさん!」

 舌先をこねくり回され、上手く話すことができない類は涙ながらに抵抗する。

 「あー、クソ…」

 しかし、光はそんな事お構いなしに顎を掴みながら片方の手で口内をいじくりまわす。

 まるで顔半分を潰す勢いで、親指の他にも人差し指と中指も侵入させると、耳元で悩ましげに溜め息を吐いた。

 「女の子の舌ってさ、何でこんなに柔らかいんだろ…」

 光は小さな声で呟くと、もう片方の手を類の背中へと回して思い切り抱き寄せる。

 何故だが、その一連の行為が酷く卑猥なものに感じた類は顔を真っ赤に染め上げる。

 「でも、やっぱ指じゃ物足りないかな…」

 光は類の口から指を引き抜くと、顔を両手で包み込む様にして上を向かせる。

 「ひ、光…さん?」

 まるで獲物を捕食する狼の様に、光は類に口付けようとする。


 その時だったー。


 「おーい、イチャつくんなら他所でやれ」

 マジで心臓が飛び出る五秒前、店内の電気が一斉に点灯する。

 「えぇ?!何?何?ヒカルン何してたの?」

 入り口の方からエリカと礼二が顔を出す。エリカに関してはどこか興奮気味に声を張り上げている。

 光は二人の登場に小さく溜め息を吐くと、ようやく類の顔から手を離した。

 「ねぇ!ねぇ!ヒカルン何してたの?」

 「歯の検査」

 「はぁ?」

 光の返答にエリカは怪訝そうな表情を見せる。

 「礼二、早かったな…。ってもうこんな時間かよ」

 光は時計を見ると、慌てて開店準備を始める。

 ポツンと残され放心状態の類は少しホッとしたのか、よろめく様に壁に手をつくと、跳ね上がった心音を整えるためゆっくりと深呼吸を繰り返す。

 「おーい。大丈夫か?」

 類は何とか、小さく頷くと礼二は少し言いにくそうに頭を掻いた。

 「あー、なんだ?そのー、あー言うことは他所でやれ…」

 礼二の変な気遣いに類は両手を思い切り顔を上げて弁解する。

 「べ、別に!なんもしてませんよ!光さんが勝手に口の中に指をッ?!」

 類が話を続けよとすると礼二は慌てて類の発言を静止する。

 「あいつの嗜好を大声で叫ぶな…」

 「嗜好?」

 礼二の言葉に類は首を傾げる。

 「そ、それって光さんは…あぁ言うことするのが好きって事…ですか?」

 「まぁ、そうなるな…」

 「…」

 まるで犯罪者でも見る様な類の視線に、礼二は目頭を抑える。

 「お前のいいたいことはよくわかる。でも男にはそう言う嗜好が色々とあんだよ…」

 「ただの変態じゃないですか…」

 「あいつの名誉の為に言っておくけど、誰かれ構わずって訳じゃねぇぞ?気に入った女の子にそう言うことしたくなっちまうんだと…」

 礼二の言葉に類は再び首を傾げる。

 「何でそんな事、礼二さんが知ってるんですか?」

 「男同士ってのは、時々そう言う話もすんだよ…」

 「直接聞いたって事ですか?」

 「まぁ、昔見てたエロ本がバレて…そん時に偶々あいつの性癖を知っちまったっていうか…、なんて言うか…」

 礼二は「うえっ」と思い出したくもない過去を思い出す。

 「だからまぁ…、その、そういう事は外であんま喋んない方が為だぞ…?あいつのファンが知ったら発狂もんだしな…」

 礼二はチラリと窓の外を見る。

 そこには開店前だと言うのに、既に大勢の女性客が列を成して並んでいる。

 「…すごい人」

 「昨日の夜、エリカが口滑らして光が来ること話しちまったからな…」

 礼二はやれやれと言った様子で頭を横に振る。

 「も、もしかして今の見られてたんじゃ…」

 「さぁな?まぁでも、俺らがここに着いた時カーテンは全部閉まってたみたいだから、多分大丈…」

 「礼二!」

 「うわっ!は、はい!」

 突然、厨房から響いた光の怒声に礼二はその場で背筋を正す。


 「何やってんだ、さっさとしろ!」

 「わ、わぁってるよ…!ま、そういうことだから、さっさと支度してこい。お前には色々新しくなったメンバーとか紹介したいからさ」

 礼二はそう言うと、慌てて厨房の方へと姿を消した。
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