性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 「はい。じゃあ朝礼するから、みんな並んで」

 光の鶴の一声によって、従業員達は綺麗に整列をする。類も同じようにエリカの隣へと整列すると「お前はこっち」と指先で光の隣に立つよう指示される。

 「えーっと…、おはよう」

 「「おはようございます!」」

 光が挨拶をすると従業員達も元気に挨拶を返す。

 「今日は、何かわかんねぇけど…、めっちゃ人並んでるから頑張って。あと、今日からここで働くことになった南雲類さん。以前、一回だけここで働いてもらったことあるけど、ほぼ新人だから困ってたら色々教えてやって」

 光の紹介に類は「よろしくお願いします!」と頭を下げる。今思えばこうやって、従業員に紹介をされるのは今日が初めての事だ。

 (前回はもっと適当だったような……)

 類は頭をあげると、自分の前に並ぶ従業員の顔ぶれを見つめる。

 (…何か人変わった?)

 確か、前回はもう少し女性従業員が多かったはずであるが、今はエリカ以外全員が男である。

 「じゃあ、俺はいつも通りあそこの席で仕事してっから…後はよろしく」

 光はそう言うと、礼二の肩を叩いた。

 「うし、んじゃあ店開けんぞ!田中さんは机のチェック、斎藤はレジしっかりやれよー、武藤はアテンドよろしく!、高橋は外に看板出しといて!それから…、エリカ!」

 礼二は最後にエリカの名前を呼ぶ。

 「なーに?」

 「お前は今日一日、こいつの教育係。仕事は後回しでいいから一通り教えてやって」

 礼二の指示に類は「お、お願いします!」と再び頭を下げる。

 「るいちぃー緊張しすぎ!そんな固くならなくても、あーしが手取り足取り教えてあげるから安心しなよ!」

 「エリカちゃん…」

 エリカの優しい言葉に類は少し安堵する。また以前のように意地悪な人だったら、どうしようと内心気が気でなかったのだ。

 「そー、そー。とりわけ、お前には優しくしとかねぇと…後で俺らが絞められちまうからな…」

 礼二は少しげっそりとした表情で、何か思い出すように遠くを見つめる。

 「絞られる…?」

 「あれ?もしかしてヒカルンから何も聞いてない感じ?」

 エリカの言葉に類は素直に頷く。

 「今日から、るいちぃー来るからくれぐれも丁重に扱えって昨日ヒカルンから電話があったの!」

 「え?!、光さん、そんなこと言ってたんですか…」

 「そうそう、んで礼二がそのことを従業員にも説明して回ってたら、女の子の従業員がみんな逆切れしちゃってさー、結局残ったのは今いるメンズだけ。お陰で人手不足なところを今日は、何とかお願いして出てきてもらったの…」

 エリカの説明に類はその場に居たたまれなくなる。要するに自分のせいで女性従業員が辞めてしまい、人手不足解消のために今日無理やり出勤してもらっている、ということになる。

 「そ、そんな!そこまでしなくていいのに…」

 類は少し涙目になると、礼二は小さくため息を吐いた。

 「別にお前のせいじゃねぇよ…、最近の女従業員の行動には目に余るものがあったからな…、多分あいつはそれを見越してんなこと言ったんだと思うぜ?」

 「目に余るもの…?何かあったんですか?」

 すると、礼二はチラリと光の座る席を盗み見る。

 「ストーカー…、それも結構酷かったらしいぜ?」

 「え?、光さんがですか?」

 「馬鹿…!、光にストーカーしてたんだよ、ここの従業員が」

 礼二の説明に類は「なるほど」と小さく頷く。

 「それに、お前のことも話題になってたしな…」

 「え…、そうなんですか…」

 「そりゃ、光がここ最近やけに一緒に居る女っていったらお前だろ…。あわよくばお前をどうにかするつもりだった見てぇだけど、んなの全部あいつには筒抜けだったってこと…」

 「え…、私何かされる予定だったんですか?!」

 「予定っつうか…、既に色々されかけてるところを、あいつが裏から手ぇ回してたって感じかな…」

 礼二の言葉に類は顔を青ざめる。

 「わ、私守られてたってことですか?」
 
 「ま、優しい言葉で言うとそうなるのかな…」
 
 どこか言葉を濁す礼二に、類は小さく首をかしげる。

 「それって…」

 一体どういう意味なのか尋ねようとすると、礼二は突然、類の肩を引き寄せ耳元に口を寄せた。


 「土御門光って男は、お前が思ってる以上にヤバイ奴だってことだ…」

 
 礼二の忠告ともとれる言葉が耳の中を木霊した。
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