性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
「注文入ります!」
開店後の烏天狗は異常なくらいの賑わいを見せていた。時刻はまだ十時だというのに次から次へと、ひっきりなしに現れる客に類は慌ただしく店内を動き回る。
「るいちぃー、顔真っ青だよ?」
途中、エリカに声をかけられると類は力なく微笑んだ。
「ご、ごめん…。私こんな忙しい場所で働くの初めてだから…」
というか、今までまともに仕事をしたことがない類にとって、この慌ただしさはかなり体にくるものがある。
「大丈夫?少し休んでくる?」
エリカは心配そうな表情で休憩を勧めるが、類はありがとうと言ってその申し出を断った。
(私から、お願いしといて今更自由に休憩なんてできないよね…)
「すみませーん!」
「あ、はい!只今!」
類は再び客に呼ばれると、足早に席へと駆け寄る。
「あのー、これ、さっきあんたが運んできたやつよね?」
「は、はい。そうですが…」
席には同い年くらいの年齢の女性が三人、酷く不機嫌な表情を浮かべながら座っていた。
「髪の毛入ってたんだけど?」
一人の女が、そう言うとシフォンケーキを指さして類を睨みつける。
「え…」
類は慌ててシフォンケーキを確認すると、確かにケーキに上に一本の髪の毛が落ちていた。
「も、申し訳ございません!只今別のものと、お取替え…」
類が慌ててシフォンケーキの皿を取ろうと腕を伸ばすと、女は突然皿ごとシフォンケーキを床へと落とした。
「え…?」
パリン!という派手な音と共に店内が一斉に静まり返ると、客の女達は狙ったように「「キャー!!」」と叫び声を上げた。
「何するのよ!」
「え、私はただ…」
「店員さーん!この人が突然お皿を落として…」
「え、ちょっとまって下さい!」
異様な騒ぎに慌てて礼二が姿を現す。
「ど、どうした?」
「えっと…」
「こちらの店員さんが突然お皿を割ったんです!」
女の言葉に、同席していた女達も口をそろえて「びっくりしたー」と大げさに反応を示す。
「わ、私は!」
「どうしてくれるのかしら?おかげでお気に入りの靴が台無しだわ」
まるで、漫画の様な世界の出来事に類は呆然とする。
「大変、申し訳ありません…。今すぐに掃除をして、新しいシフォンケーキをお持ちします」
礼二は慌てて頭を下げると、他の従業員に雑巾を持ってくるよう指示を出す。
「靴はどうしてくれるの?」
「靴につきましては後ほど責任者と話し合いの上…」
「はあ?これからショッピングに行くのに、待たなきゃいけないの?!」
女はヒステリック気味に叫ぶと再び類のことを睨みつける。
「あんたが弁償しなさいよ」
「え…、私ですか?」
「だって、ぶちまけたのあんたじゃない!」
女の迫力に類は肩をすくめる。
「お、おいくらでしょうか…?」
「ざっと、三十万」
「え?!、そんな額…私…」
払えるわけがない。
「ご、ごめんなさい!く、靴は綺麗に拭くので!それで許してはもらえませんか?」
類は何とか頭を下げてお願いをする。しかし、女は相変わらず不機嫌そうな表情で類のことを睨み続けている。
「じゃあ、ここで働くのやめてくれる?」
女の言葉に類は顔を上げる。
「そ、それは…」
「だって、あんた接客向いてないんだもん。さっきから、ちょこまかと見てて不愉快なのよ!」
「おい、あんたらな!」
もはやただのクレームではなく、類への悪口ともとれる発言に、礼二は思わず口を開く。
しかしー、
何故か、続きの言葉が出てこない。
「んぐっ!ん?!」
まるで口にチャックでもされてしまったのか、礼二は焦った様子で口元に手をやる。
「礼二さん…?大丈夫ですか?」
その異様な光景に女達もどこか薄気味悪そうに静まり返る。すると、二人の背後からカツカツと冷たい足音が響いた。
「何事だ」
類はその声に振り返ると、そこには酷く不愉快な表情を浮かべた光の姿があった。
「あ、あの…、髪の毛が混入したケーキのお皿を取り換えようとしたら、こちらのお客様が突然お皿を落とされて、それで…」
「それで?」
「靴が汚れたので弁償しろと…、できないなら私を辞めさせろと…」
自分でも話していて変なことを言っているのは重々承知であるが、できるだけ事実を簡潔に説明する。
「なるほど…」
光は類の説明に一瞬眉を顰めると、女の客へと視線を移す。
「と、うちの従業員は言っておりますが?」
その一声に女たちは顔を青ざめさせる。しかし、
「そ、その子の言い分を信じるの?!」
皿を落とした当の本人は不満気に声を荒げた。
「私達ちゃんと見たのよ!その子がお皿を落とすところを!」
「…では、あなた方お三方意外にそれを証明できる方はいますか?」
光はそう言うと店内を見渡す。
「彼女が、皿を落として割ったと説明できる者はいますか?」
「「「………」」」
「どうやら、いらっしゃらないようだ…」
光はどこか嬉しそうに呟くと、再び三人へと視線を戻す。
「まあ、ですが…、毛髪が混入した件についてはこちらの不手際です。大変申し訳ございません…。本日のお代は結構ですので、どうかこれで矛を収めてはくれませんか?」
いつもの横暴な態度とはまるで違う雰囲気の光に、類は何故か視線が離せなくなる。
「それでもお怒りが収まらないようでしたら…、私が個別に対応させていただきます…」
光はそう言うと黒いマスクを取り外し、自身の胸に手を添えながら深々と頭を下げた。
開店後の烏天狗は異常なくらいの賑わいを見せていた。時刻はまだ十時だというのに次から次へと、ひっきりなしに現れる客に類は慌ただしく店内を動き回る。
「るいちぃー、顔真っ青だよ?」
途中、エリカに声をかけられると類は力なく微笑んだ。
「ご、ごめん…。私こんな忙しい場所で働くの初めてだから…」
というか、今までまともに仕事をしたことがない類にとって、この慌ただしさはかなり体にくるものがある。
「大丈夫?少し休んでくる?」
エリカは心配そうな表情で休憩を勧めるが、類はありがとうと言ってその申し出を断った。
(私から、お願いしといて今更自由に休憩なんてできないよね…)
「すみませーん!」
「あ、はい!只今!」
類は再び客に呼ばれると、足早に席へと駆け寄る。
「あのー、これ、さっきあんたが運んできたやつよね?」
「は、はい。そうですが…」
席には同い年くらいの年齢の女性が三人、酷く不機嫌な表情を浮かべながら座っていた。
「髪の毛入ってたんだけど?」
一人の女が、そう言うとシフォンケーキを指さして類を睨みつける。
「え…」
類は慌ててシフォンケーキを確認すると、確かにケーキに上に一本の髪の毛が落ちていた。
「も、申し訳ございません!只今別のものと、お取替え…」
類が慌ててシフォンケーキの皿を取ろうと腕を伸ばすと、女は突然皿ごとシフォンケーキを床へと落とした。
「え…?」
パリン!という派手な音と共に店内が一斉に静まり返ると、客の女達は狙ったように「「キャー!!」」と叫び声を上げた。
「何するのよ!」
「え、私はただ…」
「店員さーん!この人が突然お皿を落として…」
「え、ちょっとまって下さい!」
異様な騒ぎに慌てて礼二が姿を現す。
「ど、どうした?」
「えっと…」
「こちらの店員さんが突然お皿を割ったんです!」
女の言葉に、同席していた女達も口をそろえて「びっくりしたー」と大げさに反応を示す。
「わ、私は!」
「どうしてくれるのかしら?おかげでお気に入りの靴が台無しだわ」
まるで、漫画の様な世界の出来事に類は呆然とする。
「大変、申し訳ありません…。今すぐに掃除をして、新しいシフォンケーキをお持ちします」
礼二は慌てて頭を下げると、他の従業員に雑巾を持ってくるよう指示を出す。
「靴はどうしてくれるの?」
「靴につきましては後ほど責任者と話し合いの上…」
「はあ?これからショッピングに行くのに、待たなきゃいけないの?!」
女はヒステリック気味に叫ぶと再び類のことを睨みつける。
「あんたが弁償しなさいよ」
「え…、私ですか?」
「だって、ぶちまけたのあんたじゃない!」
女の迫力に類は肩をすくめる。
「お、おいくらでしょうか…?」
「ざっと、三十万」
「え?!、そんな額…私…」
払えるわけがない。
「ご、ごめんなさい!く、靴は綺麗に拭くので!それで許してはもらえませんか?」
類は何とか頭を下げてお願いをする。しかし、女は相変わらず不機嫌そうな表情で類のことを睨み続けている。
「じゃあ、ここで働くのやめてくれる?」
女の言葉に類は顔を上げる。
「そ、それは…」
「だって、あんた接客向いてないんだもん。さっきから、ちょこまかと見てて不愉快なのよ!」
「おい、あんたらな!」
もはやただのクレームではなく、類への悪口ともとれる発言に、礼二は思わず口を開く。
しかしー、
何故か、続きの言葉が出てこない。
「んぐっ!ん?!」
まるで口にチャックでもされてしまったのか、礼二は焦った様子で口元に手をやる。
「礼二さん…?大丈夫ですか?」
その異様な光景に女達もどこか薄気味悪そうに静まり返る。すると、二人の背後からカツカツと冷たい足音が響いた。
「何事だ」
類はその声に振り返ると、そこには酷く不愉快な表情を浮かべた光の姿があった。
「あ、あの…、髪の毛が混入したケーキのお皿を取り換えようとしたら、こちらのお客様が突然お皿を落とされて、それで…」
「それで?」
「靴が汚れたので弁償しろと…、できないなら私を辞めさせろと…」
自分でも話していて変なことを言っているのは重々承知であるが、できるだけ事実を簡潔に説明する。
「なるほど…」
光は類の説明に一瞬眉を顰めると、女の客へと視線を移す。
「と、うちの従業員は言っておりますが?」
その一声に女たちは顔を青ざめさせる。しかし、
「そ、その子の言い分を信じるの?!」
皿を落とした当の本人は不満気に声を荒げた。
「私達ちゃんと見たのよ!その子がお皿を落とすところを!」
「…では、あなた方お三方意外にそれを証明できる方はいますか?」
光はそう言うと店内を見渡す。
「彼女が、皿を落として割ったと説明できる者はいますか?」
「「「………」」」
「どうやら、いらっしゃらないようだ…」
光はどこか嬉しそうに呟くと、再び三人へと視線を戻す。
「まあ、ですが…、毛髪が混入した件についてはこちらの不手際です。大変申し訳ございません…。本日のお代は結構ですので、どうかこれで矛を収めてはくれませんか?」
いつもの横暴な態度とはまるで違う雰囲気の光に、類は何故か視線が離せなくなる。
「それでもお怒りが収まらないようでしたら…、私が個別に対応させていただきます…」
光はそう言うと黒いマスクを取り外し、自身の胸に手を添えながら深々と頭を下げた。